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ルコ-2

日本に着いた日の夕方、隆羅とルコは砂浜に寄り添うように座り海を眺めていた。

「寒くないか?」

「うん、寒くない」

「そうか」

「ねぇ、パパ。まだ信じられないよ」

「ああ、本当にな」

「あんなに楽しみにしていたのに、なんで? どうして? 私が何か悪い事でもしたの? パパ、私これからどうしたら良いの。もうこの子にパパは居ないんだよ」

ルコがお腹をさすると隆羅が真っ直ぐにルコの顔を見つめる。

「それは、ルコお前自身が決める事だ。今は辛いだろう、でもお前はもう既にママなんだ。お腹の赤ちゃんはもう直ぐこの世に生まれる。立ち止まっている事は出来ない、お前のママの沙羅だって1人でお前を育てて来た。お前のそばには沙羅もいる、育郎もいる。俺も力になれる事なら何でもする。泣きたい時には思いっきり泣いて、笑いたい時にはみんなで大笑いしていればいいんだ。ルコがルコのままでいればいいんだよ」

「パパ、パパ、わたし……」

隆羅がルコを抱きしめるとルコは涙が枯れる程泣いた。


お昼頃に空港に着き沙羅に連絡を入れ。

その足で隆羅とルコは忠志の実家に向かった。

しかし、会わせてもらう事すら許してもらえなかった。

元々、2人の関係に好意的ではなかったが、ルコの妊娠をきっかけに忠志も家を飛び出して会社の寮に入ったままだった。

「少しだけでも、お願いいたします」

隆羅は誠心誠意頭を下げた。

「お断りいたします。息子を誑かせて、その上、妊娠ですって。冗談じゃない」

「そこを何とか、お願いできないでしょうか」

「何が目的なの? お金? ほら、手切れ金よ」

忠志の母親が封筒を隆羅の顔に投げ付けた。

「パパ、もういいから。帰ろう」

ルコが声を掛けてきて隆羅が封筒を拾い上げ母親に返した。

「お金は頂けません。お腹の子はこちらで責任を持って育てます。金輪際こちらに伺う事も無いでしょう、ルコやお腹の子に関わりを一切持たれません様にお願いいたします。もし何か手出しをするようでしたらそれなりの対応をさせて頂きます」

相手の目を見て隆羅が毅然とした態度で母親に話した。

「ルコ、行こう。ここにいても無意味だ」

「うん」

そしてその足で、海に向かった。

ルコは泣き止まなかった。

それでも立ち止まっている訳には行かない。

「ルコ、良いか。しばらくパパの実家で生活してくれ、あそこなら安全だし勉強も出来る。学校に知られる心配も無い、沙羅も育郎も出入り自由だしな」

「えっ、でもそれじゃ」

「言ったはずだ。俺に出来る事なら何でもすると、沙羅は実家で待っているから。なぁ、行こう」

「うん」


隆羅の実家に向かう、車で1時間ほどで到着した。

いつ見ても大きな門の前でクラクションを鳴らすと門が開き、車で門の中に入り玄関先に車を着けると直ぐに中から沙羅達が現れた。

「ルコ、大丈夫?」

沙羅が心配そうに声を掛けてきた。

「うん、もう平気だと思う。いっぱい泣いたから少し落ち着いた」

「お袋。すまないがしばらく宜しく頼む」

「そんな事気にしなくていいの、ルコちゃんはお前の子どもなんだから。母さん達に任せなさい」

「おば様。お世話になります」

「ルコちゃん、そんなに気を使っちゃ駄目よ。ここはあなたの家でもあるんだから沙羅さんも気を使わない事、いいわね」

「はい、分かりました」

沙羅は落ち着いているルコの姿を見て少し安心した。

「沙羅、海はどうしている?」

「今日、帰ってくる事を伝えてあるから部屋に戻っていると思うけど」

「そうか、分かった。ルコ、今日はゆっくり休むんだぞ。いいな」

「うん、パパありがとう」

「ああ、じゃ俺は海の事も気になるし帰るぞ。沙羅、後の事は宜しくな」

「ええ、分かったわ。本当にありがとう、隆羅が居てくれて助かったわ」

「これからが、正念場だからな」

「そうね、気を引き締めて行かないとね」

「じゃな、お袋。また後から顔を出すわ」

「ねぇ、こんな時にナンなんだけれど。ちゃんと海ちゃんと言う子も紹介しなさいよ」

「お袋、分かった。また後でな」

隆羅が車で屋敷を後にする。3人で隆羅を見送った。


「さあさあ。ルコちゃんも沙羅さんもあがって奥で少し休みなさい」

「はい」

屋敷の長い廊下をルコと沙羅が歩いていく。

「ねぇ、ママ」

「何? ルコ」

「如月パパの実家って凄く大きいよね、何をしているお家なの?」

「大雑把に言うと、日本の何割かを仕切っている企業グループかな表も裏も。そして、ママの仕事先の1つでもあるの」

「それ、アバウト過ぎるよ。でも裏って何?」

「大きな会社になればなるほど奇麗事だけではやって行けないという事よ」

「じゃ、如月パパは跡取りなの?」

「それが嫌で、安月給の先生なんてしているんじゃない」

「でも、安月給には見えない生活しているけれどなぁ」

「それは、悪さしているからでしょ」

沙羅が悪戯っ子みたいな目をして言った。

「悪さって何?」

「先生がしちゃいけない副業をいっぱい」

「そうだね、でもそれは育パパの責任もあるんじゃ無いの」

「そうね、ふふふ」

沙羅は胸を撫で下ろした、あまり普段と変わらないルコだったからだ。

「あのね、ママ」

「なぁに、ルコ」

「車でここに来る途中でパパに言われたの」

「どんな事を?」

「降りかかる運命からは逃げられない。でも、人はその運命と戦う事は出来るって。パパ、忠志の家で私の為に頭を下げてくれたの。お金を顔に投げ付けられても動じ無かったんだよ、凄いと思った。そして2度とここには来ないし、私たちに手出し無用だからって言ってくれた。だから私も戦うの私はもうママなんだから立ち止まってなんか居られない。ママも育パパもいるし、如月パパはこんなにも助けてくれている。だから、その気持ちに答えたいの」

「素敵な、パパが居てくれてよかったわね」

「うん、感謝しなきゃ、そして頑張らないとね」

「そうね、ママも頑張らなくちゃ」

沙羅は思い出していた、隆羅がルコを育てると言った時の事を。

その時と同じ様な事を娘のルコにも言って助けてくれたのだと。


「海、帰ったぞ」

隆羅が玄関のドアを開け部屋に上がると海が直ぐにで迎えた。

「おかえり、隆羅。ルコは大丈夫だったの?」

「ああ、もう大丈夫だろう。今は俺の実家に居るよ」

「隆羅の実家?」

「そうだ、俺の実家でしばらく暮らす事になるだろう。誰にもこの事は内緒だからな」

「うん、そんな事は分かっているから平気だよ」

「はぁー、疲れた」

隆羅がソファーに体を投げ出しネクタイを緩めた。

「コーヒーでも飲む?」

「ああ、サンキュー」

海がキッチンでコーヒーを入れる。

「はい、おまちどうさま」

マグカップを隆羅に手渡しする。海は隆羅の前に立ったままで居た。

「おお、いい香りだ。美味いなやっぱり海が入れたコーヒーは」

「そうかなぁ、あんまり変わらないと思うけれどなぁ」

「なぁ、海。何でさっきから立ったまんまなんだ、座ればいいだろう」

「うん、そうだね」

「ほら、こっちに来い」

「うん!」

海が嬉しそうに隆羅の横に座った。

「えへへ、隆羅の匂いがする」

海が隆羅の肩にちょこんと頭を乗せた。

「俺の、加齢臭がするか?」

「隆羅から、そんな匂いがするはず無いじゃん」

「冗談だよ。でも、海とこうしているのが一番落ち着……」

「隆羅?」

「ス~、ス~」

「あれ、寝ちゃったの隆羅。そうだよね、大変だったもんね」

最初は海の肩に寄り掛かり、そのうちに海の膝枕で眠っていた。

「でも、こうしていると隆羅って可愛いな。いつまででもこうしていたいなぁ」


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