アインシュタイン似の氣功の先生
麻布十番には、なぜか気功とか鍼治療、足裏マッサージと疲れたときに、癒されたくなる癒し処が、いっぱいある。
ニートの私は疲れてるわけなんんだが、気功って何?と好奇心が抑えきれず、受けに行ってみた。
気功の先生は、すっごく背が高く、灰色の髪の毛は、ベートーベンか、アインシュタインかってくらい乱れてて、ちょっといっちゃってる人に見えなくもない。
私は、「腰痛と肩凝りが………。それに目が疲れやすいんです。」と、適当なことを言い、先生が近寄ってきて、首を触ったり、コメカミを触ったり、いわゆる触診してた。
「あなた、首、曲がってるよ。ムチ打つような衝撃を受けてる。」
「そういえば………」
私は中学生のとき、体育の時間、どっかからぶっ飛んできたバレーボールを顔面で受けたことがあり、けっこうな衝撃だった。多分、そのことをおっしゃっておられるんだろう。
にわかに、乱れ髮の先生に、尊敬の念がわく私。
とにかく、治療のための小部屋に移動して、横になる。先生は、両端がとがった水晶とか、なんだかしらんがいろんなパワーストーンで、私の体を撫でて、そして、フンッフンッフンッ!って、十字をきったり、体には触れずに、石の先をみぞおちの下あたりに向けて、グルグル回したりしてた。
三十分弱で、治療は終了。
お金を払い、外に出ると、物がはっきり見える!視力は0.6なんだけど、ニートで、メガネ作る金もないので、放置しといた。明らかに、視力が上がってる!体も軽い!
別段つらいところも無かったけど、空気が深々と、肺に入ってきて、こんな爽快感は、ないってくらい爽快だった。
子供時代はこんな爽快感は、けっこう日常的にあったけど、大人になるにつれ、なくなってた。そんなのあったっていうのも、忘れてたもん。
気功がすごいのか、あの先生がすごいのか…。半年後、予約を入れようとすると、アシスタントの女性が言いづらそうに
「先生は海外旅行に行ってます。いつ帰って来るかわかりません」と、言う。
「では、お帰りになったら、連絡下さい。」と言って、電話を切ったけど、なんか釈然としない。奥歯に物が挟まったような言い方だったような………。
一ヶ月後、先生が旅行から帰ったとアシスタントの女性から連絡が来て、早速、私は予約を入れた。
予約当日、先生がげっそりやつれてたんで、びっくりした。
「先生!具合悪かったんですか?それで、お休みしてたんじゃ………。」
「いや………ちょっと、留置場に入ってたんですよ。」
「はあーーーーっ??」
アシスタント嬢が、奥歯に物が挟まったような言い方してたのは、これか!これを隠してたのに、先生ったら、あっさり言っちゃって…どんだけ、浮世離れしてんだよ。
「なんで、留置場なんかに入ってたんですか?」
私は根掘り葉掘り聞くことにした。しかし、こんな暗く重ーい事実を、あっけらかんとしゃべる先生に戦慄し、聞かなきゃ良かったと後悔した。
「妻がストーカーと無理心中したんですよ。」
こんなことをおっしゃってる。どうよ?このまま聞いちゃっていいのか?キララ………。
しかし、先生はとうとうと話す。
「私の患者だった男が、私を医師法違反で告発して、留置場に入れて、その間に妻を拉致して、知的障害のある妻を脅して、劇薬を飲ませて、自分も飲んで死んだんです。告発した本人が、死んだから、私は無罪放免になって、出て来たんです。」
(なーにーそれ~ーーーーーっ!?実話ーーーーーっ??)
(それ………奥さんがストーカーと無理心中したんじゃなく、ストーカーに殺されてるでしょっ!!)
気が遠くなったけど、先生が何事もなかったかのように、治療するっていうんで、治療はしてもらい、爽快になって帰ってきた。
しかし、爽快感は、低い。あんな話を聞いちゃったんだもん。
多分、もうここへは来ない。
あの話が本当なのか嘘なのか、確かめたくもない。
本当だったら、怖すぎるもん。