序章
ある城の一室で、一人の傷だらけの青年が剣をかまえていた。その剣の先にいるのは、背に翼をもち、棘のある尻尾を憎々しげに揺らす青年の倍はあろうかという大男。
青年のその眼に映るは、目の前の魔王と呼ばれる存在と対峙している事への恐怖か。
それとも同じ部隊の仲間を、後ろにあるもの言わぬ屍にかえられた事への憎しみか。
それとも、今自分がその魔王を追い詰めている事からの高揚か。
勝利の報が人族の長に届いたのはその数日後だった。
魔力や魔物、ダンジョンが存在する世界。
そこで繰り広げられた人族と魔族の戦は、人間の青年兵士が魔王を倒したことで終結した。
その兵士は勇者とよばれ英雄となったが、人々の身に余る英雄視とその力を恐れた貴族達の策略に疲れ、深い森の中で余生を過ごしたといわれている。
─── それから二百年の時間が流れた。魔界と呼ばれた場所は魔国と名を変え、幾つかにわかれた人族の国々と僅かながらだが交流を結んだ。
さらに、それまで“人族”と一括りにされてきた者達が、便宜を図るために身体的、歴史的特徴から、名前を変え区別されるようになった。
一番数が多く、広い地域に生きてきた歴史をもつ種族を「人間」と。
森と話し、森を愛し、森に生きてきた種族を「エルフ」と。
大地と石を崇め、高き誇りを胸に生きてきた種族を「ドワーフ」と。
他にも数こそ少ないが特徴あるいくつもの種族ができた。
仲の良い種族、悪い種族。もともと複雑だった人族同士の関わりは種族の区別によりさらに複雑になり、それはまた新たな争いの火種となる。
世界の動きが止まる事は、無い。




