ルコ-1
それからしばらくして、私は留学したの。
留学先はハワイ。
気候も安定していて日本から近くは無いけれどここにはママの知り合いがいっぱい居るから安心なんだって。
そして留学して数ヶ月が過ぎて11月も終わろうかと言う時。
そんな留学も……
沙羅は、経営コンサルティングの仕事をしていて、その為毎朝のニュースは欠かさず見ている。
今朝もいつもと同じ様にニュースを見ていた。
「今日未明、神奈川県川崎市の化学工場で爆発があり、死傷者が出た模様。死傷者の氏名は……長谷 忠志(19)」
「そんな……」
沙羅がニュースを見て愕然としていた。
そして、直ぐに電話をかけるが何度もコールしているのに電話は繋がらなかった。
「こんな時に、なんで出ないの。役立たずなんだから、育朗のバカは」
そして部屋を飛び出し階段を駆け上がり沙羅が隆羅の部屋のドアを叩く。
「隆羅! 隆羅! 起きてちょうだい」
「はーい」
海が少し驚いたような顔をして出てきた。
「隆羅はいる? お願い早く起こして」
「はい!」
沙羅の尋常じゃない動揺に驚き海が直ぐに隆羅を寝室に呼びに行く。
「隆羅、隆羅! 起きて!」
ベッドでまだ寝ている隆羅を揺すって起こした。
「どうした、海?」
「沙羅さんが、大変そうなの」
「沙羅が……はいはい」
隆羅がゆっくり起き上がりリビングに向かい、リビングに居る沙羅に声を掛けた。
「どうしたんだ?」
「忠志さんが亡くなったの」
沙羅が動揺してガタガタと振るえながら泣いていた。
「沙羅。ちゃんと、説明しろ」
隆羅が訳が判らず沙羅の肩をつかんだ。
「ニュースで、ニュースで……」
「海! 直ぐにテレビをつけろ」
「うん。分かった」
海がテレビをつけると直ぐに川崎で起きた化学工場の爆発事故のニュースが流れた。
「何て事に」
「隆羅、どうしたの?」
「長谷 忠志はルコの彼氏だ。」
「ええっ!」
海は言葉を失った。
隆羅が沙羅の肩を掴み言い聞かせるように沙羅の顔を見ながら言った。
「沙羅、落ち着いて良く聞け。お前がそんな状態でどうする、俺はこれからルコの所に飛ぶ。いいかルコと留学先の学校には俺が説明してくるから。お前は忠志の家に連絡して詳しい事を確認しろ。育郎には連絡付かないのか?」
「ええ……」
隆羅の言葉に沙羅が力なく答えた。
「シッカリしろ! お前がルコの母親なんだぞ! お前が揺れてどうする? 分かったか」
隆羅の言葉で沙羅の瞳に光が戻った。
「海、悪いが、しばらく沙羅に付いて居てくれ。学校は……」
「学校なんてどうでもいい。今はルコの事が最優先でしょ」
「よし、頼んだぞ」
隆羅は簡単に準備を済ませて取るものも取り敢えず部屋を飛び出した。
「沙羅さん、しっかりして」
「ありがとう。取り乱して悪かったわ。私がしっかりしないとね」
隆羅は、空港に向かって車を走らせていた。部屋から出て直ぐに電話をする。
「親父か。すまない大至急ハワイまでのチケットが欲しい。ルコの彼氏が事故で死んだ。これからルコを迎えに行く。帰りのチケットも頼みたい」
直ぐに折り返しの電話が鳴った。
「ああ、親父か。今、どこに居るかって? もう直ぐ嵐川だが、そこの河川敷に居ろ? ふざけるな、そんな事。ああ、分かったから」
車を河川敷に止める、しばらくするとそれはやって来て目の前に強制着陸した。
「親父のヤツ、いくらなんでもやり過ぎだろ」
それは何処からどう見ても開発中の最新戦闘機にしか見えなかった。
「若、お車はお預かりします」
黒いスーツ姿の男が頭を下げる。
「空港に、ワゴンを回しておいてくれ」
「はい、畏まりました」
スーツ姿の男に車の鍵を渡し隆羅が戦闘機に乗り込む、轟音と共に飛び立っちソニックブームの爆音を残し飛び去った。
「しかし、給油機まで。まるで演習だなこりゃ。帰りも、これって事はないよな……」
強烈なGに耐えながら数時間でハワイに着いた。
迎えの車に乗りルコの留学先の学校に向かう。
そしてルコに会うより先に学校に説明をし学校が終わるのを待った。
「バーイ! ルコ」
「バイバイ」ルコがラフな格好でクラスメイトと学校から出てきた。
「ルコ!」
「ええ! なんでパパがここに居るの?」
手を振っているスーツ姿の隆羅を見てルコが驚いていた。
当たり前な反応なのだろう隆羅は日本の学校に居るはずなのだから。
「顔を、見に来た。いけないか?」
「そんな事は、無いけれど。何かあったの?」
突然の事で、ルコは不審に思った。今日は平日で……
「とりあえず、お前のスティ先に行かないか? お世話になっている人に挨拶もしたいし」
「うん、いいけれど」
車でスティ先に向かう。ルコを待つ間にスティ先の沙羅の友人宅にも連絡は入れてあった。
「おかえり、ルコ。それとミスター キサラギ」
「いつも、ルコがお世話になっています。ミス ヤヨイ」
ミス ヤヨイがゆったりとしたワンピース姿で出迎えてくれ、隆羅が頭を下げる。
ルコがいつもと違う雰囲気に戸惑っていた。
リビングに通され、ヤヨイがお茶を出してくれた。
「ねぇ、パパ。何があったの? 変だよ、こんな時間にパパがこんな所に居るの。学校はどうしたの?」
「ルコ、落ち着いて聞いてくれ。今朝、忠志の職場の化学工場で爆発事故があり、その事故に巻き込まれて忠志が亡くなった」
「嘘……」
「明日の便で、日本に戻ろう。学校にもヤヨイにも先程、パパが説明をして手続きはしてあるから」
「嘘だよね、嘘だって言って。パパ」
ルコが隆羅に詰め寄ろうとするとヤヨイが優しくルコを抱しめた。
隆羅の顔は真剣そのものでその瞳には一切の揺るぎが無く事が真実である事を伝えていた。
「パパだって信じたくないが、沙羅が確認をした。本当なんだ」
ルコは泣く事もなく、あまりにも大きなモノを突然に失い痛みを感じる事も出来ないでいた。
その晩は、ルコに付き添っていた。
翌朝、空港に向かう、ヤヨイが荷物の準備をしていてくれた。
ヤヨイに礼を言い後日沙羅から連絡をする事を告げてヤヨイの家を後にする。
飛行機の中でもルコは一言もしゃべらなかった。




