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麻布十番物語  作者: 由妃
19/26

一応、最終回

モダンなインテリアの応接間で、畑の地図を見ながらアンドレの両親が来るのを待つ。エアコンが利いていて外の暑さは感じられない。



窓からは、ジロンド川が流れているのがよく見える。手前には羊が群れる農場が。ジロンド川が見える畑はいい畑なんだって。


川が太陽を受けてキラキラと輝いていた。



 「ジロンド川までの距離は300メートル。川面が太陽の熱を反射して、微妙に温暖な効果を保つんだ。1991年は大規模な霜害に遭って、生産量が減ったり、生産ができないシャトーが相次いだけど、シャトー・ラトゥールだけは、ジロンド川のおかげで、7万3500本を生産できたんだ。」と、アンドレが珍しく親切に説明してくれた。


でも…。ん?今、なんて言った?シャトー・ラトゥールって聞こえたような……。



「収穫した葡萄はコンベアーにのって、葉や余分な茎を取り除いて、未熟な果実は捨てるんだ。芯をとった後で再び、選別できる流れになっている。後ろから照明を当てて、粒単位でチェックするんだ。」


「ヘェ〜。詳しいじゃん。それより、あんたこんなでっかい家の息子だったんだね。私と龍君、絶対、どこの馬の骨だって言われるな。」


龍君は窓から見える羊の群れに夢中だ。



「葡萄の収穫者はいつも同じ人で、毎年、150人ほど雇うんだ。経験者を軸にチームを組むようになってる。」


「ねえ、人の話聞いてる?」



「おまえが馬の骨って罵られるくらいなら、連れて来てない。あ、それから龍君はオレの実子ってことにしてあるから。」


「ふうん。なんで?反対されるから?」


「いや、説明するのが、めんどくさい。」


「あ、そう。でも、信じるわけないじゃん。アンドレが日本に来たのが五年前なのに、どうして九才の子供が生まれてんだよ?」


「誰も気にしないよ。そんな細かいこと。」


フランス人が、大雑把なのか?それとも、アンドレの家族だけがそうなのか?とにかく、馬の骨と言われるのは、覚悟しとこう。もし、好意的に迎えられたとしても、


「ご職業は?お仕事は何をなさってるの?」「ニートです。」


……で、気まずくなること、うけあいだ。なんかいい嘘、思いつかないかな~。


と、思ってたら、アンドレの両親が登場。ひえ~。お父さま~!自宅なのにスーツ着てる。お母さま!上品なマダムだなあ。派手なプリントのワンピース着てるけど…。




それにひきかえ、今日のキララの服装……。


いつもと同じ。アンドレのおさがりの首のとこがのびたTシャツに、ダメージ加工してないのに、ダメージ加工したみたいなデニムの短パンに、ボロいスニーカー。



龍君はアンドレがコーディネートした、天体戦士サンレッドのプリントTシャツに、短パン。


アンドレは、いつものヨレヨレTシャツにリーヴァイスだ。このアンドレが、もうちょっとおしゃれしろとか、言ってくれれば~!もうちょっと好印象だったのに~!


そう言えば、ファースト・クラスの席でも浮きまくっていた私達。エコノミーだったんだけど、オーバーブッキングでファースト・クラスに乗れちゃいましたみたいな雰囲気をかもし出しまくっていた。


なんか皆様、カジュアルな中にも上品なコーディネートでいらっしゃったなあ。事前に上品な格好しろと言われても、どんな格好すればいいかわからないけどさ。



とにかく、アンドレのパパとママは、上から下まで、私と龍君をうさんくさそうに眺めた。


そりゃあそうだろう。息子がいきなり、外国人の嫁と、もうでっかい息子を連れて来たんだから…。


「ア…アハ。ボンジュー。Nice vous rencontrer.Mon nom est Kirara.Le nom de cet enfant est Ryu.」


これだけは練習してきたのだ。「初めまして。私の名前はキララです。この子の名前は龍です。」って。



鷹のような鋭い目で、こっちを見てるアンドレのパパがなんか言った。


「Est-ce que vous êtes une femme japonaise gracieuse?」


何を言ってんだかわからない。アンドレを見ると、ウンウンってうなずけってジェスチャーだ


「ウ…ウィ。」


「Est-ce que vous êtes une femme adulte?」


今度は、アンドレのママがやはり、鋭い目つきで聞いてきた。またもや、全然わからない。アンドレが、またもやウンウンって、うなずけと言うサインだ。


「ウィ。」



アンドレのパパとママは、相好を崩した。そんで


「 Bienvenu à ma maison.   」(我が家へようこそ)って、私と龍君を抱きしめてキスの雨を降らせた。




...*...*...*...*...*...*


アンドレパパに訊かれたのは、「あなたは大和撫子ですか?」で


アンドレママに訊かれたのは「あなたは成人女性ですか?」だった。



変な質問してくるなあ。さすがは、アンドレの両親だ。


とにかく、ディナーまで、その辺案内してくれるっていうんで、ついていった。



葡萄畑を見せたいらしい。



このビルと葡萄畑一帯は、万里の長城かよって塀で囲まれてるんだけど、中にも門があって、その両脇にチェスの駒のでかい奴が置かれてる。



門の中は、葡萄畑が広がってるんだけど、畑の周りには、矢車草がいっぱい咲いてて、すごくきれい。どっかで聞いたような光景だ。


そうだ。ムッシュウ・ランべールが言ってたシャトー・ラトゥールの畑の様子と一致する。


すごいとこに来ちゃったな~。帰ったら、ムッシュウ・ランべールに自慢しようっと。




ディナーは、ビルの中の宴会場みたいなところで行われるらしいんだけど、一体、何人来るんだ?それになんで、室内にメリーゴーランドがあるんだよ?当然のごとく龍君も、他の子供達と乗ってるし…。



古びた木のメリーゴーランドは、わざわざ借りた物だった。集まった子供の数は10人近かった。


子供達は大喜びで、大はしゃぎしてる。


勿論、龍君も楽しんでいたけど、ディナーが始まっても中々降りたがらなかった。



突然1人の男性が、「さあさあボンボン(キャンディー)のお山だよ!!」と言って、本当にボンボンで作られたお菓子の山を運んできた。


それで龍君はやっとメリーゴーランドから降りて、他の子供達とアイスクリームやマカロン、マッシュマロとかをパクついてた。



大人たちは、そのスキに宴会……じゃない、パーティー。シャンパン飲み放題だ!


でも、キャビアって、手の甲にのせて食べるものなのか?それとも、アンドレ一家だけ、こんな食べ方してるんだろうか?


ちょっと食べたけど、イクラの醤油漬けのが、うまいと思う。




4時間以上あったディナーの時間も、龍君はあきることなく楽しそうだった。



物は試しで、メリーゴーランドには私も乗ったんだけど、全部、木で出来ていて、かなり傷んでいる。かなりの年代物だ。日本だったら、とっくに捨てられてるような代物だった。


しかし、立派に現役をつとめてる。あっぱれだ。



パーティーも終わりに近づくと、アンドレと私にキスしろって、大盛り上がり。




アンドレと私は、セックスぐらいはするけど、キスとかする仲じゃないので、困った。しかし、この盛り上がりの前ではしないわけにはいかないだろう。



私とアンドレは、その時、初めて…キスした。



これはかなり…ハズカシかった…。アンドレも、赤くなってる…。飲み過ぎなんだよ…。馬鹿。


...*...*...*...*...*...*



新婚夫婦のために整えられた寝室には、お花がいっぱい飾られて、ベッドには、ご丁寧にバラの花びらまで散らされてた。



そのベッドめがけてダイブする龍君。フランスで、食べるものあるかなあと思って、サトウのゴハンをたくさん持って来たけど、裂いたローストチキンを口元に持ってったら、食べた。


皮付きの揚げたジャガイモも食べてたし、付け合わせの茹でたジャガイモも食べてた。けっこうなんとかなりそうだ。



シャワー浴びて、パジャマに着替えて、さあ、寝ようかって時に、アンドレが言い出した。


「さっきの…アレさ…。」


「さっきのアレって?ああ、キスのこと?ハイハイ気持ち悪かったんでしょ。もう終わったんだから、早く寝ようよ。」


「いや…。悪くなかったなって。」


「ふうん、良かったじゃん。龍君寝かせなきゃ。早く電気消してよ。」


アンドレは電気を消した。


「おやすみ~。」


「オレ…もう一回…キスしたい。おまえと…。」


アンドレは何を言ってんだろう。そして、私は何をときめいてんだろう………。


「もう一回キスしよう。そして、これからもっとキスしよう。普通の夫婦みたいに。」


「………うん。いいよ。私も、さっきのアレ………嫌じゃなかったよ。」



そう言うと、アンドレがキスしてきて、私達は、普通の夫婦みたいに、いっぱいキスをした。


私たちの間では龍君が、疲れたのか、早くもすやすやと寝息をたてていた。


おやすみ、龍君。



FIN


番外編書くかも…しれない。

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