第三話
見にくいです。
当然だがトーマは自分の事を偽っている。魔王の事は当然ながら、自分の年齢や経歴、ほぼ全ての情報を人には教えていない。知られていいことはない。もともとは慎重な性質なのだ。
それ故に、長く同じ場所には留まれない。いくら若く見えると誤魔化そうと、十年でしわ一つ増えないのには無理がある。
同じ理由で、職にも就きにくい。就こうと思えば就けるだろうが、やはり身分の保障が無いとまっとうなものは少ないし、見た目は永遠の二十代前半、一番の特技が破壊活動の者が働ける場が簡単に見付かるほどこの世は甘くないのだ。
そこで日銭を稼ぐためになったのが冒険者だった。身元の詮索いっさい無し、血の一滴と名前でなれたときには、逆にこれでいいのかと思う程だった。
それでも慎重にはなる。万が一を考えて、雑務依頼を主にし、魔物の討伐は街の近辺の雑魚のみと決めた。他の冒険者には臆病者、便利屋、冒険者の恥などと笑われたが、所詮は他人。意に介さず関わらずに過ごして数か月。
そこにいきなり現われたのが長期の依頼から帰って来ていたエドワードとリッカの二人。
「よう。お前がトーマか、なんで雑務依頼ばっかやってんだ?」
まったく遠慮の無いいきなりの質問。だがそこには、侮蔑も嘲りも無かった。
適当に流して話を切り上げようとしてもついて来る。その後も顔を合わす度に話しかけて来る。なんと時には依頼にまで誘ってくる。
冒険者向け依頼斡旋所、通称冒険者ギルド(以下ギルド)でもそこそこに有名な二人が、なぜ自分にまとわりついて来るのかが彼には分からなかった。
しかし一週間もすると、いつのまにかトーマはその二人が話しかけて来るのがおかしいと思わなくなっていた。そのとき本人は自覚していなかったが、二人と話すのが少し楽しみにもなっていた。
そこからお互いを友人と認め合うようになるのに時間はかからなかった。酒に誘いあったり、たまに街をぶらつきくだらない話をしたりする。トーマも討伐系の依頼でなければ一緒にこなしたし、二人が悩んでいたりすれば出来る事はしようと思うほどには、大切に思っていた。
「なぁ、そういえばなんで初めて会った時俺に声をかけたんだ? しかもかなりつきまとわれたし」
話を変えるために、だいぶ落ち着いたエドワードに気になっていた事を聞いてみる。
「別につきまとってはなかったろ!? 最初に声をかけようとしたのはリッカだったよな?」
「うん。でもなんでかって言われたら・・・面白そうだったからかな?」
「疑問形かよ。いや、あれはなかなか悪質だぞ? トイレ行ってる間に俺の昼飯のマカロニが{依頼行こうぜ}に並べられてた時とか、変な占い師に変装して、「エドとリッカは良いやつじゃ」的な事を言ってきた時は正直引いたからな」
「うわっ~エド、マカロニはさすがにひくよ。」
「うっ・・・ って、リッカだって占い師、面白そうとか言ってノリノリだったじゃねえか!!」
「そうかそうか、二人とも自分達の罪を認めあってて素晴らしいな。そのせいで俺は宿の女将さんにいい年して食べ物で遊ぶなと怒られ、占い師に呼び止められたせいで急ぎの配達依頼が遅れそうになったんだけどな・・・?」
「「す、すいませんでしたぁ!!!」」
(なんでそんなにビビって・・・。あ、やばい、魔力出てた!?)
不機嫌になってつい溢れでてしまっていた異常な量の魔力を、慌てて戻す。
しかし本気で不機嫌なのではなく、トーマは笑っていた。
(もしかしたら、俺はこうやってだれかといるのに飢えてたのかもな・・・。しかしだからこそ、これからどうするか・・・・・・。)
まず、ダンジョンの敵がトーマのイメージよりかなり弱かった。あの攻略も、最初はボロボロになって普通に一階から出て、やっぱり無理でしたというアピールをするつもりだった。しかしあまりにも敵が弱く、傷一つつかないので、下層へ下層へと進むうちに攻略してしまったのだ。魔術の実験にはなったが。
あそこまで力の差があるなら、二人と一緒に依頼を受けてもいいかもしれない。トーマは今回のダンジョンを経て、そう思っていた。
その後の事もまた、悩みの種だったが。
「話変わるけど、お前らって普段どのくらいの依頼受けてるんだ?」
冒険者に出される依頼にはクラスと呼ばれるものがある。最下のF~最高のA、それぞれ難易度や危険度、重要度によって決められ、冒険者は好きなものを受けられる。が、当然ながらほとんどの被害は自己負担であるため、実力に見合った依頼を受けるのが無難とされる。
それでも毎年自分の能力を過信した若者達がBクラスの魔物討伐や、ダンジョン内の希少素材採取を受けては返り打ちにあう。返り打ちどころかむしろ永遠に帰って来れない者も少なからずいるが。
ちなみにトーマはあまりやりたがる者のいないFの雑務、所謂お使いを主にこなしているため、ギルドからの評価は意外と良い。使える雑用として。
「依頼?クラスか? そうだな、最近はオオツカ森でサファイア鳥の羽採取とか、スクローファボアの討伐とか、Cクラスのを受けてたぞ?」
「この辺だとBクラスはあんま良い依頼出ないからね~。難易度異常に高かったり、報酬安かったり。まあ隣町のプーメルまで行けば良いんだけどさ。」
ちなみにサファイア鳥はその名の通り、サファイアのような羽をもつ美しい鳥である。だが警戒心が高く知能も高いため、物好きな貴族達から時たま出される捕獲依頼はほぼ成功しない。抜け落ちた羽の採取でCランクの依頼だといえば、その難しさが分かるだろう。
スクローファボアは、見た目は大きな猪である。しかしその僅かに反った鋭い牙と、猛スピードからの急停止や方向転換までこなす突進は脅威であり、人の荷物に興味を持ち襲いかかってくるためしばしば討伐依頼が出されるのだ。
「そうか・・・・・・。次はどんな依頼に行くつもりだ?」
「お、もしや行く気になったか? そうだな・・・」
「実際に戦ってるの見た事無いけど、私たちもいるしCクラスなら大丈夫よね?」
「ああ、いくらここの迷宮とはいえ、一人で行けたんだ。そう心配もないだろ。」
本来いきなりCクラスというのは無謀なのだが、普段Bクラスもこなす二人である。なにかあったとしても自分達ならカバーできるだろうという思いは過信ではなく、経験からくる自信があってこそだった。
「わかった。じゃあ明日の九時、ギルドでな。」
そう言うとトーマは、自分の泊まっている宿へ向かっていった。自分にまだ人を恋しく思う心があったことに、喜びとも悲しみともつかぬ表情を浮かべながら。




