僕は龍☆他の星からきました。
自閉症児、龍君目線のお話です。あながちフィクションじゃなかったりして。
僕は龍。シリウスAから、この星に来てる。両親を選び、受胎した肉体に宿り、幼少時から地球人として暮らしている。
僕のIQは、平均的な地球人の半分ぐらいだが、そのくらいに設定しないと、いろいろと面倒なことになる。シリウスAの知識をこの地球に持ち込むことは、許されてない。他の星に転生するときの決まりごとだ。
シリウスAは、この星とは違った方向に進化した星で、地球人の様子を見ては、暗澹
あんたん
たる気持ちになっている。
どうして、自分の体に有害なものを作り出すんだろう?自分と自分の住んでる星は別物だと思い込んでるんだろう?
地球に住んでる者はみな、地球そのものとつながっている。
自分の身体に入れたくないものを、地球に埋め込んで一体どういう事態を引き起こすか全くわかっていない。
最近の天変地異は、全て核爆弾の地下実験の結果だ。マントルに多大な影響を与えた地下実験は、地震や洪水、異常気象を引き起こしている。
自分の体内で核爆弾を爆発させたくないなら、地下でもやるべきではない。そのツケはあまりにも、大きいのだから。
原子力発電に頼る限り、これからも事故は続くだろう。原子の力はもともと人間が制御できるような代物ではない。制御できるというのは、あまりにも楽観的な思い込みに過ぎない。
だいたいウランやプルトニウムに頼って、電力を得ることは、便利さと引き換えに自分の体にセシウムを埋め込むことと同じだ。
全て、地球と人類は別の生き物という発想から来てる。とても、悲しいことだ。
僕は見かねて、地球に降りたった。地球人の感覚を知りたかった。シリウスAでの、いろんな能力は封じられるが、この星が苦しんでいるのを見てられなかった。
僕がここにいることで、シリウスAから光が届く。無明の闇を照らす光が……。
目に見えるものではないが、僕という個体の深層意識を地球人の深層意識に加えることで、地球人全体の深層意識に少しだけ変化を与えることができる。
僕の深層意識はシリウスAの深層意識とつながっている。全ては分けられているというのは、間違った思い込みだ。星に存在するものは、全てつながっている。ただ、地球人はそれを感じることができない人が大多数だ。
すべての悲劇はそこから始まっている。
…*…*…*
僕とキララとアンドレは、フランスを出ると、ヴァチカン市国へ行った。キララがシスティーナ礼拝堂の天井画を見たがっていたから。僕たちは、ミケランジェロの「天地創造」を見上げて首が痛くなった。
東京に帰って来てみると、僕の両親は離婚していた。原因は双方の浮気。
官僚女子以外にも、彼にはたくさん愛人がいるのをママは知っていたけど、僕をキララに預けていたときは、蜜月が二人に再び訪れて、これからもずっとその状態が続くと錯覚していた。でも、パパの浮気ぐせは治らず、僕がいなくなったんで、また銀座で働き始めたママには、新しい愛人が出来た。そして、今は六本木のリッツカールトンのレジデンスに住んでいる。
僕はあの二人にはあまり必要とされてなかった。施設に行くのも、別にかまわなかった。僕の仕事はただこの地球に肉体を持って生まれて来たことで、ほとんど果たされている。あとのことには、あまり興味がない。僕という個体がどこで、誰と暮らそうと、どうでもよかった。
でも、キララたちは僕を必要としてるみたいだ。カブトムシはいるし、僕はキララとアンドレと暮らすことに、なんの異存もない。夏休みが終わると、毎日麻布小学校にキララと手をつないで、通っている。学校が終わるころ、キララは昇降口で、僕を待っていて、あちこち道草をしながら帰る。
そして、時々、ママのいるリッツカールトンのレジデンスに行って、キララはママとお茶を飲み、僕はアイスクリームを浮かべたコーラを飲む。キララとママのおしゃべりが終わるまで、テレビを見たり、DSをやったり………。
僕のママは、僕と暮らしてた時より、綺麗になった。爪にきれいなグラデーションが入ってて、見とれた。僕は、そんなママが好きだ。僕が生まれてくる母体として、ママを選んだのは、彼女がとても美しかったからだ。
僕にママの部屋に泊まるかどうか聞くときがあるけど、エコラリアをしないことで、僕はキララと帰りたいって意思表示する。僕はカブトムシが餌を食べるのを、毎日見たい。アンドレと一緒に。
フランスに行ってからというもの、普通の恋人みたいにKissするようになったキララとアンドレだけど、相変わらずアンドレはアニメと幼女とカブトムシに夢中だし、キララは脳内彼氏が好きで、二人にはあんまり接点も、会話もない。でも、同じ家に住んでてケンカもなく、一緒に毛布にくるまって眠る仲間だ。
でも、僕はこの三人の生活が気に入ってる。変化がなく、穏やかで大好きなカブトムシがいる生活が……。
僕は夢見る。地球全体が、こんなささやかな幸福感で包まれるときが来ることを。それは、シリウスAからの光と同様に地球の未来を変えるだろう。
FIN
この話が最終話のつもりだったけど、キララの知り合う面白くて、魅力的な普通の人たちはまだまだいるので、まだ続きます。