みーちゃんとヨーコ
網代公園で、男の子を遊ばせてるみーちゃんは、やさしいママン。
大きなマザーズバッグに、いろんなものを常備してる。
ミニストップで、買ったパイン味のハロハロ食ってたら、こぼしちゃって、難儀してたら、ウェットティッシュをくれた。
みーちゃんの息子はやんちゃで、かわいい。金色の髪の女の子のブランコ押してあげたり、頭から中央の滑り台降りてきたり…。
マザーズバッグから、喉が乾いて走ってきた息子にクリルタルガイザーを出して飲ませる。
やさしいママンそのもののみーちゃん。
でも、そんなみーちゃんだが、時々、びっくりすることを言う。
「時々、記憶がなくて、買ったつもりのないあひるのぬいぐるみを持って、知らない駅に立ってるのよ。それから、三十万円分、ガチャガチャやっちゃった。それから、銀行口座から、勝手にお金が引き出されるの。」
私は心の底から驚愕する。
「なんじゃい、それ~!ガチャガチャ三十万円分って…どんだけやるんだよっ!」
「私がやったんじゃないの。ヨーコがやったのよ。」
みーちゃん、実は二重人格だった。
やさしいみーちゃんの、もうひとつの人格ヨーコは、その昔、みーちゃんの大切にしていたインコを、本で挟んで殺した。
みーちゃんは、ヨーコと話すこともできるらしく、なんでこんなことするの?と聞いたら、ヨーコは…
「あんたが、インコを可愛がりすぎるから…。」
と、言ったらしい。
ヨーコは、みーちゃんと同じように成長して、時々、みーちゃんの意識をのっとる。
良妻賢母をやってるみーちゃんは、お義母さんに頭が上がらない。ある日、なんかへまをやって、気の強いお義母さんに、ガミガミ怒られてたらしい。
必死で、頭を下げてるみーちゃんだったけど、突然、青空が降ってきて、あとの記憶がない。
気がついたら、お義母さんは、ガタガタ震えてて、家の中はめちゃくちゃになってて、おまけに、旦那さんとお義父さんまで、倒れてる………。
旦那さんとお義父さんが、ケンカでもしたのかしら………って、思ってたら、全部、みーちゃんがやったらしい。
ヨーコが、意識をのっとったあと、お義母さんに、「クソババア、いいかげんにしねえと、ぶっ殺すぞ!」って、暴言を吐き、つかみかかったので、止めようとした男二人を、ひょいひょいって、怪力でぶん投げたという。
「ヨーコになってるときは、アドレナリンがいっぱい出てて、火事場のバカ力が出ちゃうのよ。」
………って、普通に言ってるけど、それって聞いたことがある。
大昔のマンガで、人間の能力は、普段何パーセントかしか使うことができないけど、なんとか神拳は、100パーセントだせるようになる!とか………。
火事場の馬鹿力説もそういう理屈だろう。でも、男二人を、投げ飛ばす力があるとは、思えない。実際に見たことがなけりゃ、信じられないけど………。別にいい。見なくても。怖いから。
やさしいみーちゃんは好きだけど、ヨーコは多分、好きになれない。
いつだったか、いつもはパステルカラーのお洋服着てるみーちゃんが、真っ赤なビスチェに真っ赤なミニスカートをはいていた。私と目が合うと、あからさまに、眉をひそめた。
唇も真っ赤だ。
ああ。ヨーコに会っちゃった。
私は、網代公園をさっさと通り過ぎて、アンドレのマンションの部屋に戻って、ハロハロを食べた。
みーちゃんは、ヨーコにのっとられてるらしく、久しく公園に姿を見せない。みーちゃんの息子は、どこで遊んでいるんだろうか…。