2人のクリスマス-4
海が家に入ると部屋の暖房が切られ真っ暗だった。
バスルームだけ明かりがついていてシャワーが出しぱなしになっていた。
シャワーを止めて部屋の奥に進むと料理のいい匂いがしていた。
良く見るとテーブルの上に料理が綺麗に置かれケーキまで用意されている。
部屋にはサザンの切ないクリスマスソングが流れている。
その奥でベッドに寄りかかり虚ろな目をした隆羅が座り込んでシャンパンをラッパ飲みしていた。
「ねぇ、隆羅」
海が声を掛けるが隆羅の顔は無表情で返事もしなかった。
隆羅の目の前に座りシャンパンのボトルを取り上げ、隆羅の目をみてもう一度名前を呼んだ。
「隆羅、お願いだから返事をしてちょうだい」
海の目から大粒の涙が流れていた。
「どうしたんだ。海」
隆羅が表情を全く変えずに手で海の涙を拭った。
「沙羅さんから全部聞いたの、隆羅の事を全部」
「そうか、ゴメンな。今まで騙していて」
「そんな言い方はしないで騙してなんか居ないでしょ」
「私やルコの為に黙っていたんでしょ、辛い思いをして時々哀しい目をしながら。隆羅は何も悪くない。自分だけを責めないでお願いだから。前にも言ったでしょ」
海の目からは涙が零れていたが真っ直ぐに隆羅の目を見つめていた。
その目には揺るぎない決意が隆羅にも感じられた。
「これ以上、俺と居たらまた危険な目に……」
海が隆羅の口に手を当てて隆羅の言葉を遮った。
「隆羅は命懸けで守ってくれるんでしょ。だったら私は命懸けで隆羅の側にいる。もう1人ぼっちにしないで。隆羅の居ない世界なんて絶対に嫌!」
「本当にそれで良いのか?」
「本当も何も無いでしょ! いつも側にいるって、愛してるって言ってくれたじゃない嘘だったの?」
「そうだったな」
隆羅が冷たく閉ざそうとしていた表情が穏やかになっていった。
「隆羅、お願い。私だけの隆羅になって。そして隆羅だけの私にして」
海が隆羅のシャツを脱がし両手を隆羅の頬に当て優しくキスをする。
隆羅が海を抱き上げベッドに寝かせキスをした。
「こんなに傷だらけなんだ」
隆羅の体中に傷跡が浮かび上がっていた。
「嫌か?」
「1つ1つが隆羅の歩いてきた道なんだよね。今からは1つ1つ私が癒していく。隆羅が好き、愛してる」
「海、愛してる」
「隆羅……」
海の20歳の誕生日に2つの半球体は1つのとても綺麗な球体になった。
そして、翌日。海が目覚めると隆羅の姿が部屋に無かった。
「隆羅! 隆羅! どこ?」
海が慌てて隆羅を探した。
すると隆羅が現れた。
「どうしたんだ、慌てて」
「隆羅が居ないから」
「もう、何処にも行かないよ。体は大丈夫か?」
海は涙目になっていた。
海の隣に座り隆羅が海の頭を撫でる。
「うん、少し」
海がモジモジしていた。
「そうか」
「私ちゃんと出来た?」
「大丈夫だ」
「何をしていたの?」
「料理を温めなおしていたんだよ」
「ねぇ、今からパーティーしようよ」
「そうだな、それも良いかもな。でも、その前に服を着たほうが良いと思うんだが」
海が生まれたままの姿で毛布に包まっていた。
「なんで? 別にいいじゃん」
「良くないだろ。頼むから」
「隆羅が照れてる」
「とりあえず、下着を着けてこのシャツぐらい着てくれ。風邪ひくぞ」
隆羅が部屋に掛けてあったシャツを海に渡した。
「このマンションはセントラルヒーティングだから寒くないもん」
「着ないと料理片付けるぞ」
「駄目、お腹ペコペコなんだから」
隆羅のシャツを海が着ると隆羅が食事の準備をして料理を運んできた。
「さぁ、食事にしよう」
「いただきます」
「どれも凄く美味しいよ、隆羅」
「ご満足ですか、お姫様」
「うん。ケーキも絶品だしね」
お腹いっぱい食べて、海がベッドの上でゴロゴロしていると。
片付けを終わらせた隆羅がシャンパンとグラスを持ってきた。
「隆羅、これからお酒飲むの?」
「もう、冬休みだろう。それに無断欠勤だしな」
「学校じゃ大騒ぎだね」
「そうだな。乾杯しないか? 順番が逆だけど」
「えへへ、そうだね」
隆羅がシャンパンを開けてスリムなフルート型のグラスに注ぎ海に渡した。
「じゃ、メリークリスマス」
「メリークリスマス! 綺麗なピンク色それに美味しいね」
「そうだな」
隆羅が優しい目で海を見つめていた。
海がグラスを傾けるとグラスの中で何かが転がり、チリンと澄んだグラスの音がした。
「ねぇ、隆羅。何かグラスに入っているよ」
海が隆羅の顔を見て頭を少し傾けて不思議そうな顔をするが隆羅は何も答えなかった。
「何だこりゃ?」
海がグラスのシャンパンを飲み干しグラスから手のひらに取り出した。
「隆羅、これって……」
海の手のひらに2つのシンプルなリングがあった。
「20歳の誕生日おめでとう、海。卒業したら結婚しよう」
「本当? 隆羅? 隆羅!」
海が隆羅に抱きついた。
隆羅からのクリスマス&誕生日のプレゼントはペアのリングとプロポーズだった。
「隆羅。はい、私とルコからのプレゼント」
「開けても良いかな?」
「うん」
「ありがとうな、良い感じだ。スティングレイの財布か」
隆羅が包みを丁寧に開ける、中からは財布が出てきた。
それはシンプルな黒いエイ革の長財布だった。
「気に入ってくれた?」
「もちろんだ、大切に使わせてもらうよ」
「良かった。それじゃ隆羅」
隆羅の目を見て手のひらのリングを差し出す。
隆羅がリングを受け取ってリングを見ながら海に聞いた。
「なぁ、海。返事を聞いてないんだが」
海は隆羅の目の前に左手を突き出したままで居た。
「隆羅のお嫁さんになってあげる」
「そうか、なってくれるか」
「ねぇ、早く」
「分かった」
隆羅が海の左手を取り薬指にリングをはめる。
「じゃ、隆羅も」
海が隆羅の左手の薬指にリングをはめた。
ベッドの上で隆羅の胸にもたれながら海が左手の薬指のリングを見ている。
「嬉しいなぁ。綺麗な石だね。それにこのデザインは?」
とてもシンプルなリングに青い石が埋め込まれていた。
「石はブルーダイヤモンドだよ、このデザインは指輪を2つ合わせると」
隆羅が海の指からリングを外し自分の指からもリングを外して重ね合わせた。
「あっハートだ。えへへ、あれ? 変だな、こんなに嬉しくって幸せなのに涙が出てきた」
海の瞳から涙が溢れていた。
「どうしたんだ?」
「もう、私の知らない隆羅は居ないんだよね。もう、何処にも行かないよね」
「海が知っている事がすべてだよ。いつまでも海と一緒だ」
「隆羅! 隆羅!」
海が隆羅の胸で泣きじゃくった。
隆羅が海を優しく抱しめる。
少しすると海が落ち着いてきた。
「大丈夫か? 海」
「うん……クチュン」
海がくしゃみをした。
「風邪ひくぞ」
隆羅が毛布を掛ける。
「隆羅、もう一度……」
海の言葉に隆羅が海にキスをして毛布に潜り込んだ。
その後、学校やPTAに説明を求められ対応に追われ。
そして海の荷物を母親から受け取り片付けなどをして、慌しく年末があっという間に過ぎていった。




