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式神使いの家出戦記  作者: キーブイ
2/3

後編

 元々が荒野を通る旅人などの休憩所に作られていたらしく、隠れ家自体はあっさりすぎるほどすぐに見つけた。全てを蹴散らしてきた化物とやらの力に慢心しているのか、見張りすらいない。

 もしものために顔を隠し、中の様子を伺う。そこでは二、三十人ほどの武装した厳つい男たちが酒を飲んだり金を数えたりしていた。

 見渡すことしばらく。私たちは街で聞いた人相の男、盗賊団の統領を発見した。そしてその横に控えている男。一見すれば少し人相の悪い普通の人間に見える。だが、私はともかく、歌姫の目はごまかせない。


「あれは、式神ですね。間違いありません」

「……やっぱりか」

 『化物』の噂と特徴を聞いたときから、そうじゃないかと思っていた。たしかに式神使いはそもそも所有しているかどうかが大きく関わるため、才能や家柄に左右されることが多いが、絶対に名家にしかいないわけではない。ただ、そういう意味で式神を悪事に利用する輩というのははっきりいって非常に珍しいケースと言えた。それだけに、父が手を焼いているのも納得がいく。


 噂が真実だとすれば、あの式神は完全な戦闘特化型だろう。とすれば、歌姫がいるとはいえ、正面から挑むのはまずい。歌姫の能力はどちらかといえば支援や補助向きだ。真っ向勝負では分が悪すぎる。

 まぁ、元々歌姫の能力をつかう算段だったわけではない。ただ街で戦闘手段を手に入れる暇がなかったから、その代わりに歌姫に頑張ってもらうだけの話だ。


 盗賊の頭領とその式神がいるのを確認した私たちは、そこから少し離れた場所に身を潜め、小屋の様子を見張り始めた。

 ここ最近、盗賊たちの活動は次第に活発になっているらしい。ならば、こうやって待っていればそう遠くないうちに頭領をはじめ主戦力が出払うことがあるはず。もちろん見張りや留守番が残るだろうが、向こうの式たちがいないなら制圧するのはそう難しいことではないだろう。そして頭領たちが戻ってくるのを待ち伏せ、罠を張り、不意打ちを仕掛ければ。ましてや、今は歌姫がいる。私は人を傷つけるのが嫌いで、武力で制圧するのに抵抗があった。しかし、歌姫の力を使えば誰一人傷つけること無く事を終わらせることができる。

 問題があるとすれば、頭領たちがいつ出払ってくれるか。もし何日も篭っていたり、奴らが動く前に舞姫たちに見つかったりすれば、そこで作戦は終了せざるを得ない。


 だが、そんな私たちの不安をよそに、そう長い時間も置かずにに頭領と式神を含めた約半数の武装した盗賊たちが姿を現した。相変わらず小屋の見張りは無し。

 奴らの姿が見えなくなったのを確認した後、ひっそりと小屋に近づく。


「「嗜眠の唄」」


 歌姫の声が響き渡り、小屋に入ると全ての盗賊たちが完全に寝息を立てていた。だが、つよい刺激や大きな音を立てればあっという間に目を覚ましてしまう。私と歌姫は手分けして、奴らを起こさないよう慎重に、舞姫たちから手に入れた拘束具で盗賊たちを捕らえていった。


「よし、あとは奴らが戻ってくるのを待ち伏せして――」

 全員を拘束し終わり一息ついた、まさにその時。


「お前ぇら! 一体ぇここで何してやがる!」

「っ!?」

 私たちが気を抜いた瞬間。まるで見計らったかのように、出払っていた連中が帰ってきた。

 拘束するのに時間をかけすぎたのか、元々早く帰ってくる予定だったのか。とにかく、完全に逆に私たちが不意打ちを食らった形となった。急いては事を仕損じる。まさに歌姫の忠告通りになってしまった。


「歌姫!」

「やれっ! 炎鬼!」

 すぐさま歌姫に力を送るが、正面から挑んでも敵わないのは事前に予測された事態だった。敵の式神は見る見る間に巨大化してその姿を現した。巨木のような肉体に頭に生える何本もの角。それはまるで鬼のような禍々しい姿をした式神だった。お互いに契約した状態で衝突した二体だったが、歌姫は敵の豪腕に軽々と吹き飛ばされ、小屋の壁を突き抜けて外へ弾きだされた。


「う、歌姫! 大丈夫か!?」

「ひゃはははは! お前ぇも式神使いらしいが、なんだそのひょろっちい式神は! そんなんじゃ俺の炎鬼の足元にも及ばないぜぇ!」

 歌姫の能力は非常に強力だが、弱点も多い。まず、能力発動中は本人が歌っていないといけないため動けない。さらに、直接戦闘では普通の人間にこそ遅れは取らないものの、非常に非力である。さらに能力を発動するまで、戦闘中には致命的なほどの時間がかかる。舞姫のときは向こうも私に手を挙げるのを躊躇したからこそ成功したようなものだ。

 だが、歌姫を吹き飛ばして油断している今なら――。


「おっと、能力は使わせないぜ。お前ら、とっ捕まえろ!」

 歌姫の能力を発動させようとしたそのとき。襲いかかってきた盗賊の手下どもによって、あっという間に地面に押さえつけられ、首もとに刃を付きつけられてしまった。


「いくら弱っちい式神だろうと、能力を見くびったりはしないぜ。少しでもおかしな動きをしたらぶっ殺すからな。 炎鬼!」

 まずい。まずいまずいまずい。

 敵の式神が歌姫に止めを刺そうと近づいていく。能力を発動できなければ、歌姫に勝ち目はない!

 あぁ、また歌姫を危険に晒してしまった。あんなことがあったばかりだというのに。やはり私は、良い式神使いではなかったということか……。あまりの形勢の悪さに、諦めかけようとした、その時。


「清蓮様から手を離せ、下郎がっ!」

 窓を突き破り、乱入してきた何者かが私を捕らえていた手下どもを蹴り飛ばした。この声は――。


「舞姫!?」

「ご無事ですか!? 清蓮様!」

 気づけば、舞姫をはじめとする私を追っていた式神たちが盗賊の手下を倒し敵の式神を包囲していた。歌姫も無事、助けだされて治療されている。

「どうしてここが?」

「街で、北の荒野の盗賊について聞きまわっていたと聞いていたので、ここしかないと思いまして」

 そ、そういえばそんなこと言っていたような……。全然時間を稼げていなかった。だが、これで形勢は逆転だ。うちの式神たちがもうほとんどの手下を倒してしまっているし、敵の式神も牽制しあって下手に動けない。頭領自身も、式神たちに囲まれて身動きが取れなくなっている。

 今度こそ不意打ちをくらい、あっという間に取り囲まれた敵の頭領はものすごい形相で顔を赤くしている。


「てめぇら、一体何者だ!」

「ふん。下郎に名乗る名などない!」

 私を庇うように立ちふさがりビシッと剣を突きつけて言う舞姫。ちょっとカッコ良いと思ってしまった。


「ふ、フザケやがって……! 炎鬼!」

「なっ!? 無駄な抵抗はやめ――」

 敵の頭領が式神の名を呼んだ、次の瞬間。敵の式神が黒く光ったと思ったら、いつの間にか奴や頭領を取り囲んでいた式神たちが全員殴り飛ばされていた。あまりの速さに、誰一人反応することすらできていない。いや、舞姫だけは瞬時に予測していたのか、私を庇って床に伏せて難を逃れていた。だが、一瞬にしてこちらの式神たちがほとんど気絶させられ、まともに立っているのは敵の式神と頭領のみ。


「ひゃはははは! またまた形勢逆転だなぁおい!」

「ぐっ……」

 私に覆いかぶさったまま、舞姫が悔しそうに歯を噛む。歌姫も、敵の攻撃を受けてこそいないもののダメージは決して少なくない上に、今の奴には能力を発動させてからでも返り討ちにされるだろう。


 だが、そんな私たちの目の前を、黄色い光が走り抜けて入った。

「ぎゃああ!」

 突如、悲鳴をあげるように咆哮した敵の式神が体中から火花を散らし、黒い煙をあげていた。


「やれやれ、どうやら間に合ったようだね」

 ふと、声のした方を見ると。そこにいたのは――

「こ、光鶴!? どうしてここに!?」

「やぁ、兄さん。お互い色々と言いたいことはあるだろうけども、まずは面白そうなことになってるじゃない」

 昨日契約したばかりの式神『雷花』を引き連れた弟、光鶴がいた。


「この、また増援か! どんだけ増えりゃ気が済むんだ!」

「あぁ、僕は雷花の能力で一足先に来たけど、もうすぐもっと大勢援軍がやってくるよ。数十の式神と、その契約者の人たちがね」

「はぁ!? フザケんなっつーんだ! えぇい、面倒くせぇ! 炎鬼! どいつもこいつも、全て薙ぎ払え!」

 式たちを一瞬で殲滅したあの豪腕が、弟たちを襲う。だが、その腕が思い切り叩きつけられたそこには弟の姿は無く、黄色い光の尾を引いて敵の後ろに回り込んでいた。


「あなたの式神の能力は身体強化による怪力と高速攻撃らしいけど、速さならこっちも負けないよ。雷花!」

「委細承知」

 弟の式神、雷花は再び黄色い光に身を変え、敵の身体を駆け抜けるように目にも留まらぬ速さで攻撃していく。


「兄さん」

 奴らが雷花に気を取られている隙をついて、光鶴が駆け寄ってきた。

「舞姫たちから連絡を受けてね。間に合ってよかった」

「すまない、光鶴。助かった」

「いや、このままじゃまずい。あいつ、強度も相当なものみたいで、決定打を与えられない。このままじゃ、ジリ貧。雷花の速度を捉えられたら終わりだ」

「増援は?」

「もうすぐ、とは言ったけど、僕はひとりだけかなり早く来ちゃったから。もうちょっと時間がかかると思う」

「と、言うことは……。よし、舞姫!」

「はっ! お任せくださ――」

「舞姫は危ないから、ここにいて。光鶴、歌姫のところへ行くぞ」

「――い、え?」

「……まぁ、確かに間違いではないけどね。分かったよ。行こう、兄さん」

「あ、ちょ――」

 さっきまともにうけたダメージがまだ抜け切らないのだろう。舞姫をそこに控えさせ、未だ立ち上がることの出来ないらしい歌姫の元へ向かう。だが、そのとき。舞姫の手が私の服のはしを掴んで引き止めた。


「お、お待ちください! 私が、私がいきます!」

「舞姫?」

「………」

 何故か涙目で訴える舞姫。弟は何も言わず、戦闘の余波がこちらへ来ないように注意だけ向けていた。


「契約をしてない舞姫じゃ、あの攻撃を食らったらまずい。気持ちはわかるけど、舞姫はここで――」

「分かってません! 私の気持ちなんて、ひとつも分かってません!」

「……舞姫?」

 いつになく声を荒げる舞姫。屋敷でも、大きな声自体は訓練の時や他の式神を叱咤するときに出したりもしたが、こんな表情を見るのは初めてだ。どことなく捨てられた子犬のように見えなくもないが、こんな強靭な子犬がいるものだろうか。


「わ、私が何故ここまで来たか、お分かりですか!?」

「え? っと、その、僕と歌姫を捕らえに……」

「そういうことではありません! 心配だったからです! 清蓮様が!」

「……あ」

 心配をかけた。みんなに。何故、そこに思考が至らなかったのか。そうか、それは私が悪――。


「それなのに! 清蓮様は歌姫とばっかり! 歌姫のことばっかり!」

「ま、舞姫……?」

 あれ? なんだか思っていたのと話の方向が変わってきたような……。


「清蓮様、いつも歌姫にばっかり構って! 歌姫ばっかり側にいて! 今回だって、歌姫だけしか連れていかなくて!」

 んん? ちょっと何言ってるか分からなくなってきた。っていうか、あれはむしろ私が連れだされた形なのだが。

「私だって連れていって欲しかったのに! ついてきてくれって言って欲しかったのに! 私だって、私だって清蓮様の式神になりたかったのに!」

 ……おぉう。


 突然のことに思考回路が追いついてこない。というか、すでにあっちの戦闘と空気が違いすぎて非常に混沌とした場になっている。 舞姫はと言えば、熱が冷めやらぬまま、しかし言いたいことは全ていったというようなどこかスッキリした顔で私の反応を待っていた。

 ……よくは分からないが――。


「舞姫も、私の式神になりたかったのか」

「……はい!」


 元々、ひとりにつき式神は一体しか契約してはいけないという決まりは何も無い。ただ、最も絆の深い式と契約をするという形なので、自然とひとりに絞られるだけ。しかし、ならば。 

「私はもう歌姫と契約してるけど、それでも良いの?」

「はい! 契約を破棄しろなどとは申しません!」

「私はその、舞姫が思ってるような優れた式神使いじゃないよ?」

「そんなことはありません! ですが、元より優秀さで主を選んでなどおりません! 私は清蓮様が好きだから、契約したいのです!」

「そ、そう……か」

 私は小指を噛み、小さく血を流す。色々あって感覚が麻痺しているのか、昔歌姫と契約したときほども痛みは感じ無かった。

 ここまで言われて腹の決まらないやつはいない。


「後悔しても知らないからね」

「ここで引けば、それこそ生涯に残る後悔になります」

 舞姫も小指を切り、そしてお互いにその指を合わせた。


 そして。舞姫の身体か赤く眩い光を放ち、魂が……繋がる。

「ようやくですか」

 気がつくと、いつの間にか歌姫がすぐ側にいた。どうやらずっと見守っていたらしい。というか……。

「知ってたの?」

「はい」

 いつもの無表情で即答された。それによくみると、すでにダメージはほとんど回復していたように見える。なのに、今まで動かなかったのは……この時を待っていたと、そういうことなのだろう。全く、敵わない。とりあえず、まずはあっちを片付けなければ。

 契約したときの光で、敵の頭領もこちらに気づいていたようだ。こちらにこないよう雷花が牽制しているが、それももう限界だろう。知らない間に苦労をかけていたらしい。


「お待たせ、光鶴」

「全くだよ。じゃ、あとは頼んだよ、兄さん」

「あぁ、任せろ。いくよ、ふたりとも!」

「「御意!」」

 歌姫と舞姫の身体が青と赤の光を放つ。雷花が光鶴の指示で退き、やはりすでに限界だったのかぐったりと膝をついた。


「「戦慄の唄」」


 歌姫が能力を発動する。その歌声を受け、舞姫の身体を青と赤の光が渦巻くように交差する。

 雷花の邪魔のなくなった敵の式が私たちを襲う。が――。


「遅い!」

 敵の強化された腕よりもなお速く。目にも留まらぬどころか、攻撃の開始と終わり以外、本当に一切見えない速さで。まるでダルマを転がされるように翻弄する。敵はおろか、凄まじい速さを有する雷花すら、誰ひとりとしてその姿を捉えられていない。契約し本来の力を引き出した舞姫と、さらにそれを強化した歌姫の、これがその実力だった。


「こ……の、化物が!」

「あんたに言われたくはないけど――」

 敵は、すでに自分の足で立つことすらままならない。


「まぁ、確かにそうかもね」

 舞姫が、その顎を思い切り蹴り上げる。だが、契約者である私以外、誰一人何をしたか分からなかったようだ。皆が反応できたのは、小屋の天井を突き破り、そして落ちてきた敵の姿だけだった。何気に、自分の売りである速度のうえをあっさり超えられた雷花が茫然自失としていたのが印象的だった。


 完全に戦闘不能になっているのを確認した歌姫が声を上げた。すると、外からうちの式神とその契約者たちが乗り込んで来て、あっという間にひとりのこらず捕らえ、敵の式神を封印した。すでに到着していた援軍を、待たせていたのか。歌姫はいったい、どこまで読んでいるのかと、薄ら寒くなる思いがした。


 式たちに拘束されながら、盗賊の頭領は私たちを睨み続けていた。

「てめぇら、領主の野郎の差し金だったのか! くそ、また俺から全てを奪い取る気かっ!」

「……どういうこと?」

 さっと間に立ちふさがった舞姫と歌姫ごしに、頭領に問いかける。


「俺の家系も、代々領主の下で北の領土を統治していた名家だった! だが、領主の勝手な理由で他の土地の統治と合併させるからと場所をおわれ、今では盗賊行為をやらなきゃ食うもんもない始末だ!」

 式神をもっていたのは、そういう理由だったのか。辺境の名家なら、式神の一体も持っていても何ら不思議はない。ということは、盗賊の下っ端たちは、その家臣たちだろうか?


「それなら、盗賊の真似事なんてする前に、領主に言い立てるべきだった」

「言ったに決まってんだろ! だが、長い間順番待ちさせられた上に、却下された! 俺たちの様子を知ることもなく、紙切れだけを見てな! 直接異議を唱えに行ったら、約束がないからと門前払い! 約束を取り付けようにも、いつまでたっても忙しいから予定が空くまで待ての一点張り! てめぇらは自分たちの都合で俺たちを切り捨てたんだ!」

 光鶴の言葉に、吐き捨てるように言い返される。だが、父の仕事を間近で見ている私にも、全く心当たりがないわけではない。少なくとも、嘘をついているようには見えなかった。

 未だ騒いでいるのを抑えつけ、式神たちが連行していく。どんな理由があったにせよ、盗賊行為を働いたのは事実。その罪を償わせないわけにはいかなかった。


「……歌姫、舞姫。それに光鶴」

 二人がこちらに向き直り、弟と雷花も側に集まってきた。

「私は屋敷に戻る」

 私を連れ戻すため尽力してきたみんなだが、誰ひとり言葉を発するものはなかった。ただ少し嬉しそうな顔はしていたが。

 ほんの少しだが、街を見て。そして知らず知らずのうちに犠牲になった人も見て。領主になりたい、守りたい、もっと良くしたいと思った。別に最初からそれ自体が嫌だったわけじゃない。ただ、そういう家系だから、親に決められたからという理由でなるのが嫌だっただけだ。今は違う。自分がそう思ったから、自分で決めた。


「やらなきゃならないことがたくさんある。手伝ってくれる?」

「はっ」

「御意のままに」

 歌姫は元より、舞姫にもたくさん世話になりそうだ。どちらも、それぞれ違う意味で半端でなく頼りになるからなぁ。


「もちろん。そうじゃないと、何のために頑張ってきたのか分からないしね」

「……へ?」

「光鶴様が頑張ってらしたのは、清蓮様を補助し、お役にたつためなんですよ」

「そっ……そうだっ、たのか……」

 光鶴の言を、雷花が補完する。弟が頑張り屋だったのは領主になるためでなく、それを補佐するためだったのか。しかし、それで私より優秀になるっていうのはどうなんだろうか。まぁ、優秀であるに越したことはないんだろうけど、私の立場がない……。もっと勉強しなければ。


「そういえば舞姫。歌姫のことだけど――」

「はて、何のことでしょう」

「捕らえるとか言ってたことだよ。まだそのつもりだって言うのなら……」

「何の話か、私にはさっぱり分かりかねます。私たちはただ、盗賊退治の命を受け、清蓮様が歌姫たちを率いて勇敢にお役目を完遂なされた。そうですよね、歌姫?」

「もちろん。最初からそういうお話でございました」

「……そっか。うん、そうだったそうだった」

 まるで打ち合わせでもしていたかのように、シレッと話をあわせる二人。もしかして、歌姫はここまで考えて? ま、まさかね……。

 しかしなんだかこの二人、妙に仲良くなっているような気がする。


「まぁとりあえず、帰ったら説教されなきゃね」

「うっ……」

 弟が、嫌な『やらなければならないこと』第一号を思い出させてくれた。

「私も申し上げたいことが山ほど」

「ま、舞姫も……? まぁ、それはそうか……。分かったよ……」

「私からも、山ほどございます」

「え、歌姫そっち側なの?」

 ある意味共犯なのに。

「まぁ、しばらくは説教され足りなくて困ることはないんじゃない?」

「そんなのは困ったままでいいよ」

 何故か弟は少し嬉しそうだ。自分があまり苦言を呈すのが得意ではないから、代わりに言ってもらえてうれしいのだろうか。


「それじゃあ、まぁ」

 皆、改めて無事を確認するように顔をよせる。

「街でお土産でも買って、帰ろうか」

 全員苦笑していたが、反対する声はなかった。

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