2人のクリスマス-1
中間テストも終わってやっと一息。
でも直ぐに期末がやってくるんだけどその後は楽しいクリスマスと冬休みが待っている。
だけどそのクリスマスが海と如月パパにとって一生忘れられないクリスマスになってしまうの。
それは2人の運命をも変えてしまうような……
「海、クリスマスまでもう少しだね。パパと約束でもしているの?」
「えっ、何も約束なんてしてないよ」
「じゃ、これからかなぁ。海の誕生日とクリスマスのダブルだもんね」
「そんな、でも嬉しいな。大好きな人との始めてのクリスマス」
「えっ、あっそうか。去年は……もう1年も経つんだね、あれから」
「そうだね。去年の今頃はルコは隆羅の実家に居たんだもんね」
海は複雑な気持ちだった。
隆羅と過ごすクリスマスはとても楽しみだったがルコにとっては大好きだった人と2度と会えなくなって、まだ1年しか過ぎていなかったからだ。
でもそんな気持ちもルコの言葉で吹き飛んでしまったのだ。
「うん。でもね全然寂しく無かったんだ。アイツが死んじゃったのは凄く悲しくってショックだったけれどパパも育パパもママも、そして海がいつも側に居てくれたから。それに私はママなんだもん。私が悲しんでいたら茉弥も悲しむでしょ、だからそんな事は絶対にしたくないの」
「そっか、ルコは強いんだね。クリスマスはどうするの?」
「ママと茉弥と3人で過ごすと思う。育パパは忙しいみたいだし、茉弥の初めてのクリスマスだからね。パパは毎年クリスマスプレゼントくれるしネ」
「ふうん、そうなんだ」
「あれ? 海は去年貰わなかったの?」
「貰ったよ。この腕時計」
海が左手をルコの前にだすといつも大事にしている腕時計が見えた。
「ああ、いつも大切に見ていると思ったらパパからのプレゼントだったんだ」
「だって、これ見ていると隆羅の顔が……」
そう言って海が赤くなる。
「本当に大好きでしょうがないんだね。そう言えばパパの誕生日ってお正月だったよね」
「ええっ、本当に?」
「海、知らなかったの?」
「うん、だって隆羅何も言わないし。去年はバタバタしていたから、どうしようプレゼント考えて無いよ。ルコ助けて」
「簡単じゃん。海にリボン結んで私がプレゼントって言えばいいじゃん」
「ルコの馬鹿。そんな事出来るわけ無いじゃんね」
「じゃ、2人で考えよう」
「そうだね」
そんな浮かれている世界とは全く無縁な所で、隆羅は憂鬱になっていた。
「スネークが脱獄して仲間を集めているらしいぞ。サギ」
「そうらしいな、決着をつけなきゃな。しかし……」
「海ちゃんの事か?」
「ああ、出来れば巻き込みたく無いんだ」
「でも、いつまでも隠し通せるもんじゃないだろ」
「そうだけどな。タコ」
隆羅が考えあぐねて途方に暮れていた。
「今のお前をスネークが見たら喜ぶだろうな」
「冗談に聞こえねえぞ。タコ!」
隆羅が声を荒げ立ち上がり宅に向かってきた。
「落ち着けよ。らしくねえだろうが、今のお前は。違うか?」
「そうだな。悪い」
「仕方が無いのかもな。ツインドラゴンの鷺が始めてした恋だもんな。俺も全力でフォローするからな」
「悪いな、タコ」
「これは、お前だけの問題じゃない筈だ。俺達3人の問題なんだ、そして沙羅やルコの運命さえ変えてしまうかもしれない問題なんだぞ」
「やるしかないな。ぶっ潰す! 総ての力を使って」
「そうだ、それがお前だ。サギ」
12月に入り街中にクリスマスソングが流れ始める。
期末試験も終わり残すは試験休みだけになっていた。
そして隆羅は平静を装っていても、いつも感覚を研ぎ澄ませていた。
「隆羅、隆羅ってば。大丈夫なの? もの凄く魘されていたよ」
「ああ、大丈夫だ」
魘されていた隆羅が目を覚まし起き上がった。
「最近の隆羅なんだか変だよ。何かあったの?」
「いや、何も問題は無いよ。ただ嫌な夢を見ただけだ。心配ないよ」
「そうなら良いんだけど。あのね、クリスマスどうするの?」
「そうだな、外で食事もいいけれど家でしないか? 俺が海の為に腕を振るって料理やケーキを作るから」
「本当に、嬉しいな。とっても楽しみ!」
「期待してくれ」
「うん。それとね隆羅」
「何だ?」
「隆羅の誕生日ってお正月なの?」
「そうだけど、言わなかったか?」
「ルコに初めて聞いたの、でねプレゼントなんだけどどんな物が良いかなぁって」
「俺は、海が選んでくれる物ならどんな物でも嬉しいけれど、そんな海の気持ちが1番うれしいかなぁ」
「えへへ、隆羅大好き」
そんな、楽しくって素敵なクリスマスが最悪の状態になるなんて誰も気付きはしなかった。
裏では、もう既に準備が整い実行に移すだけとなっていたのだ。
12月22日
ルコと海はみんなのクリスマスプレゼントを選びに街に買い物に来ていた。
街中にクリスマスソングが流れ、イルミネーションで飾られて赤、緑、白のクリスマストリコロールで彩られていて、街中がキラキラと輝いていた。
「凄いね。街中がクリスマスだぁ」
「そうだね、でも早く探そうよ」
「そうでした、今日は遊びに来たんじゃないんだよね」
「そうだよ、プレゼントを選ばないと」
「パパはどんなプレゼントを海に準備してあるのかなぁ」
「でも、隆羅が選んでくれた物なら素敵な物なんだろうなぁ」
「乙女の目になっているょ、海。パパが選んだのならそうだろうね、きっと良いなぁ」
「ルコだって貰うんでしょ。隆羅に」
「そうだけど」
「参考書とかだったりして」
「海、怒るよ」
「うふふ、冗談だよ」
街のデパートでひと通りみんなのプレゼントを選び、隆羅の誕生日プレゼントを見て回っていた。
その時、海の目に見覚えのある男の姿が飛び込んできた。
その男は海の姿を一瞥してエスカレーターで下に降りていった。
「お父さん?」
「ええっ、海。本当なの」
「うん。間違いないよ」
海が男が降りて行ったエスカレーターに向かって走り出して男を追いかけていってしまった。
「待って海! 海ってば。もう、パパに連絡しなきゃ」
直ぐにルコが隆羅に電話した。
その時、隆羅はバイクで都内を走っていた。
ヘルメットに仕込んであるインカムで答える。
「ルコかどうした?」
「海と買い物していたら、海のお父さんらしい人がいて海が追いかけて行っちゃったの」
「今、何処にいる?」
「池袋の東口のデパート」
「分かった、ルコは直ぐにタコに連絡を入れて迎えに来てもらうんだ。良いな」
「何で育パパに?」
「良いから直ぐに連絡しろ」
「うん、分かった」
いつに無く緊張した隆羅の声にルコは驚いた。
駅から少し離れたビルが立ち並ぶ広い裏路地ではロケの為と、立ち入り禁止の札が立てかけられロープが張られていた。
スタッフらしき人が道を塞ぎ周辺一角に人が立ち入れないように見張っていた。
「この年末にロケだ。ふざけるなよ」
通行人の1人がスタッフに詰め寄る。
スタッフの眼光はとても鋭かった。
「な、なんだよその目は怖ええなぁ、もう冗談だよ」
デパートの中ではルコが宅に連絡を取っていた。
「育パパ?」
「どうしたんだい、ルコ」
「海が急に男の人を追いかけて居なくなっちゃって、如月パパに電話したら育パパに迎えに来てもらえって」
「分かった。今、何処にいるんだい」
「池袋のデパートなんだけど」
「10分でそこに行くから。絶対に動いちゃ駄目だよ、分かったね」
育郎の声は緊張していた隆羅の声とは違いとても落ち着いた優しい声だった。
「うん。育パパ、何が起きているの?」
「それは、後からね」
「うん、待ってる」
10分もするとルコの前にスーツ姿の育郎がやって来た。
「さぁ、帰ろう。海ちゃんは隆羅に任せておけば平気だから」
「なんだか、凄く怖いよ。育パパ」
ルコがとても不安そうな顔をすると優しく寄り添うようにしてくれた。
「大丈夫、家に帰ろう。沙羅と茉弥が待っているから」
「うん。分かった」
その頃、隆羅は綺羅に連絡を取っていた。
「お袋か、奴らが動き出した。海がヤバイ探してくれ、頼む」
「タカちゃん分かったわ、直ぐに出るから。携帯で探せるのね」
「ああ、そうだ」
「ヘリを出して、早く!」
綺羅が叫ぶ。
屋敷内から軍用ヘリが緊急スクランブルをかけ池袋方面へ飛んでいった。
駅前にバイクを止めて隆羅はあたりを見回しながら海を探し始める。
余所見をして歩いていると男の人にぶつかってしまった。
「なんなだ、今日は怪しげなロケやら人にはぶつかるわ。ふざけるな!」
「悪い、ロケって何処で?」
隆羅が声を掛けるとぶつかってしまった男が怒った顔をして叫んだ。
「この先の、広い裏路地だよ! それより謝れよ!」
「スイマセンでした」
隆羅が男に頭を下げ走り出した。
海は裏路地のロケ現場に誘い込まれ、父親らしき人物を見失っていた。
「あれ? 何処に行っちゃったんだろう。そう言えばこの辺はなんで人が誰も居ないの」
辺りを見渡すと人っ子1人居なかった。
「なんだか嫌な感じがする。どうしよう」
震え出す手で海が携帯を取り出した。
隆羅は、ロケ現場の近くで1人の男を取り押さえていた。
やつれていたが隆羅が見間違えるはずが無かった。
「あんた、海の父親だな」
「頼まれたんだ、金をやるから誘い出せって。借金で追い回されてしょうがなかったんだ」
「それで、自分の娘を売ったのか。クソが」
その時、隆羅の携帯が鳴った。
隆羅が携帯をポケットから出した隙に男は一目散に逃げ出した。
「海か? 今、何処にいる?」
「良く分からないけど、誰も周りに居なくて怖いよ」
海の声が震えていた。
「直ぐに行く。今、近くにいるから安心しろ」
「うん」
隆羅は直感で海がロケ現場に居ると確信した。
隆羅が携帯を握りしめたまま走り出す。
通行止めの案内を飛び越し偽ロケ現場に走りこんだ。
海の耳にも誰かが走って近づいてくる足音が聞える。
足音のする十字路に向かうと隆羅が走ってくるのが見えた。
「隆羅!」
海が名前を叫ぶ。
その瞬間、隆羅は背後から凄まじい殺気を感じた。
「来るなぁ!」
隆羅が叫んだ瞬間。
1発のライフルの銃声がビルの谷間に響き渡った。
隆羅の側頭部から血が吹き飛び隆羅が道路に倒れ込んだ。
「嫌ぁぁぁぁぁぁぁ!」
海の絶叫が裏路地に響き渡る。しかし隆羅はピクリとも動かなかった。
黒塗りのワゴンが滑り込んできて男が海を車に押し込め走り去った。
そこに軍用ヘリコプターの音が近づく。
「しまった遅かったわ」
綺羅がヘリコプターを隆羅の側に降ろし隆羅を回収させる。
そして隠蔽の指示を出して飛び立った。
ルコは育郎に連れられマンションに帰ってきた。
沙羅が茉弥を抱っこして2人を出迎える。
「育、何が起きているの?」
「たぶん、三度みたびだろう。おそらくスネークだ」
「そんな……」
「ママ、どうしたの?」
沙羅の顔が青ざめて家の電話が鳴り沙羅が慌てて出た。
「はい、そうですか。分かりました、外出は控えます。はい、お願いします」
電話に出た沙羅の顔から血の気が引いて震えていた。
「ママ、ママってば」
「ルコ、これから言う事を落ち着いて聞きなさい、良いわね」
「う、うん」
沙羅が深呼吸をして自分の気持ちを落ち着かせると、ルコが真剣な目をして沙羅を見た。
「隆羅が銃で撃たれて怪我を負ったわ。命に別状は無いけれど病院に搬送されたの」
「パパが銃で撃たれたって? 海はどうしたの?」
沙羅はルコの問いには答えず首を横に振るだけだった。
「そんな、撃たれたってなんで? 海はどうしちゃったの?」
沙羅は気が動転しているルコを抱きしめて落ち着かせた。
「落ち着きなさい。お願いだから。今は茉弥の面倒を見ていて頂戴お願いよ。それと外出は当面禁止だから」
「ここは、大丈夫なの?」
「大丈夫、おば様達が全力で守ってくれるから」
「沙羅、俺はサギの所へ行ってくる。詳しい事はその後で」
「お願いよ。育」
「ああ、ルコと茉弥を頼むぞ」
育郎がマンションを後にして隆羅の居る実家に向かう。
「何でまた、こんな思いをしなきゃならないの……」
沙羅が震える声で呟く。
「ママ、何がなんだか全然分からないよ」
「ゴメンなさい、今は何も言えないわ。隆羅と海ちゃんが戻ってきたら全部話すから。今は隆羅の回復を願いましょう」
「でも、銃で撃たれたんでしょ!」
「大丈夫よ、アイツは不死身だから。それに今まで一度だって口に出した事を守らなかった事がある?」
「そうだね、必ず守ってくれた」
「でしょ、茉弥をお願いね。少し1人にしてくれない」
「うん、分かった。茉弥の所にいるね」
ルコが茉弥の寝ている奥の部屋に行くと沙羅は洗面所に向かった。
「隆羅、お願い帰ってきてちょうだい。海ちゃんはどうするの? もう、こんな思いは2度と嫌なの。あなたまで失ったら私どうしたら良いの……」
沙羅は洗面所で声を押し殺しながら泣き崩れた。
育郎が如月家の敷地内の病院に着き、ICU(集中治療室)に向かうとそこには綺羅が居た。
「隆羅の様子は?」
育郎が綺羅に冷静に尋ねる。
「弾は側頭部をかすっただけよ問題は無いわ。今は暴れないように薬で眠らせて居るだけ。咄嗟に避けたのね信じられないけれど、あと数センチ内側だったらと思うとゾッとするわ」
「そうなんですか、海ちゃんの行方は?」
「それも、分かっているわ。こんな物が落ちていたから」
それは黒い紙に金で縁取られた赤い文字で書かれているクリスマスパーティーの招待状だった。
「そうですか、後はサギが目を覚ました時に冷静で居られるかですね」
「そうね。こんなお願いを出来る立場じゃないんだけど、出来ればここに居てもらえないかしら」
「そんな、言い方は止めて下さい。こいつとは何処までも一緒だって誓ったんですから」
「ありがとう、お願いするわ。沙羅さん達には一切手出しはさせないから」
「それは、大丈夫でしょう。奴らの狙いはサギ1人ですから」
「でも、海ちゃんが心配ね」
「それも、たぶん平気ですよ。奴らも馬鹿じゃないはずです、隆羅をおびき出す罠ですから」




