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麻布十番物語  作者: 由妃
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家族旅行

上様は、ニートで居候の私と、外国人で独身のアンドレでは、龍君に安定した環境を与え続けることができない。アンドレが転勤したら、龍は一体どうなるんだ?ニートのキララが引き取るのか?二人が結婚でもしてれば、話は別だが、やはり任せられないって言ったらしい。


とりあえず、今月末に決まってる龍君の施設への入所までに、よく二人で話し合ってくれって言って、去ってった。沢尻のヤツ、「アンドレと結婚して、龍を引き取ってよ。私は、キララに龍をまかせたいもの。」って無責任なこと言ってった。


愛のない結婚だけど、龍君を引き取るためには、仕方ない。しかし、アンドレも思い切ったな。リーナちゃんはいいのか?あとで、好きな人できたら、どうするんだろう。





上様御一行が、帰ったあと、アンドレとその辺を煮詰めて話し合った。


「本当に愛のない結婚でいいの?私はそれでいいけど、アンドレは、本当にそれでいいの?あんたは愛

《アムール》の国の人間だろうが。」


「別にいい。愛のない結婚してるヤツなんて、腐るほどいるだろ。それに、愛が理由で結婚したら、もって三年か四年だよ。だいたい、オレは、アムール

より、カブトムシだ。カブトムシ仲間は永遠だ。おまえもな。」


「はあ?私は別にカブトムシ仲間じゃないし!カブトムシにこれぽっちも興味ないし!」


「おまえは、カブトムシを認めてるだろう。カブトムシに一目おいてる。だから、他の女みたいに、カブトムシと私とどっちが大事なの!とか言わないし。」


「アンドレにあんまり興味がないだけだよ。愛もないけど。」


「オレには、そんくらいでちょうどいい。カブトムシと龍君とおまえがいたら、毎日、楽しいって思ってた。あの二人の気まぐれで、また龍君がシセツに行かせられるはめにならないように、養子にして、親権を取るんだ!」


「ほ~。ちゃんと考えてるじゃん。じゃあ、明日、上様の家に行こう。それで、龍君つれて来ようよ。」


「その前に、婚姻届の手続きだ。フランス大使館だと遅いらしいから、区役所だな。お互い、必要書類をあつめようぜ。」


「ラジャー!」



...*...*...*...*...*...*...*



一ヶ月後。



アンドレと私と龍君は、アンドレの実家に行くべく、機上の人となっていた。


なんとエール・フランスのファースト・クラスに乗ってる。


なんでも、家族でフランスに帰る時は、会社で費用を持ってくれるんだとさ。


「いい会社に勤めてんな。アンドレ、ほめてつかわす。」


「うるせえ!おまえなんか、荷物用の倉庫で十分だ。」



龍君は、雲とか夢中で見てて、心配してたパニックは、起こらなかった。でも、長いこと、機内にいるので、ひまつぶしのDSとiPadは、欠かせない。


iPadに死ぬほど、ゲームアプリを搭載してるのだ。それでも、飽きて大暴れしたときのために、睡眠薬も処方してもらった。




...*...*...*...*...*...*



アンドレの書類にちょっと時間がかかったけど、区役所に婚姻届を出して、その足で、龍君を引き取りにいった。


「沢尻も上様も会いたくなったら、いつでも会いにきてよ。」


「そうね。近所だし。」


犬の子もらうよりも、あっさりと龍君は、私とアンドレの子供になった。



沢尻のこういうとこが好きだ。手に負えないくせに、変に母性愛とか義務感で、ことをめんどうにしないところが。


人によっては、冷たいって思うかもしれないけど、自分のキャパを知ってて無理しないって、いいことだと思うな。



上様に腹も立ったけど、まあ、誰でもすごく苦手な音とか嫌いな音とかあるように、上様にとっては、龍君の声が、ガラスとか黒板を爪でひっかく音みたいに聞こえるのかもしれない。


血は水よりも濃し…とか、したり顏で言うやつがいるけど、血がつながってないから、寄り添えるっていう場合だってあるのにな。



アンドレはなぜか浮かれてて、記念にでかいクワガタ買うとか言ってる。記念って…クワガタもカブトムシも寿命短いのになあ。いや、クワガタは、世話の仕方がうまけりゃ、冬を越すっていうから、カブトムシよりは寿命が長いのかもな。



カブトムシだろうとクワガタだろうと、どっちでもいいけどさ。


指輪も式も愛もない結婚だけど、龍君のおかげで、なぜか家族になれた私達。色恋の愛はないけど、私もアンドレも、そういうの苦手だから、これでいい。


でも、家族愛はあるってことに、しようか。



龍君がいなくなっちゃうかもと思ったら、耐えられないって思った。龍君の世話してるうちに、情が移ったとか言われるんだろうけど、ちょっとちがう。



龍君といると、自分の欠けてるところとか、いびつな部分とか、そのままでいいんだって、思えた。私もアンドレも、常識に欠けてるし、生身の異性を愛せない。龍君もコミュニケーション能力が欠けてる。でも、それがなんだっていうんだ?


こういうふうに生まれついてんのさ!そんなふうに思えた。


多分、施設でも龍君はそれなりにやっていくんだろうと思う。龍君がかわいそうだから、ひきとるんじゃない。



私たちが龍君を必要としてるから、引き取ったのだ。


龍君の暴れたりすることろも、夜寝ないところも、龍君がいなくなっちゃうことに比べたら、たいしたことじゃなかった。


とにかく、今は、こうやって家族として旅行が出来て、幸せだな。



...*...*...*...*...*...*...*



アンドレの実家は、ワイン作ってて、葡萄の畑の近くにあるんだって。


霜がおりたりとか、天候が思いがけない事態とかになっても、すぐ駆けつけられるように、そうやって、葡萄のそばに住んでるんだって。


多分、ど田舎だ。



ボルドーD2という県道、通称メドック街道とかいう道路をレンタカーで走ってる。ジロンド川と平行して南北に貫く道路。



ボルドー市内からブランフォールを抜けて、北に向かう。マルゴーから、サンジュリアンを経て、ポイヤックへ。ひたすらのどかな風景がひろがってる。



急に速度が落ちて、ライオンの塔のそばの門を過ぎると、すぐ右手に電動式のゲートがあって、守衛が詰めている。


「何?ここ?どっか寄るの?」


「ここ、オレの家。」


「はあー~~~っ!?」


びっくりして、素っ頓狂な声を出してしまった。


どうみたって、家じゃないだろ?ビルだろ?葡萄畑のそばに住んでるって言うから、プロヴァンスの村みたいな素朴なとこに住んでるって、思うだろう。普通。


百歩譲って、「プロヴァンスの贈り物」に出てくる古ーい、オンボロの古城シャトーだったら、こんなに驚かない!


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