真後ろのキミ
バサッ。
またか。体をひねって自分の肩越しに後ろを見やると、やっぱり黒い頭は机の上に突っ伏されていて熟睡の様子。その頭を私の手に握られたプリントが覆っていた。起きる気配が無いので更にプリントの隅でツンツンつついてみる。……だめだ、起きる気配が無い。
あのさ、今ホームルームだけど大体十分で終わるでしょうが。何故そんなわずかな時間も起きていられないのか理解に苦しむ。机の端に置いて置きたいのだけど、学校の小さな机の天板一面は伏した彼のデカイ図体で埋め尽くされていて隙間は全く無かった。
仕方ないのでプリントを掴んだ手の甲で彼の肩を何度かトントン叩く。……だめだ、起きる気配が無い。
困ったなぁ。少し首をかしげると、斜め後ろに座っている男子と目が合い、思わず苦笑した。毎回これじゃ困るよねみたいな笑いを交わし、後ろの彼に向き直る。
プリントを持ち替えて、空になった手を彼の後頭部に伸ばした。
「佐藤君」
前から思ってた、髪の毛のこのツンツンを一度は触ってみたいと。小学生の時、同じクラスの男子がスポーツ刈りにするたび追い掛け回して頭を触りまくっていたことを懐かしく思い返す。
良い子良い子でもしてやろうという目論見は、凄い勢いで起き上がった彼によって阻まれた。伏したときに付いたのか、彼のおでこと頬が赤い。
「あ、ゴメン。プリント」
「……どうも」
目を合わせると気まずくなって、視線を外す。なんだか頬が熱い。それを隠すように教卓の方へ体をひねった。