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内緒-2

それが、大丈夫じゃなかったみたいなの。

雑誌に掲載されて話題になって連載が決まって、ライトノベルとして出版される事にもなっちゃたみたい。

学校でも大騒ぎになりかけたけど、如月先生と女子生徒じゃありえないだろうと言う話しになったみたい。

お話も沖縄の事や主人公達の歳もかなり違ったみたいだしね。

その連載の原稿を取りに来ていた訳。

その題名は『アクアマリンの瞳に抱かれて』ペンネームは『仲村 歩』。

なんでも如月パパが好きで良く聞いたロックミュージシャンの名前を捩ったんだって。


「ルコ、茉弥、行くぞ。こんなクソ親父捨てておけ」

「そんな言い方しないで。如月パパ」

「いいんだよ。家族より原稿だと、この仕事馬鹿が」

「宅さん。はい、これ原稿のCD」

海が、待ちくたびれて困惑気味の宅に優しい笑顔でCDを渡した。

「海ちゃん、本当にありがとう。海ちゃんが天使に見えるよ」

海に礼を言って受け取ると宅は直ぐに隆羅の家を飛び出し出版社に向かった。

「はぁー、何で渡すかなぁ。これから俺はお守りだって言うのに」

「ちゃんと、書いてあるじゃん。如月パパ」

「当たり前だ。仕事は仕事だからな」

「大人じゃん」

「そのうち、ルコも登場させてやるからな」

「それだけは止めて。絶対にバレちゃうよ」

ルコが抱っこしている茉弥の顔を覗き込むと眠たそうにウトウトとし始めていた。

「茉弥がニーブイカーブイしているから行くぞ」

「何? その変な言葉」

「沖縄の言葉でウトウトと居眠りをしていると言う意味だ」

「何で、隆羅はそんなに沖縄の事知っているの?」

「企業秘密です」

「ケチんぼ」

「海には嫌われたくないしな」

「どうして?」

「企業秘密だ。ルコもう行くぞ。午後からは海とデートだからな」

「隆羅、デートなんて話聞いてないよ」

海が驚いて目をまん丸にしている。

隆羅から今日の予定なんて何も聞いていなかった。

「準備して待っておけな」

「準備って何処に行くの? 教えてよ」

隆羅が海に投げキッスをして答えを返さずにルコと部屋から出て行った。

「もう、隆羅のバカ。でもデートならいいかなぁ。何着て行こうかなぁ」

海が嬉しそうに寝室に行き洋服を選び始めた。


マンションの地下駐車場で隆羅が茉弥を抱っこしてあやしながら車に向かっていた。

「しかし、何でチビやガキに、こうも好かれるかなぁ」

「小さな子に好かれるのは、子どもがこの人は優しいと感じるからじゃない。ガキんちょでも如月パパは1人の人間として同じ目線で対等に扱うでしょ、だからだよ多分ね」

「子どもだろうが大人だろうがそんな事は関係ないんだよ。大人でもガキなヤツが居るし子どもでも大人の考えをするヤツも居る。人間と人間だからな本当は上下なんて無いんだよ」

「そんな事、言うのパパぐらいだよ」

「茉弥、そうなのか?」

「きゃっ、きゃっ」

隆羅が茉弥の顔を見つめると茉弥が声を上げて喜んだ。

「ご機嫌だな。茉弥」

「茉弥も如月パパの事、大好きだもんね」

「さぁ、行くか」

「うん、パパこの車なんて言うんだっけ」

「ケーターハムスーパー7かぁ」

「そう、茉弥のお気に入りなの」

「それで、俺に検診に付き合えと、でも会場に俺は入らないからな。乗ってくれ出すぞ」


いつも検診は隆羅の実家に近い所に行っていた。

本来なら住んでいる地域の検診に行くべきなのだろうがそれは出来なかった、もしルコに子どもが居る事が学校にでも知れたら大騒ぎになるからだ。

こんな事は如月家にしてみれば造作の無い事だった。

1時間ほどで検診会場に着いた。

「ほら、行って来い」

「本当に来てくれないんだ」

「お前の旦那に間違われるから嫌なんだ」

「茉弥にはパパが居ないからね」

「ルコ、今なんて言った? 茉弥になんて事言うんだお前は。本気で怒るぞ」

ルコの何気ない言葉を聞いて隆羅が真顔でルコを睨み付けた。

「ご、ゴメン。本当にゴメンなさい」

「今度、言ったら。いくらルコでもただじゃ済まさないからな」

「ゴメンなさい、2度と言いません」

ルコがシュンとして俯くと、隆羅が車から降りて茉弥に「おいで」と手を出した。

茉弥が嬉しそうに隆羅に体を預け、隆羅が茉弥を抱っこして歩き出す。

「パパ、待ってよ」

「置いて行くぞ」

慌てて車から降りて隆羅に駆け寄り、ルコが隆羅のシャツの裾をつかんで歩いた。

駐車場から直ぐに会場の入り口があり隆羅はそこで待つことにした。

「ここで待っているから。行って来い」

「うん、茉弥『行って来まーす』って」

「しかし、ルコと茉弥も目立つが俺への視線の怖い事、だから嫌だったんだ」

隆羅がブツブツ独り言を言っていた。

周りのママ達の視線が会場の入り口に居る隆羅に集まった。

「ねえねえ、あの男の人。どなたの旦那さんなんでしょうね」

「そうね、ちょっと気になるわよね。素敵な人だし」

「それに、あそこのママ若いわね。幾つかしら?」

「ちょっと、聞いてみましょうよ」

「そうね、少しだけなら」

数人のママさん達がルコと茉弥に近づき話しかけてきた。

「こんにちは」

「えっ、こんにちは」

ルコが戸惑っているとお構いなしにママさん達が話を続けた。

「ちょっとお話いいかなぁ」

「はい、いいですよ」

「こんな事、聞くのは失礼かもしれないんだけれど。歳はお幾つ?」

「えっ、もう直ぐ18ですよ」

「若いのね、それとあそこの男の人とはどう言う?」

「パパですよ」

「やっぱり、この子の」

「いえ、私の」

「ええっ、じゃこの子の?」

「グランパ、お爺ちゃんですよ」

「えっぇぇぇぇ!!」

「私達は検診終わったんでこれで失礼しますね」

数人のママ達の驚愕の叫びが会場に響き渡った。

ルコがママ達に一礼をしてその場から立ち去り隆羅の元に歩き出した。

「如月パパ、お待たせ」

「茉弥終わったのか。帰ろうなぁ」

隆羅が茉弥の顔を覗きこみあやすと茉弥が嬉しそうな顔をする。

「本当にお爺ちゃんみたいだね。如月パパ」

「本当にって酷い言い方だな。茉弥は俺の孫なんだから」

「俺のかぁ、嬉しいな」

ルコは実の父親の顔も憶えていなかった。だから余計に隆羅の事が本当の父親の様に思えるのだろう。

そして茉弥もまた父親の顔すら知らないで育っていく、だからこそ隆羅が『俺の』と言ってくれた事にとても感謝し心から喜んでいた。

「茉弥には、優しいグランパが2人も居るんだもんね」

「そうだ、タコにもちゃんと言っておけよ」

「でも、忙しいみたいだし」

「俺はそんなに暇に見えるのか?」

「そういう、訳じゃ無いんだけれど。話があまり合わないの、若い子とかの話題はあまり知らなし音楽とかも何だかね」

「そうだな、タコはそういう事に疎いからな」

「とても、優しくしてくれるんだけれどね。まだ、慣れないんだ」

「仕方が無いさ、まだ2年位だろ」

「そうだね、ママの旦那さんって感じかな」

「そうか、ルコももう大人だしな。それで良いんじゃないか」

「うん、私は私のままで居ればいんだよね」

「そうだ、ルコはルコなんだからな」

「海が待っているから帰るぞ」

「そうだね」

検診会場から車で海の待つマンションへ向かった。


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