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麻布十番物語  作者: 由妃
24/26

婚活するお嬢さんの……その後

龍君が、手のひらにトゲが刺さってるんだけど、キララが針でつついてとろうとすると


死にものぐるいで暴れるし、アンドレに押さえつけてもらおうとしても


完全にはじっとしてないので、どうにもとれなくて、


二人で龍君を近所の皮膚科に連れて行った。




キララはどっちかっていうと、不器用だし


アンドレは小さい子供の手のひらを針でつつく……とか怖くて出来ないので


専門家なら、どうにかしてくれんだろう、と思ったのだ。




麻布十番の皮膚科の先生は、おじいちゃん先生だった。


龍君の手のひらに刺さったトゲを、龍君が暴れる寸前で


さっと、とってしまったので、キララは超リスペクトした。


おまけに、とっても優しい声で話しかける先生で


龍君なんか帰るときに先生の手を引っ張って一緒に帰ろうとしていた。


まあ、龍君は最近、宅配便のお兄ちゃんとか来ても


手を引っ張って家の中に入らせようとするけど……。




トゲがとれて、手のひらに絆創膏を貼った龍君は


チョコレートチップクリームフラペチーノをすすってる。


龍君のトゲがとれてほっとしたアンドレとキララが


時計屋の隣のスタバの店の前の席で、ぼーっとしてると


婚活するお嬢さんが通りかかった。


いつになく、沈んだ顔だ。




軽く手を振って通り過ぎるお嬢さんを、キララは呼び止めた。


「ねえ、どうしたの?顔色悪いよ。」


「ちょっと話せる?」


お嬢さんが、切羽詰まった顔で、そういうので、龍君をアンドレに任せて


お嬢さんの話を別の店で聞くことにした。


お嬢さんが飲んだくれたい気分だ!というので


駅近くのパチンコ屋の二階に最近できた居酒屋に来た。


午後の四時から開いてる、キララの見つけた激安の居酒屋で


飲んだくれたい気分の時は、ここ。



人がいないのに、注文しても、来るのは遅い。


サモア系?の女の人が一人でお運びしてて、この居酒屋に来ると


南洋のどっかのさびれた日本料理店にいるように錯覚する。


いつ来ても、あんまり人がいない。こんなんで経営大丈夫なのかな……


キララは他人事ながら、そんなことを心配してると、生ビールを一気に飲み干したお嬢さんが愚痴り出した。




「なんか、婚活嫌になっちゃって……いろんな人に会うのもう疲れたわ。

品定めするような目で見る人もいるし、会って三十分で、結婚しようっていう人もいるし。

本当は婚活はしたくなかったけど、周りがうるさいから君と会ったんだって

お断りしてきた男もいたわ。

その男ったら、残念ながら、僕たちは結ばれなかったけど

同じ地球の仲間だよね……地球はいい。僕は地球が大好きだ……みたいな

ナルシスティックなポエムを送ってきたり……ほんと、疲れるのよ!」


「へえ…。そりゃ、疲れるな。」


「だんだん、自分の価値が低く思えて来て、死臭のする古い女ですが、どなたかもらっていただけないでしょうか……みたいな気分になったわ。それで、生きてるのが嫌になって刺身包丁を買ったの。」


「刺身包丁?」


「切腹しようと思って!」


「ぎゃ~~~っ!!やめなよ!何考えてんのよ~!」


キララはびっくりして、飲んでたチューハイにむせた。




「ふふふ。やらないわよ。ただ、あると安心なの。」


「いや……全然安心じゃねーし!かえって心配だし……だ、誰か探すよ~。だから、刺身包丁は刺身作るために使って!」


「あてがあるの?アンドレの同僚とか嫌よ!日本人がいいんだから……。それで、穏やかで優しくて六十代以上がいいわ。」


「ったく、そんなおじいちゃんに知り合いなんかいないよ………あれ?……今日言った皮膚科の先生、絶対、六十代以上だし、優しくて穏やかだったな……ねえ、この近くの皮膚科にいってみなよ。理想のタイプがいるかもよ!」





半年後、皮膚科のおじいちゃん先生とお嬢さんは結婚した。


お嬢さんは、今では病院の受付をしたり、雑務をこなしている。


なんでもお嬢さんはいろんな資格をとってて


保険の点数を計算する面倒な仕事もできたらしい。


おじいちゃん先生の有能なアシスタントとして、活躍してる。


でも、最近、やけに痩せたので、どうしたのって聞いたら


失恋しちゃったのって言う。


「ええ~っ!新婚なのに、なんで失恋?まさかもう不倫?」


「違うのよ~。ときめきメモリアルってプレステのゲームで、リオン君って男の子と学園恋愛してたんだけど、好き好きっていっぱいスティックでつつきすぎて、嫌われちゃったの………。だから、悲しくてご飯が喉を通らなくなっちゃって………」


「なんかもう……なんも言えない……。」


キララは、少し腹たった。


でも、刺身包丁で切腹する話を聞かされるよりましだよな~と


遠い目になって、龍君のお迎えに行くのだった。

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