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麻布十番物語  作者: 由妃
15/26

ケータイ会社のあの人

同じマンションの沢尻(エリカ似の美女の龍君のママ)は、最近、夜出かけることが多くなった。


10時までに帰って来ないから、龍君を風呂に入れて、着替えの袋のパンツとTシャツ着せて、アンドレと私の間で寝かせた。


言っとくが、アンドレと私は一緒に寝てるが、つきあってない!同棲してるが、恋人同士ではない!


でも、最近、馬鹿で鬼畜なアンドレも、龍君がいる時はけっこういいヤツに見えるから、私の目もだんだん悪くなりつつあるんだ。きっと、そうだ。メガネ作るべきかも。



一回、お泊りして、私たちが文句も説教もしないので、味をしめた沢尻は、ひんぱんに外泊するようになった。


常識のある社会人なら、連絡なしに子供を預けてる母親が、外泊続きで帰ってこないと、文句言ったり、説教したりするんだろうけど、あいにくアンドレも私も常識のある社会人とは、いいがたい。



さすがに龍君の学校のある時なら、学校どーすんだよ!ランドセルどーすんだよ!ぐらい文句言ったかもしれないけど、もう夏休みに入ってしまってるから、なんかどうでもよく、沢尻に置いてかれた龍君と過ごしていた。



くそ暑かったが、六本木ヒルズの裏の土手にあるガキどもの遊具のいっぱいあるところにも連れてった。


そんでTSUTAYAのスタバで、一緒にフラペチーノ飲んで、龍君は絵本とか読み、私は外国の写真集とか見て、午後を過ごしていた。


龍君のベビーシッター代は、最初は一日500円(マック代込み)だった。でも、一週間、行方をくらましていた沢尻は「悪かったわね。」って言って、万札を二枚おいて行った。



ドラマとかなら、「ちょっと待って!あなた、それでも母親っ?!」とか言って、万札をたたき返したりするんだろうけど、私もアンドレも、黙って受け取り、ああ、龍君行っちゃった………と寂しく見送るばかりだった。



それで、もらった万札を山分けして、アンドレはヘラクレスオオカブトを買うタシにして、私は自殺願望の強い姐さんに、その金でスプマンテをおごった。


姐さんは、数日後に精神病院に保護入院が決まってたけど、退院したら、また飲もうって、約束した。


どうせまた、龍君はうちに来るし、今度は区民プールにでも連れて行こうかな。


**********



龍君がお泊りしてた時の話。



龍君は、自閉症児特有の睡眠障害っていうのがあって、夜中眠れなくて、泣いたりする。



そんなときは、夜中だろうがミニストップに、ハロハロを二人で買いに行き、夜中の網代公園で龍君を遊ばせるのだ。


ブランコがキイキイなって、公園を寝ぐらにしてるホームレスのおじさんには悪いが………。




その夜、龍君は機嫌が悪く、ミニストップで暴れた。原因は龍君の買いたかったお菓子がなかったとか、鮭のオニギリが売り切れだったとか、多分そんなこと。


スーパーでも、時々暴れるんだけど、レインマンがパニック起こしてる状態より、タチが悪い。


レインマンは、わあ~~~とか叫びながら、自分の頭を叩くぐらいだが、龍君は、ギャーギャー泣いて、履いてる靴を思いっきり、ブン投げるのだ。そんで、床に大の字になって動こうとしない。


店の品物の並んでる棚とかに命中したり、人に命中したりして、すっごく大変なことになる。迷惑かけた人に、ひたすらすいません!と頭を下げるしかない。



こんなのええかっこしいの沢尻には、耐えらんなかったろう。私だって、すごくヤダ。とにかく、龍君ギャーってパニック起こしたら、先に靴を脱がしちゃう。



でも、そのときは、私も眠くてぼーっとしてて、靴を脱がすタイミングがちょっと遅れた。


龍君がブン投げた靴が、ミニストップの弁当を選んでたおじさんの体に、まともに当たってしまった。やばい………。


「こらーーーっ!」


ごもっともです。痛いよね。子供の運動靴なんか勢いよく当たったら………。


「甘やかすなーーーーっ!ちゃんとしつけろっ!甘やかすから、こんなワガママになるんだっ!」


「すいません。すいません。」


「ちゃんと、子供にも謝らせろっ!」


そんな無茶な…でも、一応、床に寝転がって暴れてる龍君に言ってみる。


「おじさんに謝ろうね、龍君。靴投げたらいけないよ。」


でも、そんなことおかまいなしの龍君。店の中は、なんなの~っていういやあな雰囲気に……。


「すいません。ちょっとパニック起こしちゃってて。今、出ます。」って言って、龍君の片足つかんで、ミニストップの外にひきずって行く私。小三にしては、体のでかい龍君を抱っこして移動するのは、無理なのだ。


かなり異様な光景だ。人通りの少ない夜中でよかったけど、深夜の麻布十番に響く、龍君の泣き声。



こっちが泣きたくなってくるよ。



ミニストップと網代公園の間の道路にしゃがみこんで、龍君を抱っこしてなだめるけど、なかなかおさまらない。途方にくれるけど、こんなのしょっちゅうだ。


沢尻が龍君に、手を上げるようのなったのも、こういうのに疲れ果てたんだろう。



ひたすら泣き止むのを待つだけなのだ。ムツゴロウさんみたいに、龍君をヨオッシャヨオッシャって、やったり、アンパンマンの歌を歌ったり、考えつくことをみんなやる。


そして、時々脅す。


「泣いてると、カブトムシ、いなくなっちゃうよ!いいの?」


「いる!」(よくない!)


そんなこんなで、落ち着くのを待ってた。




後ろに人の気配がして、さっきのおじさんがいるのに気づいた、くそう~。面倒だな。まだ、怒ってるのか…。


「この子、あんたの子供か?」


どこに目をつけてんじゃい!おっさん!9歳の龍君が二十代半ばの私の子供なら、私は中学生で産んでるってことだよ?どんだけヤンママだよ?


なんて、ことは口に出さず、説明するのが面倒くさいので、「はい。」と答える。


「さっきは、怒鳴って悪かったな。困ったらここに連絡しなさい。」って、名刺をくれた。


「………はあ。ありがとうございます。今、困ってるんですが…家まで運ぶの手伝ってもらえますか?」


「あ?そ………そうだな。」


おじさんと二人で、まだ泣いてる龍君の両脇抱えて、アンドレのマンションまで帰った。


「ありがとうございます。助かりました。」


「なんで、こんな夜中に子供を連れ出すんだ?家で寝かしとけ。」


「はあ。ジヘイショージで、スイミンショーガイなもんで、夜、寝ないときがあるんですよ。」


「?」


もう明け方だ。空が白み始めてる。




アンドレのマンションに着いても龍君は「ガチャガチャ!(やりたい!)」とかまだ、ダダこねていて、私も途方にくれたけど、手伝ってくれたおじさんに、手厚くお礼を言って、エレベーターに引きずっていった。



龍君も私も汗だくになったので、シャワーを浴びてさっぱりした。


服を洗濯機に入れるまえに、ポケットから名刺を出して、ギョッとした。


「孫………」って書いてあったから。


なんで、あの人が?元麻布に住んでるって噂は聞いてたけど、なんで真夜中の麻布十番のミニストップで、弁当選んでんだよ??


六本木のグランドハイアットとか、リッツカールトンとか、どっかの高級料亭とかからデリバリー頼めばいいじゃん!




さっぱりした龍君は、もう一回パジャマ着て、アンドレの隣にもぐりこんでた。


ふう~。つっかれたあ~。私も寝ようっと。


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