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魔王の涙  作者: 森林
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第一話



 ダンジョン。


 そう呼ばれる場所がある。どこまで続いているのか分からないような果てしない迷宮。


 その内部には魔物と呼ばれる獣が自然に“発生”する。どうしてなのか、知る者はいない。


 その内部の壁は誰にも破壊出来ない。なぜなのか、知る者はいない。


 その中では動かない死体等は時間が過ぎると消える。その認識が誤りである事を、知る者はいない。


 だが、そんな知らない、わからない事で溢れたダンジョンに、人々は挑む。金のため、名声のため、人のため、自分のため。

 もちろん、ダンジョンは安全ではない。毎日のように、冒険者たちは散ってゆく。それでも残った者達はまたダンジョンへと赴くのだ。金のため、名声のため、旨い酒を飲むために。












 ここは、日帰りの迷宮と呼ばれるダンジョン。名前からも分かるように、面倒なモンスターや罠などがないため日帰りでも充分な探索、攻略ができる、駆け出しにもやさしいダンジョンである。

 だが十階以降は妥当な難易度となるため、このダンジョンの十五階までを日帰りで攻略できれば、堂々と冒険者を名乗れるだろう。

 そしてこのダンジョンの最下層は、二十階。ダンジョンの最下層にはダンジョンの主を倒せば使える転送装置のようなものがあり外に出られるため、ある程度の実力があれば最下層まで日帰りで攻略できる。

 そんな理由から、このダンジョンは駆け出しからベテランまで、様々な冒険者が訪れるのだった。







その十八階に、一人の冴えない男が立っていた。動きやすさを重点に置かれた服を身につけ、腰に短めの剣を差すその姿は一見、ただの冒険者に見える。

まぁ実際、冒険者ではあるのだが。この男の詳細は──



種族: 人間・魔王


 年齢: 224


経歴:村人→王国騎士団特別中隊→英雄→隠居(百年)→現在(旅人、冒険者)


 ちなみにこの世界の人族の平均寿命はどの種族も七、八十代である。


 男の名は トーマ・エランド。

 四歳で読み書き+人生に必要な計算をマスターした天才だが、その実は前世の記憶(日本人、享年三十三。)を持って産まれてきた幼児であった。


持って生まれた知識とそれゆえに鍛えた体と魔力が騎士団の目にとまり、王国騎士団入隊。精鋭の集まる特殊中隊に所属し、魔王と戦い、生き残った。


魔王を倒した者がなるそれは、職業や役ではなく種族としての魔王。それは受け継がれる魔王の魂。

仲間を失い、不老長寿と人離れした力を得た。


人生に絶望し、自殺も出来ず、盛大に森に引きこもること約百年。

魔王の魂を押さえつけ森の外に出た後、世界を旅し、ある時は村を救い、ある時は捕まった魔物を助け、また旅をする。


そして最近冒険者となり、近くの街に住む元英雄の男は今─── 道に迷っていた。





「うーん、こっちか? ……あぁ行き止まりだ。くっそ、初心者向けのダンジョンじゃねぇのかよ!?」


いつまで経っても見付からない出口にぼやくトーマに、背後からトカゲのようなモンスター、ドラニアが跳びかかる。それと同時に、


《凍れ》


トーマが放ったのはただ一言。魔力を込められた言葉は、言霊ことだまとなり。


パキィィン……


 3m程のトカゲ、ドラニアの頭部を氷像のように変えた。果てしないスタミナと鋭い爪を持つこの魔物は、中堅冒険者でも一人で戦うのを嫌がる。だが脳ごと頭を凍らされてはスタミナも何もない。


 「トカゲごときが俺に不意打ちしようなんざ、千年早いわっ!」


 千年たっても負けないけど。と付け加えつつ、外側の凍ったドラニアの腹を開き肝を取る。滋養強壮効果のあるそれは、わりと高値で売れるのである。


 (さて、そろそろ本気で道を探さないとまずいぞ……。少し急ぐか。)


 運よく十九階の入り口は近くにあり、さらに近くに居た冒険者達のあとを追うことで簡単に最下層まで到着した。


 ダンジョンの主は、基本的に複数で挑むものである。まれに一人で倒す者もいるが、このダンジョンでも少なくとも中堅程度ではそれは不可能だろう。現に先ほど最下層に入っていった冒険者達は四人組だったし、しっかりと道具の準備もしていた。


 (あれなら問題ないだろ・・・ お、もういけるか、早いな。)


 基本的に階層間の移動は階段だが、最下層への階段は扉がついており、一度開けてから三十秒で、中の冒険者がいなくなるまで外からは開かなくなる。だれも戻って来なかったということは、死んだか、無事倒して転移装置で街へ帰ったのだろう。


 「さて・・・初の主か、・・・勝てるよな?」


 森で生きる間にめっきり増えた独り言をつぶやきながら、主であるドラゴンと対峙するその姿は――― やはり冴えない男だった。 



 


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