内緒-1
そうして、パパの実家で暮らしながら勉強も講師の先生に来てもらって見てもらって。
順調にお腹の赤ちゃんも大きくなり年が明けてしばらくして茉弥が産まれたの。
でも、もう少し茉弥が大きくなるまでここに居なさいって言われて。
春から学校にもどる事になったの、嬉しいな。
でも大変な事もいっぱい起こっちゃうんだけどね。
それは、私が学校に戻る少し前の事なんだ。
「隆羅、隆羅ってば。起きて」
海が寝室で寝ている隆羅を起こしにやって来た。
「あのな、たまの休みぐらい寝かせろよ」
「だって、迎えに来るんでしょ。ルコが」
「そんな、約束はしていないぞ。海も一緒に寝ろ」
隆羅が海の手を引っ張った。
「きゃー もう、隆羅。止めて」
ベッドの中に引き込まれて隆羅が抱きついてきた。
「嫌なのか? そうか海が嫌なら仕方が無い」
「嫌じゃないけれど」
「じゃ、キスしても良いか?」
「あのう隆羅、ルコが……」
「後ろに居るんだろ知っているよ、だからこうしているんだ。チュッ」
海にいきなりキスをすると海の顔が茹蛸の様に真っ赤になった。
「如月パパ、知っていてそんな事するかなぁ。バカップルでもあるまいし」
「不法侵入よりマシじゃないか、バカップルは罪にはならないからな」
ルコが茉弥を抱っこして呆れた顔をしてベッドの脇に立っている。
「ほら、早く準備してよ。茉弥が待ちくたびれているでしょ。それに海、顔が真っ赤だよ」
「俺は、海とこうして居たいんだ」
「今日の、茉弥の検診に付き合ってと言ったでしょ」
「俺は、行くとは言っていないが。そんな事、タコに頼め」
「タコじゃなくて宅、育パパは車持ってないんだもん」
「判った、海に決めさせよう。海はどうしたい?」
「隆羅のイジワルぅ」
「冗談だ、行って来る」
「行ってらっしゃい。隆羅」
海のおでこにキスをして隆羅が起き上がり着替えをして出かける準備をし始める。
「はぁ~パパ達はまるで新婚さんね。それとリビングでもう1人お待ちかねの人が居るけど」
「タコかぁ。しつこいなアイツも」
着替えを終わらせてリビングに向かうとソファーにグレーの背広姿のメガネをかけた生真面目そうな男が座っていた。
「タコ、しつこいぞお前」
「穴を開ける訳には行かないんだよ。サギ」
「お前が仕事の鬼だから、俺がルコと茉弥のお守をしなきゃならないんだぞ。分かっているのか?」
「それより、原稿は」
「お前、それを娘や孫の前で言うか普通」
「しかし、だなぁ」
この、如月パパと揉めているのがルコの今のパパ。
育パパ、名前は『宅 育郎たく いくろう』如月パパとは腐れ縁らしいけれど昔は2人でかなりヤンチャな事していたみたい。
でも2人のパパが仲良しって不思議だよね。
そして育パパは本の編集のお仕事をしているの。
そして育パパが待っている原稿とは最近流行のライトノベルの原稿なの。
実は、如月パパはライトノベルの小説家なの。
でも嫌々なんだけどね。
それは、如月パパと海が付き合い始めた頃のお話なの。
「サギ、頼むよ。お前、先生なんだから書き物得意だろ」
「バーカ、俺の専門は数学だ。お前が何とかしろ、編集の癖に」
「その編集が頼んでいるんだろ」
「あーぁ、ヤダヤダ仕事の鬼は。友達にまで仕事を押し付けるかなぁ、このタコが」
「これで、穴でも開けてみろリストラだぞ。確実に」
「今度は、泣き落としか? それに教師の副業は認められてないんだよ」
「隆羅、頼むよ。この通りだから、名前を伏せておけば大丈夫だから」
宅が土下座をした。
そんな宅の姿を海が見て隆羅の顔を海が見つめる。
「海、そんな目で俺を見るな」
「可哀そうじゃん。ルコのパパが」
「あのな、それとこれは別だ」
「これで良いじゃん。隆羅が書いてる物語」
海がCDーRを手に持っていた。
それは隆羅が暇つぶしに書いていた物語だった。
「バカ、それは」
「海ちゃん、それ頂きね!」
海の手からCDーRを盗り育郎がもの凄い速さでリビングを飛び出すと、その後を隆羅が追いかける。
「タコ! 待ってこら! 待ってたら!」
隆羅が叫ぶが宅は聞こえないのか、それとも無視をしているのか振り返りもせずに玄関を飛び出して行った。
「くそ! 相変わらず逃げ足も速いな」
「海、お前。覚えておけよ」
「だって……」
「だっても、へったくれも無い。少し出てくる」
隆羅が腕組みをして不機嫌な顔でリビングに戻って来て海を睨みつけた。
すると踵を返して部屋から出て行こうとする、隆羅が本気で怒っていた。
「じゃ、私も一緒に行く」
「海は来るな!」
「隆羅が怒った!」
「当たり前だ! 人の物を勝手に持ち出して」
「ご、ゴメンなさい」
学校以外で初めて怒られて海はシュンとしていた。
そんな海の顔を見て隆羅がため息をついた。
「反省しているんだな」
「はい、スイマセンでした」
海が不安に揺れ瞳を滲ませながら頭を下げた。
「分かった。それなら良いだろう」
「許してくれるの?」
海が隆羅の顔を伺う。
「ああ、あれはまだ途中までしか書けてないからな。しょうがない気晴らしに飯でも食いに行くか?」
「うん、ファミレスが良いなぁ」
海が少しだけ笑顔になった。
「そうだ、あの話の主人公な。俺と海の名前だからな。覚悟しておけよ」
「えっ、今なんて言ったの?」
「だから、主人公の名前」
「どうして、そんな事するの?」
「お遊びで書いていたからな、名前考えるのが面倒だったんだ」
「隆羅のバカぁ」
「海がタコに渡したんだろ」
「……のバカ」
「海がな」
「今日のご飯は高級料理!」
「近所のラーメン屋だな」
「ブゥー」
海が少しやけくそ気味に叫ぶと隆羅がありえない事を言う、久しぶりに2人で食事だというのに。
海が膨れて隆羅を睨んだ。
「じゃ、その足元の小動物でも食うか」
「マロンは駄目!」
「ニャァー?」
茶トラの生き物が海の足元でじゃれついていた子猫が鳴いた。
あの川で海が助けようとして溺れた時の子猫だった。
海が一緒に住む事になり、なし崩し的に隆羅の家の住人になっていたのだ。
「猫にマロンって」
「だって栗みたいに茶色いからマロンは駄目なの? じゃ、ショコラ」
「ぷっ」
海の言葉に隆羅が吹き出した。
「何が可笑しいのよ」
「ショコラって名前の子猫もあの物語に登場するんだ」
「隆羅のバーカ」
「さぁ、飯食いに行くぞ。マロングラッセかガトーショコラかは知らないが、お前は留守番な。いっその事モンブランにでもしたらどうだ、こいつの名前」
「隆羅のイジワル」
「お前があんな物持ち出すからだ」
「大丈夫だよね、たぶん。ねぇ何を食べに行くの」
「海の好きなものでいいぞ」
「えへへ、隆羅大好き」
海が隆羅の腕に満面お笑顔で飛び付いた。




