第十三話
ちょっと仕事が忙しかったのと風邪を引いて遅れました、ごめんなさい
「はぁっ、はぁっ、はぁっ。ようやく着いた」
一回しか連れて来られなかったせいで曖昧だった道のりだったが、ようやく着いた目的地。
古ぼけた外観が特徴的で、彼女たちに教えられなかったら、武器屋とは思わず素通りしていだろう。
入った瞬間、飛んでくる言葉は皮肉。
自分から聞きたい事を言えばおそらくだが嘲笑。
それも今は甘んじて受ける覚悟があって、ここに立っているのだ。
深呼吸を一度し、中に入れば来客を告げるベルが響いた。
店の奥には、新聞らしきものを広げた店主―リュゼ―が一瞥してくる。
だが、客が自分だと知った瞬間、ため息一つこぼし視線を手元の新聞へと戻した。
予想とは違った反応だが、人によってはイラつくには充分な接客態度だろう。
ただそれを気にして指摘する余裕はない。リュゼの座っている席の前まで向かう。
視線は未だに何語で書かれているか分からない新聞らしき物に目を向けているが、それに構わず声を掛ける。
「教えてほしい事があります」
「おれにゃぁ、ねぇな」
「二本、杖を探しています。それを探してるんです、どこにありますか」
「勝手に探して、金だけ置いて失せろ」
「店主なんでしょう。置いてある商品を教える義務くらいはあるんじゃないですか?」
「ここは俺の店だが、どう対応しようが俺の勝手だ」
一向に席を立ち上がらず、視線もこっちに向けようとしない。
その態度に苛立ちを覚えて、怒鳴り散らしたい気持ちが湧き上がる。
ここで怒れば、楽に成れるかもしれない。
が、結果として何も教えてもらわなければ、クレアを助ける事が一気に難しくなる。
冷静に事実を理解し、怒りを抑えるように歯を食いしばる。
「――します」
ぎり、と小さく歯ぎしりする音が響くが、絞り出すように声を出す。
「お願い、します。教えて下さい、お願いします……!」
その場で両手両膝を床に着け、頭も床に擦り付けるように下げる。
はたしてこの世界に土下座などと言った風習があるかどうかは分からない。
けれど、あの子を、クレアを助けるためならこの頭を下げる事に抵抗感など無い。
――いったい頭を下げてから何分経っただろうか。数分、数十分だろうか。
未だに反応が返って来ない。結局は無駄な行為だったのだろうか。
あの時のように呆然と何も出来ない虚無感だけを味わなければならないのか。
(くそっ、くそっ……!)
現実はそんなに甘くはない。
その事実だけが、突き刺さるが、これ以上は待ってはいられない。
そう思って頭を上げようとした瞬間。
「おい、幾つか聞かせろ」
それを遮るように声を掛けられる。
思わず顔をあげようとするが、面を見たくないから下げたままにしろ、と悪態をつかれる。
「テメェは人族で、俺は獣人だ。なんで、んな事で頭を下げる。てめぇにぁ誇りはねぇのか?」
質問の意味が分からず、一体どういうことなんだと疑問を覚える。
だが、今は無駄な事を考えて相手の不興を買う訳にはいかない。
額を床におしつけたまま小さく息を吸う。
「誇りじゃ人は救えない。誇りを大事にして、好きな子を亡くしたら、意味がないんです」
だから――と、そう続きを言うよりも先に椅子が軋み、立ち上がる音が狭い室内に響く。
ゆっくりと硬い床を突く、杖の音が近寄ってくるが顔を上げる間も無く頭を踏まれる。
「そうかよ。だがなハッキリ言ってやる。俺はおめぇ等人間が嫌ぇだ。お前等みたいに狡猾で冷酷で自分達以外の種族を化物と罵るっ! そんな奴らの言葉を信用できるか!」
そう叫びながら、もう一度頭に衝撃が走る。
痛みに呻き声が漏れ、生暖かいものが額からこぼれた。
「信用されなくても構いません。クレアを助けたいんです、お願いしますっ!」
三度目の衝撃が頭に走る。視界に映る床が紅に染まっていくが、気にしている暇はない。
傷みをこらえつつも、ただお願いするしかない。
「ふざけるなよ? 信用できねぇ奴に売れるようなもんはねぇ!」
「なら、いつか。いつか自分が、いや俺が信用できるようしてみせます。だから今だけでも、気まぐれでもいい。俺を信用してくださいっ!」
そう言うと、今度は鼻で笑われ、踏みつける力が強まる。
「はんっ、大層なことを抜かしやがって。今度は英雄気取りのつもりか?」
「俺はそんなものになる気はありません。ただ一人の女の子を悲しませず、助けたいだけの男です。そのためならリュゼさん、貴方の信用を俺は勝ち取って見せますっ!」
嘘は苦手だ。今は頭を下げて、頼み込むしか手段がないが、ふと頭に乗っていた重みが軽くなった。
ゆっくりと、杖を突きながら離れていく音を耳にし、思わず顔を上げる。
「……言葉でなら、なんとだって言える。それを何度俺が聞いてきたと思っている」
「それは――」
疲れたように言葉を口にするリュゼの心情は分からない。
正直ゲームの世界では存在し無かったキャラだ。
どんな人生を歩んできたのか等は本人が語らない限り誰も分からない。
けれど、ここはゲームでは無い、現実だ。
杖を突いていると言う事は余程酷い目にあったと言うのは推測できる。
だからといって彼に同情するのは、侮辱するようなもので、二の句が告げれない。
「それでも、オメェは俺に対して信用しろなんぞ、甘い事を抜かすのか?」
「……はい」
「なら、あと数十日後の決闘の際に証明して見せろ、人間も捨てたもんじゃねェ、ってな」
そう言うリュゼの目はほんの少しだけ柔らかったように見えた。
そしてすぐに立ち上がると、咳払いを一つして告げた。
「いらっしゃい、何を探してやがる?」
「それは――――」
その言葉に、俺は欲しがっている二つの杖の名を上げた。
ゲーム内でも初期の初期から買えるアイテムだからこそ、普通に買う事には成功した。
ただクレアから貰った革袋は受け取った時よりも遥かに寂しく揺れていた。
きっと怒られる事だろう。けれど、命あっての物種だ。
説教は甘んじて受け入れることを覚悟して、新たな二本の杖を背負い、クレアを追いかけて走っていった。
「それにしてもアイツ、なんであんなに臭かったんだ?」
それを目で追いかけながらも、リュゼから小さく言葉が漏れた。
そしてついには仕方ないと言わんばかりに、立ちあがり窓を開けに行った。
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