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第1話 レオン物語

 柔らかい光を瞼の裏で感じ、ゆっくりと意識が頭の中に灯る。

まだ覚醒しきらない頭は一瞬意識を持つものの、体を包む毛布の温かさを感じ取るとすぐに覚醒から二度寝を選択する。

そう強く決断した時だった。


「コツコツコツ……」


 窓のガラスではなく桟の木の部分をを叩いているのだろう、乾いた音がリズムよく聞こえてくる。

ちらりと目をやるとベットのすぐ横、窓のすぐ近くの小枝に小鳥が止まっていた。

全長は約14~15センチの全体的に丸い体型と短く柔らかそうな毛並みはそれだけで可愛らしいが、その特徴的な黒くて小さな丸い目はまるで監視するようにじっとこちらを見つめてくる。


「………。」


 一瞬目が合ったはずだが、まるでなかったかのように自然と目を閉じた。

すると目を閉じたのとほぼ同時にその短くて太い円錐形の口ばしを今さっき叩いた場所と同じ場所に素早く打ちつける。


「コツコツコツコツコツ……。」


 さっきよりも随分と長い。心なしか音も大きい様な気がする。

だがこれしきで俺の睡魔が負けることはない。

半ば強引に寝ようとする。


「コツコツコツコツコツコツコツコツコツコツ……。」


ここまできたら最早意地になってきたのであろう布団をかぶり必死に音を聞かないようにする。

対する小鳥も最後の仕上げにとさらに力を込める。


「コツコツコツコツコツコツコツコツコツ……にゃーー。」


「そんな馬鹿な!!」

半ば起きかけていた意識は完全に覚醒した。


小鳥は何の事かと少し首を傾けて見つめてくる。……俺の空耳か。

時が止まったかのように動かないつぶらな瞳が俺をみつめる。まったく、可愛いやつだ。


「はぁあ~、おはよう~」

そういって窓を全開にする。

昨晩雨が降ったのだろう土のにおいがする空気を肺いっぱいに吸い込む。

「ん~~!いい天気だ。」

雨で濡れた葉が太陽の光に反射してきらきらと光っている。日の出で真っ赤に染まった空に一瞬目を奪われる。

「起こしてくれるのはありがたいけど、もうちょっと他にないか?」

と、少し愚痴をこぼす。

ほかにどんな方法があるんだよ、と非難めいた目を向けてくる。

「嘘だよ。いつも起こしてくれてありがとう。」

そういって肩に乗ってきた小鳥の頭を掻いてやる。

気持ち良さそうに目を細める顔にこんな顔するんだ、と新たな発見をした。

こいつは羽が傷ついてうずくまっていたのを俺が治してあげたのだ。

それ以来、すっかり懐かれてしまい朝の弱い俺を毎朝起こしてくれるようになった。


「さて、今日はおやじさんの荷物を運ぶ約束してたな」

洗面所で顔を洗いながら今日の日程を組み立てていく。

顔を拭きながら鏡を見る。

 俺はレオン。14歳だ。顔はよく目が大きいと言われる。身長は170センチで村の男子の平均身長を少し上回る程度だが、手足が長い方らしい。

まぁ、これからまだ伸びるだろうと淡い期待をしている。俺も思春期真っ只中の男の子なのだ。


焼いたパンを頬張りながら牛乳をコップに注ぐ。

この家では俺一人が住んでいる。別に寂しい思いをしたことはない。小鳥をはじめたくさんの動物たちもいる。

それに村に行けばみんなもいる。

 なぜ一人でこんな森の中にいるかはいろいろと訳があるのでまた今度にしよう。

そして何を隠そうこの家は俺が建てたものだ。とはいってもほとんどはおやじさんたちが建ててくれたものなのだが……。

それでも一から完成するまでずっと引っ付いて手伝ったのだ。俺が建てたと言っても文句はないはずだ。

と、ここは強がらせてもらおう。だが実際、もう一軒建ててくれと言われれば人手さえあれば建てる自信がある。

「今日も一日頑張るぞ!」


 森の中、素早く動く一つの影。その影は所狭しと大木の枝と枝とを器用にかつ慣れたように動く。

それはまるで風のように颯爽と突き抜けていく。

「みんなおはよう!」

呼びかけられた動物たちは各々慣れたようにその影に返事をしていく。

がおー、やにゃーなど多種族の動物たちの鳴き声が森の中に木霊していく。

他の誰かが聞けば何事かと騒ぐかもしれないがここは森の中、もちろん人っ子一人いない。

「みんな今日も元気で何よりだ。」

その影は柔らかい笑顔を浮かべながら動物たちに挨拶していく。

するとその影は目の端に湖で溺れている猫を捉えた。

どうやら仲間であろう一匹の猫が湖の岸辺で一生懸命鳴いている。その声は叫び声に近い。

溺れている猫は懸命に泳ぐがその意に反してどんどん岸辺から離れていく。

するとあっという間に湖畔の真ん中まで来てしまい顔から下は水に浸かっていた。


「待ってろ!今助ける!!」


黒い影が進行方向から直角に曲がり猛烈なスピードで水面に近づいていく。

猫が完全に沈む直前、最後の力を振り絞って鳴いたその時、


影が水面に達しバシャンと水しぶきを上げる。湖畔に差した光が影を照らした。

そこには猫を抱え優しく微笑む青年が水辺から飛び出していた。

「よっと、もう大丈夫だ。」

溺れていた猫は突然のことに訳がわからないといった様子できょろきょろと周りを見渡している。

あっという間に岸辺に着き、すぐに待っていた猫に返してやった。

「ここは見た目と違って結構深いんだ。次から気をつけろよ。」

 青年は感動の再会を果たしじゃれあって聞く耳を持たない猫たちに注意を促す。

あまりにも嬉しそうな様子に青年は注意するのを止めやれやれといった様子で肩をすくめている。


「それじゃあな。これからは本当に気をつけろよ。」

そう言って走り去ろうとした時、さっきまでじゃれていた猫が二匹とも体を摺り寄せてきた。みゃーみゃーと可愛らしく鳴いている。どうやら感謝を伝えているのだろう。可愛いやつだ。

「はいはい。分かったから。次からはほんとに気をつけろよ。」

二匹の猫の頭をなでてやりながらもう何度めになるだろう同じ注意を言った。


「んじゃ、もうそろそろ行かないとな。」

しばらく猫とじゃれていたがいつまでもそこにいる訳にもいかず、すっとその場を立ち上がった。

「またな。あばよ。」

そう別れを告げ走り去っていく後ろ姿を二匹の猫は尻尾を絡ませながら見送った。


「ふう。だいぶ時間食っちまったな。まあ、ちゃんと動物の命を救ってたんだし罰は当たらないよな。」

そう自分にいいわけをしつつ、さっきまで触っていた柔らかい毛並みを思い出していた。

「よし!あと少しだ!」

騒がしいいつものみんなの声が聞こえる。村まであと少しと分かりさらに足に力を入れる。

「みんな元気かな。」

そうして温かな光と喧騒の入り混じる和の中へと入って行った。


急に光を感じ思わず目を細める。

「う、眩しい。けど……気持ちいいなぁ。」

両手を広げ太陽の光を全身で受ける。なんとも気持ちいいものだ。

「あっレオンだ!」

「ほんとだレオンだ!」

「おはよう!レオン」

「レオ~~ン!!」

少し離れたところで子供たちが手を振りながら近づいてくる。

おお元気だな。俺も振り返す。「おぉ。おはよう~。」

あっという間に子供たちに囲まれたレオンはすぐにもみくちゃにされた。

「レオン遊ぼう~」

「今日は俺たちと釣りしに行くんだよ!」

「何いってんのよ!あんたたちはこの前遊びにいったでしょ!」

「そーよ!今日は私たちがレオンとお料理するんだから!」

どうやらどちらが俺と遊ぶかで言い争っているようだ。右手を男の子が、左手を女の子が引っ張り合っている。

「まぁまぁ、ここは仲良くみんなで…。」

「レオンは黙ってろ!」「そうよレオンは静かにしてて!」

どうやら俺には発言権はないようだ。


「レオンはこれから俺たちと一緒に池の主を釣りに行くんだよ!」

「何いってんの!レオンはこれから私たちとケーキ作るのよ!!」

こんなやり取りがかれこれ何十回も繰り返されている。さすがに俺も手が疲れてきた。

「いや、俺はこれからおやっ……。」

「「レオンはどっちがしたい(の!!)(んだ!!)」」

そして子供たちの純粋な瞳が俺に一斉に向けられる。

なんとも気まずい……。

俺が黙っていると早く答えをと促すように俺の両手を強く引っ張った。

「いや~、実は俺、今日おやじさんに呼ばれてんだよね。悪い!また今度な!!」

そういって気まずそうな笑顔を浮かべる。

「…なんだよ、そうならそうと早く言えよ。」

「そうよ、おやじさんに呼ばれてるならそう言ってよ。」

そう口ぐちに言って俺の手を離していく。

「いや、だってそう言おうとしたら…。」

「あのおやじ、レオンの邪魔すんなってうるさいんだよな。」

「そうそう、この前作業中のレオンに話しかけに行こうとしたらすごい大声で怒鳴るのよ。」

「はぁ!俺なんかこの前ぶん殴られたんだぞ!!」

またしても俺の発言を遮られ一気に俺の周りに出来ていた輪が崩れていく。

すると一人の男の子が俺に話しかけてきた。

「そういえばおやじさんが今日は朝早くからレオンが手伝ってくれるって言ってたけど…。」

あまりにもさっぱりした態度の子供たちに、茫然としていた俺は一気に現実に戻った。

「しまった!!」

おやじさんとの約束の時からずいぶんと経っていることに今更ながら気づかされたのだ。

「じゃあな!お前ら!!」

「「じゃーねーー!」」

子供たちの返事を待たずにレオンは全力で走り去って行った。


「ぜぇぜぇ…くそっ、こんな、はずじゃ、はぁはぁ…なかったのに…。」

全力で走ってきた俺は息を整えつつ愚痴をこぼす。

「おぉ~レオンやっときたか。」

「トムさん!おやじさんは…。」

 この人はトムさん。23歳。おやじさんの弟子で俺の兄のような存在だ。

すらりと身長は高く日で焼けた肌は健康体そのもので、白い半そでを巻くしあげた腕に無駄な脂肪はなく筋肉に皮が薄く引っ付いているようにみえる。整った顔立ちの白い歯が印象的な人だ。

「おやじさん怒ってたぞ。ふふ。」

トムさんの意地悪な笑顔とは裏腹に俺の顔は青ざめていく。

なぜここまで俺が恐れているのかと言うと……

「こんのクソ餓鬼が!遅いんだよ!!」ドゴンッ

「んぐっ―――――――!!」

とても頭を殴ったとは思えない音とそれに比例した痛みが頭を襲う。

「ハハハハハ」

トムさんの笑う声が聞こえる。ちくしょう。

「お前も笑ってないでさっさと運ばんかい!」ゴッ

「いって~~~~!何で俺まで殴られなきゃっ……」

「うるせえ!」バシンッ

「わ、分かったよ!分かったからもう殴らないでっ!」

どうやら二発食らったのだろう半泣きの声が聞こえる。人の不幸を笑うからそんな目に合うのだ。

「レオンもさっさと運べ。」

「はいっ!」

俺も急いで角材を運ぶ。

 この人はおやじさん。もう分かっているだろうが、大工だ。本名はルイスって言うんだけど村のみんなはおやじさんって呼んでる。

熊を思わせる巨躯に鋭い目つき、そしてもちろんその巨大な身体に等しく筋肉も山のようについている。

表面だけみれば怖い印象を受けるが、なんだかんだ言いながらもちゃんと面倒をみてくれるので村のみんなはなんだかんだ言いながらも慕っている。いわゆる頑固おやじだ。

もちろん、口が裂けても言えない。

 俺の家を建ててくれたのもこの人でほかにもいろいろとお世話になっている。

今は建築の材料である角材を倉庫に運んでいる最中だ。


「ふぅ~~これで最後っと」

どさっと最後の角材を置いて見回してみる。この倉庫はとても大きなつくりで材料の他にのこぎりなどの道具も数多くそろえてある。そしてそれだけ従業員がいるのは言わなくても分かるだろう。

ここでは建築だけではなく屋根や家具の修理はもちろん、害虫の駆除なんかも引き受けている。

まぁようはなんでも屋である。

村のみんなは何か生活に困ったことがあればここにくる。

俺は小さいころからここに入り浸りいろいろなことを手伝ってきた。

……いや、手伝わされてきた。

トムさん達よりも先にいたのだが、みんな俺よりも年上だから俺を弟のように可愛がってくれている。


「レオン、今日はこれで仕事も終わりだし酒でも飲みに行こうぜ~」

「トムさん、俺はまだ未成年ですよ。」

「いいじゃねぇか。少しくらい付き合えよ。」

「おっ、トムさんまたリーナさんの相談ですか。」

他の大工たちがにやにや笑いながらこちらを見てくる。

「大丈夫ですって。トムさんならいけますよ。リーナさんも待ってますよ。」

「…ほんとか?信じるぞ?」

「何回同じこと言わせるんすか?男らしくビシッと決めてくださいよ!」

 リーナさんとはこの村の酒屋の看板娘さんだ。長い亜麻色の髪と細く長い白い手足、整った顔立ちはもちろんふっくらとした小さな唇と、二重のぱっちりとした目と大きな黒目が特徴的な人で物腰の柔らかい大人な雰囲気のある人だ。

 トムさんは昔から気があるもののなかなか思いを告げられずにいた。かくゆうリーナさんも前から気があるものの恥ずかしくて言えずにいるという噂だ。

噂といってもそれは事実のようだが、いかんせん二人の様子は見ているこちらが恥ずかしくなるほどだ。

「その通りだ。全く。早く結婚してがきの顔を見せろ。」

「なに言ってんすか!おやじさん!まだ付き合ってもないのに……。」

「なにうじうじ言ってんだ。傍からみてるこっちの身にもなれ。なんなら俺が代わりに言ってやろうか?」

どっとその場が笑い声で包まれた。

「そりゃあいい!」

「言ってもらえ、言ってもらえ!」

トムさんより年上の先輩達がさらにはやし立てる。

「おやじさんに言われたら嫌でもはいしか言えねぇだろ!」

「そりゃぁどういうことだぁ、トム!詳しく聞こうじゃねぇか!」

さらにどっと笑いがおきいつもの馬鹿騒ぎが始まった。

「今日も平和だ。」


「あぁ、そういえばじじ様がお前を呼んでいたぞ。」

帰り支度を終え帰ろうとしたらおやじさんが声をかけてきた。

「分かりました。帰りにでも寄ってみます。」

「うむ。」

それじゃあ、と帰ろうとしたとき

「んじゃあレオンにはまた今度、トムの恋の結果を教えてやるよ!」

「はいっ!お願いします!楽しみにしてますよ。頑張って下さいねっ!トムさん!!」

トムさんに俺の持てる最大限の激を送る。

「っしゃあ!今日こそは俺の思いを告げるぞぉ!!」

そういって握りこぶしをつくり上にあげる。

心なしかトムさんの背中から炎が燃えているように見える。

「さーて今日はどこまで行くかねぇ」

「俺は目を合わすにりんご12個!」

「んじゃあ俺は話しかけるに家の野菜盛りセット二日分!」

「「おぉ~~~!」」

どうやら賭けが始まったようだ。とはいっても賭けるものは食べ物ぐらいしかないのだが。

この村では各々の家庭が基本自給自足で生活をしている。

高齢者の方々や生活に支障をきたしている方々には隣人の人達で助け合いながら住んでいるのだ。

「人の恋心を使って賭けてんじゃねぇよ!」

トムさんが同輩二人の頭をわきに抱えるようにして絞めつけている。

「じょ、冗談だよ。いてーから離してくれよ。」

「何言ってんだ。それじゃあ俺は――――――」

「ちょっと!おやじさんまでやめてくださいよ!」

わははと笑い声が聞こえてくる。ほんとに仲がいいなぁ。俺も久しく一緒に飲みに行ってない。

飲むとはいってもみんなが騒ぐのを傍でジュースを飲みながら見ているだけなのだが…俺も今度はついて行ってみよう。

「んじゃあ行くかな」

レオンは夕暮れで真っ赤に染めた空に向かって走り始めた。



初めまして、清水です。特に何もない始まりになりましたが、これからも読んでいただければ幸いです。ご感想、ご意見、誤字脱字報告、お待ちしてます。

どうぞこれからよろしくお願いします。

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