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トラブル-2

学校での『ファッション雑誌Kanon』の騒ぎは静まって行った。

海が可愛いと言う事と如月先生ともルコ達の関係で仲が良い事を生徒たちに植え付けて。

試験も無事終わり後は夏休みを待つだけとなっていたがそれは突然訪れた。

もう一つの騒ぎが起きようとしていた。


授業が終わり放課後の校内放送が始まりだった。

「3年A組の水無月 海さん至急校長室までお越しください」

「ええっ、今度は何?」

海が一番驚いていた。

「海、付き合うからとりあえず行かなきゃ」

「う、うん」

ルコに付き添われ海が校長室に向かう。

「廊下で待っているからね」

「ありがとう」

「失礼します」

海がノックをして校長室に入るとそこには校長と如月先生が座っていて、その向かいには海の母親が座っていた。

「えっ、お母さん?」

「そこに座りなさい」

「はい」

海の方を見て如月先生が座るように促すと海が如月の言葉に素直に従い母親の隣に座った。

「如月先生どうしたものですか」

校長が困惑の表情を浮かべて如月に尋ねた。

「少し話を聞きましょう」

「お母さん今頃何をしに来たの? 1年も連絡もくれないで」

「海、ゴメンなさい。雑誌のあなたを見たら会いたくなって。お母さんも大変だったのよ。お父さんと別れて生活をしなきゃいけなくて」

「それで、今更何の用なの?」

「お母さんと一緒に暮らして欲しいの」

「嫌だ!」

「あなたは、まだ、未成年なんだし、親の言う事を聞きなさい」

「嫌! そんな未成年の私をを1年間もほったらかしにしたのは何処の誰なの?」

「だから、謝っているじゃない」

様子を伺っていた如月は母親に僅かに男性の影を見た。

「お母さん、水無月さんは未成年と言ってももう直ぐ20歳です。彼女の意見を尊重してあげませんか?」

「先生は人の家庭まで口出しをするんですか?」

「お母さん、いい加減にして! 誰のおかげで私がこの学校に居られると思っているの? 私、お母さん達がマンションを引き払って居なくなった時に本当に死のうとしたの。それを助けてくれたのは如月先生なんだよ」

海が唇をかみ締めスカートをギュッと握り締めている、母親は俯いて何も答えなかった。

「き、如月先生そんな事が」

「校長、この件に関しては私に一任して頂けませんか?」

「判りました、お願いしますよ」

校長が思わぬ水無月の言葉に動揺していた。

如月が校長を落ち着かせるように全責任を負おう事を告げる。

「どうしますか、お母さん? 水無月さんはこう言っていますけれど。それに私の目の前で葉月の母親にお願いしますと言い、生活費も支払うと約束しましたが守られていないようですが。それと授業料の方は私が立て替えて支払いをしています」

「お金の事なら少しずつお返ししますから」

「そう言う事を言っているんじゃないんですよ」

如月の声が優しくなった。

すこし間を置いて如月が諭すように話し出した。

「今、男性と暮らしているんじゃないのですか?」

「な、なんで、そんな事を?」

「人と係わる仕事を長くしていると判るんです、なんとなくですがね。今の家庭環境では水無月さんをお渡しする事はできません。私も彼女を1年間見守ってきた責任がありますから教師生命をかけてもお渡ししませんがどうなさいますか?」

「そんな、先生」

如月が何かを言おうとした海を一瞥して制した。

「もう少し時間を置いてそれからでも遅くは無いと思いますが」

「この子は未成年なんですよ!」

母親が突然声を荒げた。

「彼女が言いましたよね。あなたは1年も何故連絡すらしなかったのですか? それでも親だと言えますか? 彼女がどれだけ不安だったか考えた事がありますか? 私も子どもを育ててきました。そしていろんな生徒を何百人と見てきました。どんな事をしても親子の縁は切れないんですよ、たとえ親の事を嫌っていても」

如月の言葉はとても力強く、そして真っ直ぐな言葉で母親にはとても重い言葉だった。

「海、そんなにお母さんと一緒が嫌なの?」

「今の生活が一番幸せなの」

「どうしましょうか、お母さん?」


その時、廊下の方が急に騒然として話し声が校長室まで聞こえてきた。

「困ります、いくら保護者だと言われても」

「娘に会いに来てないが悪い、会わせろ」

すると校長室のドアが蹴り飛ばされた。

「おお、お前が海か。結構、可愛いじゃないか」

校長室に乱入してきたのはガラの悪いチンピラ風の男だった。

「あなた、やめて頂戴」

「お母さんこの人は?」

海が怯えている、如月が海を守るように海の前に立ち上がった。

「ああっん、何だてめえ!」

「彼女の担任だ」

「先公か退けや」

男が隆羅の胸座をつかもうとした。

次の瞬間、何かを叩くような音が数回したかと思うと隆羅が男を後ろ手に取り押さえ、男の耳元で囁いた。

「如月のツインドラゴンを知っているな。2度は無いと思えいいな、生きて居たければ他言は無用だ」

男が何も言わずに頷き、恐ろしいほどの殺気を感じたのだろう男がガタガタと震え出している。 

校長、海そして母親はあっという間の出来事に呆然としていた。

「校長、どうしますか?」

隆羅の声に3人が我を取り戻した。

「仕方が無いですね警察に連絡しましょう」

「海、ゴメンなさい。後から荷物を取りにいらっしゃい。如月先生申し訳ございませんでした、これからも娘の事を宜しくお願いいたします」

海の母親が涙を浮かべながら深々と頭を下げた。

しばらくして警察がやって来て男を引き渡す。

そして海の母親からも事情を聞きたいからと警察に連れて行かれてしまった。

隆羅の口が「すまない」とだけ動いた。

「水無月君、ショックだろうが今日はこれで帰りなさい良いね」

「はい、判りました」

校長に海が優しく言われて校長室を後にしようとして、隆羅を見るととても申し訳なさそうな哀しい目をしていた。

校長室を出るとルコが不安な顔をして鞄を持って待っていてくれた。

「海、怪我は無い? 大丈夫なの?」

「うん、ありがとう」

「もう、帰ろうね」

「うん」

海はルコに付き添われ昇降口に向かい歩き出した。

「如月先生、これからどうしますか?」

「校長、この件は」

「そうでしたね、一任しますからお願いしますよ。大切な生徒達ですから」

「これから警察に行き、もう一度母親と話をしてきます」

「そうですか、ご苦労ですけど頼みましたよ」

「はい」

隆羅は警察に出向き事情を話し海の母親に面会した。そして連絡先を聞いて男と別れない限り海を渡さないという約束を取り付け。

しばらくは会わせられないと告げると母親は流石に観念したのか了承した。


隆羅がマンションに戻ると海は居なかった、ルコの所にでもいるのだろう。

ソファーに座って居るとマロンが体を摺り寄せてきた。

「お前は気楽で良いな」

「ナァ~?」

腕を組んでうつむき目を閉じて考え事をして居るとドアが開く音がした。

「隆羅、帰っているの?」

海の声に隆羅が何も言わずに海の顔を見上げる。

隆羅の瞳はとても哀しそうだった。

「そんな顔しないで隆羅。私の為に……お願いだから」

海の頬を涙が伝った。

「隆羅、私……」

「こっちに、おいで」

隆羅がゆっくり息を吐いて優しく海に言った。

海が静かに泣いた、隆羅の胸のなかで……

「本当にこれで良かったんだな?」

「うん、だってもう隆羅のいない生活なんて考えられないよ」

「でも、親子なんだぞ」

「あんなのお母さんじゃないよ」

「そうか」

隆羅は確信した時間だけが癒してくれると、そして海が母親になった時に判ってくれるだろうと。

一番辛いのは海自身なのだから、優しく包み込んだ。

「隆羅、ありがとう。また助けられちゃったね、教師生命かけてなんて駄目だよ」

「言ったはずだぞ。大切なモノを守る為なら何でもすると」

「えへへ、嬉しいなぁ」

海が子どものように隆羅のシャツを握り締めたまま眠ってしまった。

隆羅はいつまでも優しく抱しめていた。


翌日は終業式だった。

ルコが朝、海を迎えに来た。

「海、おはよー。学校に行こう」

「おお、ルコ。最近は不法侵入してこないなぁ」

隆羅がドアから顔を出した。

「挨拶もしないでいきなり失礼でしょ。パパ」

「すまん、すまん。おはよう」

「おはよーパパ。海はどうしてる?」

ルコが心配そうな顔をした。

「いつも通り、元気だぞ。海! 行くぞ」

「ハーイ」

海が元気良く走って玄関に来た。

「行くぞ」

「うん」

「はーい」

隆羅が2人に声を掛けてエレベーターで下に降りる。

3人一緒に学校に向かい歩き出した。

「あれ、パパ。バイクじゃないの、今日は?」

「車検に出しているんだ。車じゃ目立つからな」

「じゃ、今朝は一緒に学校に行けるんだ。やったー」

海が嬉しそうに両手を突き上げて飛び跳ねた。

「良かった。海が元気そうで、心配していたんだよ」

「ルコ、ありがとう。でも平気だよ、私には隆羅が居てくれるんだもん」

「そっか、心配しなくても大丈夫なんだ」

ルコが照れくさいような嬉しいような顔をしながら体を左右に揺らしていた。

「俺は、ルコの赤点の方が心配なんだがなぁ」

「ブゥー。気持ちの良い清々しい朝から、そんな事を言うかな普通」

「先生だからな」

「でも、パパは知っているんでしょ。もう」

「いや、知らないぞ。各教科の先生が付けるからな」

「えっ、本当に?」

ルコが立ち止まって固まってしまう。

「おいおい、勘弁してくれよ。夏休みの間中補習なんて」

大学の付属高校だけあって、赤点には厳しかった1つでも赤点があれば夏休みの大半を補習に費やす事になってしまう。

それ以外の事に関してはかなり寛容な学校だった。

「どうしよう。でもパパも学校なんだよね」

「残念でした。当番の日以外は交代で有給を消化するのが職員の間では慣例になっているんだ」

「ええっ、本当に? 夏休みの間ずっと学校かと思っていたのに。一緒に居られるの? ヤッホー」

海が両手を挙げてピョンピョンと飛び跳ねて喜んだ。

「いいよね、海は赤点なんて縁が無いもんね。いつも上位の成績だし。ズルしてないよね」

ルコが隆羅の顔を睨んだ。

「バーカ。俺と暮らす前から海は成績良かったじゃないか」

「そうでした」

そうこうしている内に学校に着いた。

生徒達が楽しげに校門に入っていく。

皆、夏休みが待ちどうしいのだろう。

「おはようございます。先生」

「おはよう」

他の生徒に挨拶されると隆羅が先生の顔になった。

「ルコ、海。先生、おはよー」

「今日は3人で登校か羨ましいなぁ。でも海が元気そうで良かったよ、後からね」

クラスメイトが声を掛けてくる。

「うん、ありがとう」

「水無月、良かったな」

「うん、先生のおかげだもん」

「葉月もこれからも宜しくな」

「了解! 任せなさい。海、教室に行こう」

「うん」

2人が走り出した。

教室に着くと一斉に皆が海の顔を見た。

「おはよー」

海が笑顔で元気に挨拶をした。

「おっはー」「おはよう」「おす」

各々挨拶をし元気そうな海を見たクラスメイトは何も聞く事はしなかった。

「良かったね、海」

「うん、そうだねルコ」

「みんな、そろそろ体育館に移動するよ」

クラス委員長が声を掛けるとゾロゾロと体育館に移動して簡単な終業式が行われた。


教室に戻りホームルームが始まる。

「明日から夏休みが始まるが規則正しい生活をして、羽目を外さない様に。まぁ、成績が悪かった人は夏休みなんて殆ど無いけどな。葉月、聞いているのか?」

ドッとクラスが沸いた。

ルコが両手を握り締めて何かに縋るような神妙な顔をしていた。

「成績表を返すぞ」

主席番号順に名前が読み上げられていく、そして1人ずつ声を掛けていく。

「葉月 ルコ」

「は、はい」

ルコが緊張の面持ちで教壇の前まで歩いてくる。

「良かったな」

如月が声を掛ける。成績表をドキドキしながら開けると赤点だけはどうにかギリギリ免れていた。

「ヤッホー! これで遊べる!」

あまりの嬉しさにルコが飛び上がった。

「葉月! 先生が羽目を外すなと言ったばかりなのに」

「ご、ゴメンなさい」

クラス中が大笑いした。ルコが真っ赤になって席に戻り机に顔を埋めた。

「水無月 海」

「はい」

「いろいろな事があったが良く頑張ったな。クラストップだ」

「すげー」

歓声が上がって拍手する生徒も居た。

海は照れながら席に戻った。

成績表を皆に渡し如月が閉めの挨拶をする。

「それでは、これで今学期を終了する。また新学期に元気に会いましょう。怪我なんかしないように、それとくれぐれも課題は忘れないように。委員長」

如月に促されて委員長が号令をかける。

「起立。礼」

「よっしゃ! 終わった!」

「これから何処に行く?」

クラスメイトが教室をぞろぞろと出て行った。

クラスがざわついている中で「校門で」と隆羅の口が動いた。

「先生。さようなら」

「気を付けて帰れよ」

生徒に声を掛け教室を後にして如月が職員室に戻る。

「如月先生は、今学期大変でしたね」

「まぁ、仕方の無い事ですよ。いろんな事情の生徒が居ますから」

「でも、すべて解決してしまうなんて凄いですよ」

「そうですか? 教師として当たり前かと」

「いえいえ、ご謙遜を。当校の鏡ですからね」

「では、私はこれで失礼しますが。問題は無いですね」

「ええ、どうぞ」

「相変わらず仕事の片付けも早いんですね」

「普段からしていますから。それでは」

他の先生に一礼をして職員室を後にする。

校門ではルコと海が待っていた。

「待たせたな」

「先生、帰ろう」

「ああ」


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