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サブヒロイン一筋ですが何か?  作者: ないんだな、それが
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第八話

 リリィとの訓練を終えてから一日経った。

 自分とクレアは待ち合わせ場所である大門の前で、リリィを待っていた。

 昨日は勇気を出すと言っていたが、本当に来るかどうか不安で仕方ない。

 しかし自分の考えは杞憂とでも言いたげに壁へもたれ掛かっていたクレアが目を開くと、下町の方に向けた。


「――来た」

 一体何が、そう聞く前に遠くからガチャガチャと金属の擦れる音を耳にした。

 音のする方向に目を向ければ、首から下を金属鎧で包んだ少女―リリィ―が走っていた。

 背中には因縁がありそうなウォーハンマー。腰には取り回しのよい小ぶりの槌と、かなりの重装備に見えるが、それらの重みを気にした様子が彼女には無い。


 ただこの格好は予想していなかったのかクレアも言葉を失い、何度か目を白黒させる。

 しかしすぐに我に返ると、小さくため息を吐いて額に手を置いた。


「はぁ、はぁ、お待たせしました」

「あぁ、うん。でも、その装備は?」

「これですか? 外は危ないですから、これくらいの方がいいかなぁ、なんて」

 どれだけ心配性なのだろうかと口にしたいが、あれだけ怖がっていたのだ。

 それを言うのは無粋だろうと開きかけた口を閉じようとする。


「リリィは馬鹿? 護衛する身にもなって」

「え、ええ!? い、いけないですか、この装備?!」

 クレアから厳しい言葉が飛んできた。

 せっかく一緒にクエストを行えると思った矢先に、不安要因が生まれ始めた。

 自然と頭が痛くなるのを感じたが、咎める前にクレアの言い分も聞いておくべきだろう。


「今回討伐する生物、ホーンラビットは遅い奴に狙いを着ける。その状態だと多分殺される」

「え、その――」

「仮に生き残りたいなら私やコースケみたいに軽装で行くべき」

 そう言うと、クレアは羽織っていた防寒マントを脱いだ。

 胸部には薄いプレートアーマー、腕部には革の籠手を着けていた。

 もちろん、自分も同じ装備を昨日揃えたが、最低限の場所を守った動きやすい格好だといえる。


「え、ええ? でも、その、私――」

「何? 言いたい事あるならハッキリ言う」

「その、私――動き回るのが苦手なんです」

「はい? どういう――」

「昔からどんくさくて、こういう動き回るって作業を後回しにしてたら、いつのまにか」

 どういう事と言い切る前に、リリィが小さく震えながら答えた。

 その言葉でクレアも諦めがついたのだろう。小さく、ほんの小さくだがため息の零れる音が響いた


「分かった。鎧脱がなくていい。ただ常に傍に居る事、でないと守るの無理」

「はい、分かりました。その、よろしくおねがいします」

 そう言うとリリィが深々と頭を下げていたが、既にクレアの視線は彼女から自分に移っていた。


「私、護衛ある。コースケには最低限のフォローしかしないから」

 言外に頑張って生き残れとの事だろう。

 ただ、自分からリリィの護衛を頼んだのだからある程度の覚悟は、前日に決めていた。

 それに多少の事ならば、癒しの杖で事足りるはずだ、多分。


「それじゃあ、そろそろ出発する。順番はコースケを先頭に私、リリィの順」

 そう言いながら、持って来ていた道具袋から丸いフラスコを二本取り出した。

 きっとクレアなりの緊急時の対策なのだろうが、中身の毒々しい色はどうにかならなかったのかと言いたくなる。

 そんな思いも露知らず、腰にぶらさげていたフックに掛けると、それを隠すようにマントで覆う。


「それじゃ、行こ」

 その言葉と共に歩き始めたクレアとリリィを横目に前へと向かう。

 門から外に出ればいつ魔物に襲われるか分かったものではない。

 思考を切り替えるよう努力をすると、後ろの二人を気に掛けながら前へと向かって足を踏み出した。


 22


 街から出て3時間程たっただろうか。

 以前歩いた道とは違うらしいが、前回同様あたり一面代わり映えしない雪景色であり、少々退屈さを覚えていた。

 最初あたりはリリィも魔物に怯えるように周囲をきょろきょろと見渡していたが、今では目移りするものがないのか、遠くの雲を眺めていた。


 そんな中、唯一自分の武器とも言える人形を宙に浮かせ周囲を警戒していたクレアが足を止める。

 聞いていた目的地はまだ先の筈だが、一体どうしたのだろうと振り向けば小さな鼻を小刻みに動かしていた。


「血の匂い」

「え?」

「もしかしたらマズイ、かも」

「そんな匂い何処にも? ――くしゅん」

 同じように血の匂いをかごうとするが、冷たい空気が突き刺さり、二人してくしゃみが出た


「汚い」

 もっともらしい意見ではあるが、誰だって寒い目にあれば出るものも出てしまう。

 ただ何度匂いをかいでも、クレアの言う血の匂いは一向に感じられない。


「勘違いじゃないのか? それよりも先に――」

 と、先へと促すように声を上げかけるが、雪を踏みしめる音を確かに耳にした。

 慌てて腰に掛けていた武器に手を掛けて音のする方へと向けば、小さなウサギが一匹姿を表した。


「う、うさぎ?」

 自分に確認するように呟くが、それよりも先にクレアがマチェットを抜きながら近寄ってきた。


「それホーンラビットの子供。でも、一匹だけなのは珍しい」

「こ、こんなにかわいいのに魔物なんですか?」

 魔物と聞いた瞬間肩ひじを張ったリリィが、恐る恐るそれに指をさした。

 実際のところ現代でもよくみるウサギとそう変わりはない。

 危険はないだろうと武器から手を離そうとするが。


「ただ、今はちょうど良い」

 そう言うと同時にクレアは手に持っていたマチェットで、ホーンラビットの右足を切り落とした。

 直後、ホーンラビットからキィィィィと甲高い鳴き声が上がるが、それを気にする事無く首根っこを掴むと、こちらへと放り投げた。


 隣からヒッと言う悲鳴を耳にしたが、そういう自分も理解が追い付かず、必死に逃げようとしているホーンラビットを目で追う事しか出来ない。


「コースケ、いますぐ自分の持ってる武器でソレを殺して」

「え、あ……え?」

 未だに理解が追い付かず、変な声を上げる事しか出来ない。

 だが唯一理解した事と言えば、目の前の魔物を狩るために武器に手を掛ける事だけだ。


「ま、待って下さい! まだ子供なんですよ!? 見逃してあげても!」

「じゃあリリィがやる? どの道、これ失血死で死ぬ。それなら止めを刺してあげた方が楽」

「それは――。そもそも、なんでこんな事を!?」

 リリィの言葉に意味が分からないと言わんばかりにクレアは、不愉快そうな表情を浮かべた。

 

「これだけ悲鳴を上げたのに親や仲間が来ない。つまりこれは、はぐれ。子供じゃ満足に御飯が食べられないし、いつ他の魔物に食われるか分からない。なら、他の痛い目に遭う前に殺してあげるのも、優しさ」

「それに今見逃して、成長したら今度はこっちが襲われる。その時、リリィは責任とれる?」

「それ、は――」

 何も言い返せず口籠ったリリィの視線が傷ついたホーンラビットへと向かう。

 既に血を流し過ぎたのだろう。息も絶え絶えでこちらから手を下さなくても、死にそうな状態だ。


 正直見るに堪えないが、この場で殺す事にためらっていたら、何かあった時二人を守れない。

 それだけは避けなければいけない以上、目の前のホーンラビットを殺すのにためらってはいけない。

 改めて腰に掛けていたメイスを抜くと、死に掛けのホーンラビットへと近付く。


「どうすればいい?」

「コースケの武器なら狙いは頭か胸。四足歩行なら腹部に一発入れるだけでも致命傷」

「分かった」

 そう言いながら持っていた武器を振り上げる。

 ホーンラビットの怯えきった目がこちらを捉えるが、来た時からクレアを守ると決めたんだ。


「ごめんな」

 小さく謝ると、メイスを振りおろした。

 直後、骨の砕ける音とともに小さな断末魔が耳に届いた。

 視線の先には紅く染まったメイスがあり、後ろからは誰かの嗚咽が聞こえる。


 だが、それを気に掛ける余裕がこちらにもなかった。

 それは今、自分の手で動物の命を奪い、その感覚に慣れていないせいだろう。

 ついには気持ちの悪さから武器を手放し、両膝をついた。


(耐えろ、耐えろ、耐えろ!)

 込み上げてくるものを抑えようと、口に手を当て必死に歯を食いしばってこらえようとする。


「最初は誰だって、そんなもの。楽になった方がいい」

 そう言いながら背中をさすってくるクレアに感謝の気持ちが溢れる。


 だが、好きな子の前で位かっこはつけたいのが男という生物だ。

 無理やり出て来そうなものを抑え込むと、落とした武器を拾うべく周りを見渡す。

 

「――その、どうぞ」

 いつ拾っていたのだろうが、リリィがメイスの切っ先を向けていた。

 ただ彼女も魔物の事を知っていても、殺す場面にはなれていないせいか、その目は紅く腫れていた


「二人とも、ありがとう」

 気遣ってくれた二人に感謝すると、その場から立ち上がり、武器を仕舞って前を向いた。


「目的地まではもうすぐ、さっきみたいに一匹だけが出て来る事はほぼ無いから警戒して進む事」

 もう大丈夫と判断されたのだろう、クレアから助言を貰ったので了解の意味も込めて頷く。


「それじゃあ行こう」

 そう自分に言い聞かせるように呟くと、前へと向かって歩き始めた。

 ただ、この時の自分達は気付いていなかった。クレアの言葉を信じなかったために、とある惨劇を引き起こす結果になったという事に。


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