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はじまり

あれが2人の最初の出会いなのかなぁ。

しばらくして夏休み前に私が妊娠している事がママにバレて。

今の学校には居られなくなっちゃうところだったんだけれど。

ママの配慮で留学と言う形で海外の学校に行く事になったの。

だって今の友達とこれでお終いなんて嫌だったんだもん。

そんな時にあの事件が起きたの。


「変ね」

「どうしたの、ママ」

「最近、海ちゃんのご両親と連絡が付かないのよ、お金の振り込みも不定期みたいだし。まぁ、お金なんて最初から貰う気無かったから別にいいのだけど」

「今度の土曜日にでも、海ちゃんとルコで海ちゃんのお家に行ってみてくれないかしら」

「うん、分かった」

そうして、次の土曜日に海の両親が住んで居るマンションに向かったの。

「ここが、海のお家なの?」

「うん、ルコの所よりは凄く狭いけどね」

「ここが、そうだよ」

「出かけているのかなぁ」

ドアの前でチャイムを鳴らすが返事が無かった。

海が仕方なく鍵をだし開けようとするが鍵が合わない。

「あれ、変だな。合わないや」

しばらくしていると管理人が2人を見つけ声を掛けてきた。

「あれ、海ちゃんじゃないか。今まで何処に行っていたんだい」

「管理人さん、鍵が合わないんだけど」

「それが……実は別々に出て行ってしまって。しばらくしてから業者が荷物を運び出しに来たんだよ。最後の家賃は支払済みだったし、業者に聞いても何処に行ったのかまでは分からないって言われてね。中を見てみるかい」

「はい」

管理人がドアを開けるとそこにはガランとした部屋があるだけで何一つ残っていなかった。

「わ、私。どうすれば……」

ルコが海の顔を見ると真っ青になり震えていた。

すると突然、海が走ってマンションを飛び出した。

「海、海! 待って! どうしよう。そうだ、ママに」

ルコがマンションの前まで追いかけて辺りを見渡すが海の姿は何処にも見えなかった。

ルコが慌てて沙羅に携帯で電話をする。

「ママ、大変なの。海が、海が」

「ルコ、落ち着いてしゃべりなさい。何があったの?」

「海のお家に行ったら、海のパパもママも出て行ってしまっていて部屋には何も残されていなくて。海が飛び出して行っちゃたの」

「ルコ、良く聞きなさい。その辺りや海ちゃんが行きそうな所を探しなさい。ママも何とかするから分かった」

「うん、探してみる」


沙羅は電話を切ると直ぐに上の階へ駆け上がり隆羅の部屋のドアをドンドンと叩いた。

「うるせえなぁ、誰だ。まったく」

「隆羅!」

「なんだ、沙羅か。うるせえぞ」

隆羅が迷惑そうな顔をしてドアを開けると沙羅が慌てて隆羅の肩を掴んだ。

「海ちゃんが大変なの。あなたも探しなさい」

「なにが大変だって?」

「海ちゃんの両親が居なくなって荷物も何もかも無くなっていたのよ。もしかしたらあの子」

「分かった、同じ学区内だからそんなには遠くには行かない筈だ。直ぐに探しに行く」

着替えをし、直ぐにバイクをだした。

しばらく辺りを探しているとルコに会った。

「おい、ルコ。居たか?」

「パパ駄目、居ないよ。どうしよう」

「お前は学校の方を探せ、俺は反対側を探すから」

「うん、分かった」

ルコと手分けをして探し出す。

しばらくすると隆羅の頭にあの河川敷が浮かんできた。

「まさか……」

河川敷に向かいバイクを飛ばし土手にバイクを止めて河川敷に降りて水無月を探した。

「水無月!」

「居ないのか。水無月!」

「クソー、ここじゃないのか」

耳を澄ますとバシャバシャと川の中を歩くような水音が聞えた。

見ると誰かが深みに向かい歩いていた。

「あの、バカ」

隆羅が走り出し川の中を進む。深みの手前で何とか追いついた。

「何しているんだ、水無月!」

「嫌、もう嫌。死なせて」

「甘ったれるな」

「もう、死ぬの。何もかも嫌なの、離して」

誰の言葉も聞く耳を持たない海の頬を如月が打ち抜いた。

「いい加減にしろ。ルコも沙羅も皆、心配してお前を探しているんだぞ。お前が死ねば悲しむやつが居るんだ。命を粗末にするんじゃない」

泣き崩れる寸前で隆羅が抱しめた。

「ゴメンなさい……」

「帰るぞ。いいな」

海を抱き上げてバイクを止めてある土手まで運び沙羅に連絡を入れる。

「沙羅か。俺だ、見つけた。これから連れて帰る、ルコに連絡頼む」

それだけを告げて電話を切った。

「水無月、良く聞いてくれ。これからルコの家に戻る良いな、それからこれからの事を考えよう。けっして悪い様にはしない、俺を信じてくれ」

「うん」

か細い声だが海はしっかりと答えた。

バイクに乗せマンションへ向かう。


ルコの部屋まで連れて行くと沙羅が出迎えルコが水無月を部屋に連れて行った。

「今日は、あのぼんくら旦那は?」

「最近は、会社に詰めているわよ」

「相変わらず、仕事の鬼だな」

「あなただってそうじゃない」

「俺は違う。それより水無月は大丈夫なのか?」

「今は、落ち着いているみたいけれどなんとも言えないわ」

「そうか、何かあれば連絡をくれ」

「ええ、分かったわ」

「じゃ、宜しくな」

「今日は、ありがとう」

「沙羅らしくねえな、アイツは俺の生徒だぞ、当たり前の事をしただけだ。じゃな」


突然、深夜にそれは起きた。隆羅の枕元の携帯が鳴った。

「パパ、今すぐに来て。海が大変なの」

「分かった」 

部屋を出て階段を駆け下りてルコ達の部屋のドアを開ける。

そこは大地震でも起きたかの様になっていた。

床には色々な物が散乱していてルコは玄関先にしゃがみ込んで震えていた。

「沙羅! 沙羅!」

「ここよ」

声がする奥の部屋に行くと手に包丁を持った水無月が立っていて、沙羅が何も出来ずにただ見ているだけだった。

「何があった?」

「少し前に、急に暴れだして手がつけられなくなったの。ルコはあの体だし」

「分かった。これ以上、水無月をここにおいて置く訳にはいかない。俺が預かる」

「隆羅、あなた何をするつもりなの危険よ」

沙羅が止めるのも聞かずに、隆羅がゆっくりと海に向かい歩き出す。

「こっちにこないで!」

海が震えながら包丁を突き出した。

隆羅が海の前まで進み躊躇することなく左手で包丁をつかんだ。

すると手から赤い血がポタポタと落ちた。

「こんな事は、止めるんだ。いいな水無月」

「隆羅。あなた……」

沙羅が目をそらす。

隆羅が包丁をつかんだまま右手で海を抱き寄せた。

包丁を持っていた海の手から力が抜けて、海が気を失った。

「本当に、あなたって人は何でそんな無茶ばかりするの?」

「こいつを救えるのは、今、俺しか居ないそれだけの事だ」

「こっちにそれを。それと手当てをするからダイニングへ来なさい、いいわね」

沙羅が包丁を受け取りダイニングへ向かった。

「ああ、分かったよ」


海を抱きかかえたまま、ダイニングへ向かう。

ルコがダイニングのテーブルで座って様子を心配そうに伺っていた。

「パパその手……」

隆羅の左手が血で真っ赤になっている。

「大丈夫だ、たいした事は無い」

「早く手を出しなさい」

水無月を抱きかかえたまま左手を沙羅の前に出すと、ピンセットにコットンを挟み沙羅が消毒をする。

「痛たたたたた、もう少し優しく出来ないのか?」

「自業自得でしょあんな無茶して。でも傷は深くないみたい」

「当たり前だ、俺を誰だと思っているんだ」

「はいはい、そうだったわね。すっかり忘れていたわ」

沙羅がわざとピンセットのコットンを傷口に押し付けた。

「だから、痛たたた……」

「ふふふ。パパ、子どもみたい」

「子どもが子ども言うな」

「そうだね、ふふふ」

「で、隆羅これからどうするの。海ちゃんの事?」

「俺が預かると言ったはずだが」

「でも、それじゃあ」

「何か問題でもあるのか? ルコの体が心配だし、それにルコはしばらくあっちだろう。それに沙羅には仕事があるしな、それに俺なら学校でも見ていてやる事も出来るしな」

「分かったわ、あなたにお願いするわ。それがあなたにも海ちゃんにもいい方法かもしれないしね。はい、終わったわよ」

沙羅が隆羅の手に包帯を巻いてテープで止めた。

「いつも悪いな心配掛けて」

「それはお互い様でしょ」

「そうだな、じゃ連れて行くぞ。荷物は明日にでも取りに来るから。部屋の片付けは悪いが頼むぞ」

「大丈夫よ。これくらいね、ルコ」

「うん」

隆羅が海を抱き上げ部屋を出て行くとルコが心配そうな顔で沙羅に聞いた。

「ねぇ、パパ大丈夫かなぁ」

「大丈夫よ、それに隆羅の中ではもう決めちゃっているみたいだしね」

「それって意味わかんないよ」

「あなたのパパは、たぶん海ちゃんから離れる気は無いと言う事よ」

「ええ、それって。付き合うと言う事?」

「あの目は、あなたを育てると私に言った時と同じ目だったわ。あなたを10年育ててくれたパパを信用しなさい」

「でも理由は教えてくれないくせに」

「それは、その時期が来たら教えるわよ。それにママは言ったでしょ、あの2人は一緒に居た方が海ちゃんの為にも隆羅の為にもいいのよ」

「でも、そんな事が学校にばれたら」

「その時はその時よ、隆羅だって覚悟がなきゃ預かるなんて言わないわ。だから私達が精一杯フォローしてあげないとね、それに私達と住んでいると言っておけば問題は無いわ」

「うん、そうだね。ママ片付けしよう」

「そうね、やりますか」

沙羅が笑顔を浮かべて腕まくりをした。


隆羅は、灯りを落とした部屋の中で床に座りベッドに寄り掛かりながら海を抱しめていた。

しばらくすると海が目を覚ました。

「えっ、先生。私」

「何も言わなくていい。もう何も問題は無いからな」

「でも、ルコや沙羅さんに酷い事を」

「大丈夫だ、誰もお前を責めたりはしない」

「あっ、先生。手は」

「大丈夫だ、かすり傷だ」

「わ、私……みんなに……迷惑かけて……」

「泣きたい時には泣けば良いんだ、水無月の好きなようにすればいい」

海はしばらく隆羅の胸に顔を埋めて静かに泣いていた。

「先生。私、1人ぼっちになっちゃった。パパもママも居なくなって、思い出まで無くなっちゃった」

「ルコがいるし沙羅だっている、友達だって居るだろ。1人じゃない。それに思い出なんてこれから作れば良いじゃないか」

「でも沙羅さんはルコちゃんのママで友達は家族じゃない」

「なら、俺がいつも側に居てやる。駄目か、こんなおじさんじゃ」

「…………」

海の体が震えていた。

「どうした?」

「嬉しいの、先生にそう言って貰えただけで、ありがとう。だって先生は皆の先生でルコちゃんのパパだよ。私だけのものじゃない、そんな事出来ないよ」

「学校では先生だが、今は如月隆羅だと行ったはずだぞ、それにルコには新しい父親だって居る。俺は独り者だしな」

「いいの、先生?」

「海と一緒にこれからいっぱい思い出も作っていこう」

「私、気持ち止められなくなっちゃうよ。本当に信じていいの」

「だけど学校では先生だからな。いいか辛い事もたくさん起こるかもしれない、その覚悟があるか」

「私は先生の事が好き。それだけで覚悟なんていらないの、それだけでいいの」

「分かった」

「でも、先生は私の事どう……」

優しくキスをされ言葉を消されてしまった。

「先生……隆羅、隆羅が好き」

そして海は号泣した、心の傷を癒すかの様に。


翌朝、チャイムが鳴り叩き起こされた。

「誰だ、こんなに早く。またルコか?」

隆羅が寝返りを打つと海も目を覚ました。

「あれ、ここは。先生?」

「目が覚めたか」

海の目の前には隆羅の顔があった。

「…………私」

「どうした、そんな顔をして」

顔が真っ赤だった。海を優しく抱しめる。

しつこくチャイムが鳴っていた。

「はいはい、今、出るて」

隆羅がドアを開けるとルコが心配そうな顔をしていた。

「あの、大丈夫だったかなぁって」

「何がだ?」

「海の事が心配で」

「おーい、海。ルコが来ているぞ」

奥から海が姿を現すとルコが目をまん丸にして何かに驚いていた。

「おい、ルコ。何をそんなに真っ赤になっているんだ?」

「だって、その2人の格好って……」

隆羅の格好はTシャツにボクサーパンツ、海は隆羅の大きなシャツを着ているだけだった。

「何か、不味いか? 着替えを持ってこなかったから、俺のシャツをパジャマ代わりに着せたんだが」

「で、でも一緒に寝ていたんでしょ」

「まぁ、ベッドは1つだからな」

海が恥ずかしそうにもじもじしながら隆羅のシャツを後ろから摘んでいた。

そんな海の姿をルコが見て。

「もう、そんな事……」

「はぁ? 何を言っているんだ。お前だって泊まりに来て一緒に寝るだろうが」

「だって、それは親子で」

「親子と言っても、血のつながりは無いぞ。同じ事だろう」

「もう、パパのバカ。海、もう大丈夫なの?」

「うん、昨日はゴメンなさい」

海が深々とルコに頭を下げて謝った。

「いいよ、気にしていないから。私もママも」

「ちょうどいい、海、ルコの部屋から着替えや荷物を取って来い」

「それって?」

海が不思議そうな顔をして隆羅の顔を見上げた。

「今日から、海はこっちで暮らすんだ。嫌か?」

「嫌じゃないけど、先生に迷惑が」

「今さら何を言っているんだ。バーカ」

「如月パパ。そんな酷い言い方しないで、海だって昨日の今日でまだ」

「ルコも、バーカだなぁ。本当に、お前は海の何を見ていたんだ。海はそんなに弱い女の子じゃない。今までだって両親のゴタゴタはあった筈だ。でも学校ではそんな素振りさえ見せずに笑顔で居た。違うか、まぁ、今回の事はしょうがないにしてもだ」

「如月パパはちゃんと見ているんだ。海の事」

「ストップ!」

「海だけじゃない、生徒みんなだ。それに海には伝えたはずだ、俺が側に居てやると。そして学校では辛い事がたくさん起こるかも知れないその覚悟も聞いたが。さあどうする、俺の気が変わる前に着替えと荷物を取りに行くか、沙羅達と3人で暮らすか。チョイスしろ」

「海、どうするの?」

「ルコ。私、隆羅と一緒に居たい」

「早く取って来い」

「うん!」

海が着替えをしてルコと2人で駆け出した。

「ねぇ、海。本当に大丈夫なの? 如月パパはONとOFFじゃ全くの別人だよ。私でさえ辛かったのに」

「ルコ、ありがとう。でも今はもう隆羅しか居ないの」

「そっか、分かった。応援するね」

しかし、ルコが言っていた言葉は思っていた以上に厳しかった。


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