月光の影
「わたし、慶太が好き!」
その一言から始まったわたしたち。
慶太が生きてた頃は、本当に毎日が楽しかった。
もう一度会えたら、て、何度も思う。
スースー
「繭」
「…ん?誰、こんな遅くに…」
「繭、久し振り」
「え…?」
「元彼の顔、もう忘れたのか?」
「…え!?」
暗闇の中、目が慣れて来ると、そこにいたのは繭だった。
彼の魂が、目の前にいた。
「何で!?何で慶太が居るの!?」
「繭に、会いに来たよ」
「会いに…?」
「嬉しくないのか?お前に会う為にわざわざ逃げ出して来たのに」
慶太は、空の上の、素敵な港町に住んでいた。
人は死んだら天国に行くって言うけど。
本当は天国なんてわたし達が勝手に作り出した幻想だった。
慶太が許されたのは、1日だけ。
この一日が、どんなに長く、どんなに短い事か、予想は出来ない。
彼が変わってないかも、分からない。
「一日も一緒に居られるの?」
外には細長い日の光がカーテンの隙間から入り込む。
優斗の影は、見る見るうちに消えていく。
「何で?待って…待ってよ。
何で消えちゃうの?」
「ごめん。昼間は…見え……」
「何?待って。昼間は、何!?」
朝日が部屋を明るくする。
慶太の姿は何処にもない。
夢…だったのだろうか。
今、
話してたこと。今、見てたもの。
全てが嘘だったように、そこには何も残っていない。
「慶太…」
先程まで彼が居た場所をぼんやりと眺める。
一滴の涙が、頬を伝っていた。
「繭―!!ご飯よー!」
母の呼ぶ声が、廊下に響く。
「いい…いらない…」
一日中泣いていたその顔は、腫れて膨らんでいる。
慶太への想いを、それが表しているように。
月の光が部屋を満たす。
ずっと座り続けていて、腰を痛めた。
涙で滲んだ視界はどこもピントが合わない。
しかし、うっすらとした人の形は、それでも分かった。
「慶太…?」
「ごめんな。俺、日の光には隠されるんだ。
月の光なら見えるんだけど…」
「一日なんて、嘘じゃない…。
最初から言ってくれなきゃ、期待しちゃうよ…」
何粒もの水の粒が、頬を伝って床に落ちる。
わたしの心は、全て慶太への想いでいっぱいだった。
「ねぇ、あんたは、わたしの事、好き?
生きてた頃にも言ってくれなかった…。
わたしは…あんたが、好きだよ?…あんたは?」
「俺…?お、俺も、好きだよ。
今も、生きてた頃も!ずっと…」
そういうと彼は、わたしの腕を強く掴んで言った。
「俺と、来てくれないか…?もう、離れたくないんだ」
「ホント…?」
「…お前を、死なせる事になるけど…」
「ううん。わたし、行く。死んでも、良いよ」
もう、この世に未練はない。
わたしは、いつでも慶太と一緒に居たいと思ってた。
死んでまで、彼と一緒に居たいと、思った。
わたしは、彼の手を握る。
彼はそれをしっかりと握り返し、引いて行く。
月の光に導かれるように、わたしと慶太の魂は吸い込まれていった。
また一つ。この世から愛を求める魂が、消えていった……。
――END――
友達とラジオドラマみたいなものを作ろうという事になり、その原作です★
思いっきり友達の理想ですが;;(笑)