卒業、そして-1
本当にパパ達にはドキドキさせられぱなし。
卒業式が目前に迫っているのに2人の秘密が学校にばれちゃって、大変な事になってしまうの。
3月になれば直ぐに私達の卒業式なのにどうなっちゃうんだろう。
でも私はどんな事があってもパパと海を応援するからね。
しばらくして、雑誌Kanonが発売され誌上でミスが発表された。
表参道での取材記事もとても好評だった。
それが原因で卒業が目の前に迫っていると言うのに海と隆羅の周りは大騒ぎになり始める。
学校では歴史の教科書かどこかで聞いた事のあるようなファンクラブ『海援隊』なるものまで結成され。
海のプロフィールなどが詳しく明かされていない為にそれを探ろうと躍起になる連中まで現れる始末だった。
「海、凄いね。ミスなんかに選ばれて」
「ルコ。大変なんだからね」
「それで、賞金は何に使うの?」
「あのね免許を取りたいなって思ってるんだ」
「でも、車はどうするの?」
「成人式の時のミニを使って良いって、隆羅が言ってたもん」
「へぇ、そうなんだ。でもこんな話おちおち出来なくなってきたよね」
「うん。何だか疲れちゃうな」
学校では誰も知らない者が居ないくらいの超有名人になってしまい、至る所に海援隊が現れ注目を集めた。
そして学校やマンションの周りにもファンらしき人影が現れるようになってきていた。
その為、海は伊達メガネを掛けて髪を編んで変装して登下校をしていた。
その頃、Kanonの編集室でも大騒ぎになっていた。
海の詳細を知ろうと問い合わせが引切り無しにあり電話が鳴り続けた。
「卯月さん、何とかして下さい」
「絶対にしゃべっちゃ駄目よ。生きて居たいのならね」
「はい、分かっています」
そんな大騒ぎの中、ゴシップ記事がすっぱ抜かれ。
火にジェット燃料が注ぎ込まれた様に学校では先生とPTAだけが大騒ぎをしていた。
『Kanonのミス新成人は現役高校生! 教師と熱愛か?』
如月は一切その件に関してノーコメントを通した。
生徒達は教室で自習をさせられていた。
クラスメイトは不思議な事にゴシップ記事に対して無反応だった。
「如月先生ってやっぱり凄いよね。尊敬しちゃうよね」
「あの、毅然とした態度。素敵だよね、水無月さんが羨ましいなぁ」
「ねぇ、何でみんな大騒ぎにならないの?」
海が不思議がってクラスメイトに聞いた。
「えっ、だってみんな知ってるもん。先生と水無月さんの事」
「ええっ、どうして? ねぇ、ルコってば」
ルコが気まずそうに頭をかいている。
「ゴメン、海。実は修学旅行でパパが倒れた時に、みんなに問い詰められて」
「ルコが悪いんじゃないいんだよ。あの夜、部屋から出ないように言われたんだけど先生の事が心配で皆でルコ達の部屋に集まっていたの。そうしたらルコだけが部屋に戻ってきて海が看病してるからって。それで気付く子は気付いちゃってルコに聞いたの」
「本当に、ゴメン。海」
「いいよもう。秘密にしていた私がいけないんだから」
海が申し訳なさそうに俯いた。
「大丈夫だよ、皆で水無月さんの事は守るから。今、手分けをして生徒全員にお願いして回ってるから」
「そんな、皆に迷惑が掛かるよ」
「何を言ってるの? 如月先生が学校から居なくなっちゃうかもしれないんだよ。そんな事は絶対に生徒全員がさせない。そして2人を必ず守る、そうだよね皆」
「オー!」
クラスメイトの雄たけびが上がる。
そして手分けをして学校中に散っていたクラスメイトが次々に教室に戻ってきた。
最上級生の言葉には重みがあった。
生徒全員の賛同が取れ緘口令が敷かれた。
登下校時に取材陣が多数校門に居たが誰1人しゃべる者は居なかった。
海は沙羅の部屋に移り綺羅の手配した車で登下校するようになっていた。
数日間の職員会議でも学校側と如月は平行線のままだった。
数日後には卒業式が迫っていた。
「仕方がありませんな。水無月さんを停学と言う事で」
「それじゃ、卒業できないじゃないですか。それに事実は何もまだ分かっていないのにそんな処分は横暴ですよ」
「じゃ、堤先生この騒ぎをどうするのですか」
「私から一言良いですか。実は……」
教頭が話を切り出そうとした時に何かを決心した様に如月が口を開いた。
「もう1日だけ待って下さい。総てを明らかにしますので」
「本当ですね」
「はい」
その話は、生徒の間にも瞬く間に広がった。
PTAにも生徒達が話をして問題視して騒ぎ立てないように働きかけた。
流石に親達も子どもが学校に行かないと言い出せば従うしかなかった。
そして翌日、如月が約束をした日がやって来た。
朝、ルコが海を叩き起こした。
「海、起きて大変だよ。パパが」
「ルコ、どうしたの?」
「テレビでパパが」
「えっ、隆羅がどうしたの?」
ルコに連れられてリビングに行きテレビを見る。
そこにはいつも隣に居てくれる隆羅の姿があった。
「ルコ、何が起きているの? 沙羅さん」
「落ち着いて良く聞きなさい。隆羅は賭けに出たの海を守る為にね、決して表に出さなかった事を公表するつもりなの。これは海の人生にも係わる事よ覚悟は出来ているの?」
海の表情から不安が消えた。
そして凛とした表情になり揺るぎの無い顔つきになった。
「覚悟は出来ています。あのクリスマスの日に隆羅は命懸けで私を救ってくれた。だから私も命懸けで隆羅の側にいると誓ったんです。だから何が起きようが私は隆羅の側に居続けます」
「それで隆羅も覚悟を決めたのね。それに流石だわ、唯一隆羅が認めた女の子だけの事はあるのね」
「沙羅さん買いかぶらないで下さい。私は普通の女の子です、今でも隆羅が側に居なければ不安で仕方が無いんです。ただ、隆羅を信じる事しか出来ないんです」
そして、報道特番が始まった。特番と言うよりテレビジャックと言った方が分かりやすいかもしれない。
殆どの放送局で同時放送された。
「本日、就任された。水神コンツェルン 総帥 如月隆羅さんです。はじめまして」
「はじめまして。宜しくお願いいたします」
「それではいくつか質問をさせて頂きます。まずはあまり聞きなれない水神コンツェルンについてですが」
「お配りした資料の通りあらゆる企業の集合体の様な物です」
資料のボードが画面に映し出される、そこには日本有数の企業が名をつなれていた。
「主に如月さんのお仕事は何を?」
「今はまだ父や母が取り仕切っていますのでそのフォローをしています。これからしばらくはこのままだと思いますが」
「如月さんは、高校の教師でも在られるとお聞きしたのですが」
「そうですね。今までは父がこの要職に就いていましたので」
「その大変失礼ですが、この記事は如月さんの事なのでしょうか?」
司会者がゴシップ記事の雑誌を出して来る。
「私ですが何か?」
如月が始めて公の場所で認めた、それも全国放送の中で。
「教師と生徒との熱愛はどうかとおもうのですが」
「何か問題でも? 彼女は高校生ですが事情があり既に20歳ですし。その事は記事の中にも書いてあると思いますが」
「学校側が問題にするんじゃないでしょうか」
「その時は責任を取りますよ」
「それは教師をお辞めになると言う事ですか?」
「責任の取り方は様々ですから」
「この記事を記載している出版社に対しては」
「別に何も。ご自由にどうぞ報道の自由を尊重しますよ」
「最後になりましたが、今後の抱負などをお願いできますか」
「特には無いのですが。私の仕事は傘下の企業を守る事です。その為なら何でもします。余談になりますが私にも大切な家族や恋人そして生徒達が居ます。もし何かあった場合にはあらゆる手段を使って戦わせて頂きます」
淡々とそれでいて誠実に隆羅は質問に一つ一つ答えて言った。
ほんの数分間の放送だったが、効果は絶大だった。
熱愛の記事を書いた出版社も翌日には新聞紙上で行き過ぎた取材を認め謝罪した。
そして隆羅や海を嗅ぎ回っていた他の記者達も鳴りを潜めてしまった




