第七話
ゲームの世界に来て十日が経った。
リュゼさんとの決闘が刻一刻と近づいてはいるが、そんな中でも相変わらず訓練は続けられていた。
ただし相手はクレアやロナ姉ではなく、リリィだった。しかし、リリィとの模擬戦は互いに冷や汗を浮かばせるほど、恐怖に満ちたものだった。
お互いに持っている武器は普段使っている打撃武器。少し前まではクッションを差し込んでメイスに見立てた模擬刀を使っていたが、実戦武器となれば、おいそれとは責め立てられない。
一歩間違えれば骨を折るだけではすまない、相手を死亡させる危険性だってある。その事実がお互いの足を踏みとどませる。
だが、その光景を静かに見守っていたロナ姉が痺れを切らし始めたのか、小さく口を開いた。
「いつまで見つめ合ってるつもりだ? 初々しい恋人ごっこがしたいなら、余所でやれ。鍛えたいなら今すぐ、目の前の相手に向かって武器を振るうんだ」
「で、でも、そんな事言われても」
「でも、はいらん。お前等は危害を与えてくる相手に対してもそうやって突っ立っているつもりか? それなら今すぐ門の外に出て食われてくると良い、こちらも無駄な時間を役立たずにつぎ込む気はない」
棘のある言葉にただただ押し黙るしかない。ただロナ姉の言っていることは事実だ。
ここでリリィに対してメイスを振れなければ、リュゼさんと実際に相対した時も振るう事は出来ない可能性だってある
ならば、彼女には申し訳ないが、少しだけこちらの訓練に付き合って貰おう。
「リリィ、ごめん。自分は強くならないといけないから、少しだけ付き合ってくれ」
そう言うと、許可を取るよりも先に彼女に向かって駆け出す。
そして自分の右手に持っていたメイスを足元に向けて横なぎに払う。
体に当たって、それが急所だった場合の時は遺族や彼女に対して目も当てられないからこその配慮だ。
「――はぁ」
そんな中リリィから息を吐かれると、構えていたウォーハンマーの柄でメイスを受け止められた。
だが驚きはそれだけではない、片腕一本で武器を振るい、こちらの攻撃を受け止めた上に持っているウォーハンマーには歪み一つない。
その事実に冷や汗をかくが、勢いよく振り上げられたウォーメイスの速さによって、自分の手からメイスが離れる。
「避けて下さいね」
その言葉で、背筋が冷えた。
メイスがどうなったのかなど気にする暇はない。
今は嫌な予感から逃げるために、その場から転がりながら離れる。直後、目の前の地面が小さく陥没した。
「まだ、続けますか?」
余裕のある表情、舐めていたつもりはないが、無意識のうちにそうしていたのかも知れない。
その事実に軽く自分を叱責するが、こちらの武器はまだ残されている。
盾の裏側に着けている、クレアから頂いた小ぶりのナイフを抜き、それを構える。いつも使っているメイスに比べれば頼りないが、ないよりマシだ。
「――この武器ではあまり人を傷つけたくないんです。だから、コレお借りしますね」
そう言いながら足元に転がったメイスを拾い上げると、ニコリと笑い、武器を構えていた。
たったそれだけの行動だと言うのに、少し悲しげな表情を浮かべていた。一体なぜと言う疑問もわくが、それは後で聞けばいい話だ。
それにしてもだ。両手に打撃武器を持つ少女とはまた新しい絵ではあるが、それと相対している自分は何ひとつ笑えない状況だ。
ナイフで受け止めようものなら、刃が簡単に折られ。盾で受け止めようとしても、彼女が原作通りの種族ならば、その力で受け止めきれずに吹き飛ばされる未来が見える。
見る人が見れば詰んでるようにも思えるが、ここであきらめる位なら一矢報いた方が何倍もマシだ。
「来ないなら、こっちから行きますね」
そんな決意の中、リリィから声を掛けられる。
何ともご丁寧なことだと口にする前に、片手で持っていたウォーハンマーが投擲された。
「うぉっ!?」
鈍い輝きを持つ塊が、飛んでくると言う驚きの事実に声が上げる。
その武器では人を傷つけたくないとは何だったのかと聞きたくなるが、避けられると信じて行ったなら過大評価だと言わざる得ない。
それと同時に走り出す音を耳にし、リリィへと目が行く。
武器を投擲したのも、彼女への対応を遅らせるのが狙いだと思う。
しかし彼女の狙いに捉われないように身体を捻じってそれを避けると、そのままの勢いでリリィの顔に向けてナイフを突きだす。
もはや手加減などする気はもうない。
仮にそんな事をしたら、リリィが手に持っているメイスでこちらが殺られる可能性だってある。
ならば自分も彼女を殺す気で掛かるのが一番いい。それがお互いのためでもありロナ姉の狙いでもあるだろう。
「ようやく、本気で来てくれますね」
安心したような言葉に、どう言う意味がと疑問が湧くが、その答えがすぐに帰って来た。
ナイフはリリィの頬をかすめるも、彼女の歩みを止める事には繋がらなかった。
それどころか、ナイフを突きだすために伸ばした腕を掴まれ、引っ張り倒されると腹部に膝を入れられる。
「――カハッ」
力はそんなに入っていなかったはずだが、襲い掛かる苦痛と圧迫感に空気と胃液を吐き零す。
訓練前に朝食を取らなかったのは正解だなと思うが、足腰に力が入らない。ぶるぶると震えながらリリィにもたれ掛かると、ポンポンと背中を叩かれる。
20
「お疲れ様でした。――これで満足ですか?」
力の差がハッキリしている戦いをさせた張本人を睨み付けながら確認を取る。
これでは弱い者いじめじゃないか。何故そんな趣味の悪い事を私にさせたのか、問い詰めたい気持ちでいっぱいだ。
「……詰めが甘いな」
「え?」
「――まだ、終わってないっ!!」
確実な一撃を与えたと思っていた。
なのに今聞こえる声は、確かにコースケさんのものだ。
急いで顔を向けると体を震わせながらも足に力を入れ、立ち上がろうとするコースケさんの姿があった。
その光景に驚きはするが、これ以上彼を傷つけるのは本意ではない。急いで引き剥がし、穏便な方法で意識を落とそうと試みる。
だが、その考えも背中からチクリと何かが突き刺さるような感触と共に払拭された。
(――まさか、さっきのも考えの内でしょうか?)
わざと攻撃を貰い、この状態を狙ったとは、どれだけ機転がきくんだと聞きたくなる。
それ以上にこれを作戦とはいえ、実際どれだけやれと言われて、直前に出来る人はどれだけ居るのだろうか?
もしかしたら投げ飛ばされ、動けなくなるまで叩きのめされる危険だってあったと言うのに、それをやろうと決めた自信は一体何処から生まれるのか。
それが一番気になるが、まずはこの戦いを終わらせる事が先決だろう。
ただ先程まで借りていたメイスや生まれつき持っている怪力も、今この場では何の役にも立ちやしない。
今も息絶え絶えな所を見れば、彼が時間と共に意識を落とすかもしれないが、それは希望的観測というものだ。
今回はロロナさんの言うとおり、私自身の詰めが甘かったと言わざる得ない。
私は目の前の彼とは違い、頭の回転は速い方ではない。少し考えてもこの状況を打破する方法が何ひとつ思い浮かばない以上、この場で取る手段は一つだけだ。
「……まいりました」
借り受けていたメイスから手を放し、降参の言葉を口にした。
悔しいと言う気持ちが無いと言えば嘘になる。勝ったと思える一撃をお見舞いして、予想通り倒れ掛かってきたのだ。
普通ならばそれで、もはや相手が動けずに勝利を確信してしまうのが普通だろう。
しかし結果はどうだろうか。
こちらの狙いはまんまとコースケさんの思い通りに進み、負けの言葉を口にする事となった。
だが原因は分かっている。私にも半分その血が流れていると言うのに、人間の力を舐めすぎていた、ただそれだけの事だ。
「悔しいなぁ」
「なら、それをバネにして強くなれば良い。コースケもリリィも伸びしろが充分あると見える」
「それに最低限の実力も着いたようだな。これなら連れ出しても死ぬことはないだろう」
「……い、一体なんの話を?」
嫌な予感をヒシヒシと感じる。この予感は当たって欲しくはないものだ。
「明日、クレアと共に街の外で討伐任務を受けて貰う。もちろん、拒否権はない」
21
「え、えええええええええ!?」
その言葉にリリィが驚いた声を上げた。
正直驚きすぎな気もするが、自分も驚いていないと言えば嘘になる。
リュゼさんとの決闘の前に必ず外に出てモンスター達と戦って経験を積む必要性があるとは思っていたが、ここまで速いとなると驚く暇もない。
それ以前に今までクレア、ロナ姉そしてリリィとの訓練がモンスターを倒す時に役立つのか心配してしまう。
「安心しろ。いきなり危険なモンスターと戦わせるつもりはない。今回はクレアとともにホーンラビットを狩りに行って貰おうと思っている」
「え? あの、ロナ姉は着いてこないんですか?」
「今回は私がついていく必要はないだろう。それに私も私の仕事があるからな、いつも面倒を見てやれる暇はない」
「そう、ですか。でもクレアさんが着いて来てくれるなら安心ですね」
自分を安心させるためだろう。リリィがクレアに目を向けるが、厳しい視線が自分とリリィに返された。
「明日の依頼、私は戦わない。本当に危なくなったら最低限、手を貸す。それまでは自分達で頑張れ」
「そ、そんな! それでもし死んだらどうするんですか!?」
「その時は自己責任。自分の腕前の無さを恨めばいい」
「無責任すぎます! そんな話受けたくありません!」
あまりの辛辣な言葉にリリィが声を荒げるが、一歩外に出れば凶暴な動物たちに襲われるのはここにきて、すぐに味わった。
あの死ぬかもしれない恐怖は人によってはトラウマと化すかも知れない。
だが、裏を返せば生きたいと言う生存本能が自分を強くするのだろう。それを考えると今回の話は自分自身を二つの意味で鍛えられる。これだけ美味しくも辛い話を断る必要性はないだろう。
「個人的には危険だと思ったら即座に助けてほしいんだけど、その前に生き残るコツとかは教えてくれないか?」
「……最後まであきらめない。生き残る執念があれば、なんとかなる」
「全っ然役に立つ気がしません! それよりもっ、ロナさんは何でついてこないんですか!?」
「私は別件があると言っているだろう。それにこの程度で怯えるならなんで冒険者になった?」
「それは……!」
だんだんリリィが責められており、その事情を話せないのか俯きがちに反応を返している状況に不憫さすら覚える。
「ま、まぁまぁ。リリィにも何かしらの事情があるんでしょうし、まずは治療しませんか?」
「ふむ、そうだな。ただしやる気が無いなら明日は来るな。良いな?」
それで話は終わりだと言わんばかりに厳しめな視線を送ると、リリィが開きかけた口を閉じた。
だが、まだ不満感は募っているのだろう。何も口にはしないが、その目はハッキリと反対だという事が読み取れる。
「コースケ、治療にまたアレ使う?」
「あぁ、うん。そっちの方が治療代が浮くけど、もう借りるためのお金払おうか?」
「使ってない埃被ってたものだから、大丈夫」
そう言って家の方に戻っていたクレアを見送るが、後ろから肩を掴まれる。
多分だが、ロナ姉だろうと判断するが振り返るよりも先にロナ姉に肩を組まれ、背中に体重を掛けられる。
たったそれだけの行動だが、花の良い香りが鼻腔をくすぐり、これがロナ姉の匂いかと考えると、少しだけ顔が熱くなる。
そんな中、ロナ姉が自分の耳元に口を近づけると、リリィには聞こえないよう小さく呟いた。
「――すまん、あとは頼んだ」
え、と反応するよりも先に彼女が離れると、軽く手を上げて家へと入っていった。
ロナ姉もやりすぎたという自覚はあるのかも知れない。
しかし、だ。今、気落ちしているリリィに対してどういった励ましの言葉を掛ければいいのか言葉に悩む。
下手すれば彼女の逆鱗にすら触れる危険性すら潜めているが、どう声を掛けるべきか。
――考えていく中、一つ気になった事が浮かび上がった。それはリリィの性格だ。
彼女の性格は他のキャラクターに比べて人懐っこい。誰とでも打ち解けられる優しい性格を持ち、言葉使いも丁寧でパーティ内でも仲裁に入る役として度々登場していた。
その行為を考察した人は争いに巻き込まれたくないから敢えてそういうキャラクターを作ってるのでは。
そう邪険に推測する人も居たが、あながち間違っていないのかも知れない。
また戦闘中は気に掛けなかったが、あの言葉。
――――この武器ではあまり人を傷つけたくないんです
一体どうしてそのような言葉を言ったのか。
事情を知らない者が深く立ち入ってはならない事なのかもしれないが、それを聞かされた身としては、そっとしておくというのは難しい話だ。
「お疲れ様。先に謝るけど、無理させてごめん」
「あ、はい。それより、その、コースケさんも大丈夫ですか?」
「あぁ、普段からかなり扱かれてるからあの程度なら大丈夫大丈夫」
そう言うと、そうですかと笑顔を浮かべていた。
ただその笑顔は素人な自分でも分かるほど無理矢理浮かべていると分かる。
「あの、さ。関わって数日の人間がこういう事を聞くのは失礼だとわかってるけど、どうして外に出るのに怖がってるの? それにその武器を人に振りたくないってのは?」
「それ、は……」
早々に本題に入ると、口にはしたくないのか俯きがちに顔をそむけた。
これ以上は無理には聞いても口を開いてもらえないだろうと思うと、小さく息を吐いた。
「まぁ、今は無理に聞きません。ただ訓練中にああいうのを聞かされた以上、いつかは聞かせて貰えますか?」
そう聞くと、リリィは小さく首を縦に振った。それを見てこれでこの話はおしまいだ。
「話終わった?」
そんな中、後ろから声が聞こえた。
「え!?」
「いつのまに?!」
自分とリリィが驚きの表情を隠さぬままその場で飛び上がる。
そして振り返ればクレアが不満そうな表情を浮かべていた。ただその手には、頼んでいた杖を握っていた。
「大事な話してたから気を使った。その反応は失礼」
「あ、うん。ごめん、でも意識して無い方から声が上がると誰でも驚くと思うんだ」
「ちょっと寿命が縮んだかと思いました」
それは流石に大げさではと思うが、クレアから杖を受け取ると、改めてリリィに杖の先端を向ける。
「――えっと?」
「それじゃあ治療始めるから、傷口を杖先に向けて貰っても良いかな?」
いきなりの事に困惑の表情を浮かべるが、説明するよりも実践してみせた方が速いだろう。
彼女が恐る恐る杖先に近づけたのを見ると、杖を握る力を強くして目を閉じる。
(対象はリリィ=ハルマーク、使用アイテムは癒しの杖――使用!)
かつてプレイしたゲームの画面を想像しながら杖を再度握りしめる。
数秒後、手を温かい感触が包んだと思ったら、目の前から驚いたような声が上がった。クレアの時も似たような反応をしたのだから多分成功だろう。
恐る恐る目を開ければ、先程怪我を負わせた頬を懸命に擦っては怪我が治っているという光景に驚いているリリィの姿を目にした。
「え、えっと? コースケさんは一体何を?」
反応も全く一緒で少しだけ笑みがこぼれる。
ただゲームの事を説明しても多分十全も理解出来ないだろうから、クレアの時と同じ事を口にする。
「ただ杖本来の能力を使っただけだよ」
そう言いながら癒しの杖を一瞥する。
原作どおり魔力や杖を消費する事無くHPを回復する事の出来る杖は、便利な物だと改めて認識する。
これがあれば軽い怪我ならば先程のように塞がり、大怪我に対しても絶望的な状況から少しはマシに変わる事だろう。
なお、杖の効力に関しては言いふらしたりや、過信しすぎるなよ、とロナ姉から釘を刺された。
もしそうなれば、道具屋から恨まれるか。最悪の場合、それを説明した自分を生活のためにと、殺しにくる可能性があると指摘されたのだ。
さすがに自分の命が惜しいので、仲間以外には黙って置く事にはしているのだが、何故だかリリィやロナ姉にはこの能力が使用できなかったのだ。
多分だが、自分がゲームの原理を唯一知っているから使えるという可能性もあるが、自分以外は使えないという確信はできない。
「あっ、そうですか。でも、怪我の治療ありがとうございます」
「そんな事より明日どうする? 来る、来ない?」
「え、あ、その――」
「前置きは苦手。だから言う、ここで踏み出さない限りいつまでも動けない。それに一人か二人で持って行く物も変わるから、ここで決めて」
「あ、ぅ……」
言葉につまりリリィの足が若干震えている事に気付く。
クレアの方に一瞥してもいつもどおりで、何かしらの威圧感は感じない。
つまりリリィがここに居ない何かに恐怖しているのかは分かるが、その何かは口に開こうとはしない。
ただここで連れていかなければ、パーティとしてリリィとともにいるのは難しいだろう。
「それなら、リリィさん。外に何で恐怖を覚えているのか分からないけどさ、戦わないだけなら大丈夫かい?」
「……え。あ、はい。それなら多分……」
「そうか、じゃあクレア」
その答えに安心すると、クレアの方に振りかえり声を掛ける。
「ん、なに?」
「冒険者が冒険者に依頼するってできるのか?」
「出来る。困ってるなら誰でも――」
「じゃあクレアにリリィの護衛依頼を頼んでも良いか? 自分は守らなくていいからリリィだけ守って貰えないか?」
その発言を予想していたのか頭を痛そうに抑えた。そして小さくため息を吐くと、再び目を向けてくる。
「受けても良いけど、依頼金は? 仮にもCランクに依頼だから高くつく」
「それなら……これで足りるか? 足りない分は今度用意するから、見逃して貰えないか」
そう言って自分のポケットに入っている皮袋を取り出す。
中は数枚の銀貨と銅貨しか入っていないが、多分足りるだろうと思い全財産を突きだした。
「……はぁ、これだからコースケは馬鹿って言われる」
小さくため息をつかれた。
皮肉な言葉を掛けられたかと思うと、皮袋を渡すように手まねきした。
それに従って手の平に皮袋を置くと、中から一枚だけ銀貨を取り出した。
これだけで充分と言って、袋を投げ返された。
「少なすぎないか?」
「あの時のお礼。借りはいつまでも持っていたくない」
「そっか、でもありがとう。クレアなら安心して任せれるよ」
そう言うと、おだてるのだけ一人前と呟いてソッポを向いた。
感謝されているのに慣れていないのか、少し耳が紅い。
それに追及する事無くもう一度感謝の言葉を掛けた。
「えっと、なんでそこまでしてくれるんですか?」
「放っておけなかったから、じゃダメかな」
そんな中、理解の追い付いていない困惑した表情で質問してきた。
正直に言えば、クレアに何かがあった時の戦力が欠けたらキツイという本音もある。
だが、それ以上に困っている人が目の前に居ながら、それを放っておいてクレアだけを救うなんて無理な話だ。
きっと、それをやり続けていれば何処かで綻びが生まれかねない。
その綻びを生ませない為にも今はリリィの手助けを行うだけだ。
「嘘、ホントは何も考えてないパターンある」
「いやいや、何を根拠にそんな……」
「リュゼとの決闘、最初のウルフ――考えてても、雪を掛ける程で周りに目が行ってない」
「はい、すいません。もう許して下さい、自分が悪かったです」
数日前の自分の行動を口に出されて頭を素直に下げる。それ以上言われると心が折れかねない。
「ふ、ふふ――」
そんな中、リリィが小さく吹き出した。
そちらを向くと、慌てて表情を元に戻そうとするが、その表情は先程に比べれば大分良い。
「あ、ごめんなさい。でも、ここまでしてくれたのに勇気を出さないのは失礼です、よね? 私も少し勇気を出してみます」
少しだけ変わろうとしているリリィの言葉にクレアと顔を見合わせる。
そしてお互いに笑みが浮かぶと、クレアはリリィに向けて手を伸ばした。
「明日よろしく」
それに応じるようにリリィはクレアの手を握り返した。