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再会

朝、青葉台大学付属青葉台高等学校へと生徒や先生が歩いていく。

「おはようございます。如月きさらぎ先生」

「はい。おはよう」

「やった! 如月先生と挨拶しちゃた。どうしよう」

「ええっずるい、私も挨拶して来る」

「あれ、居ないよ。本当に素敵だよね、如月先生って」

「そうそう、とってもクールで背が高くて」

「落ち着いた大人って感じで」

「数学の授業も凄く分かりやすくってさ」

そこに2人の女の子が仲良くお喋りをしながら登校してきた。

「あっ、ルコだ」

「ルコ。おはよう」

「おはよう」

かいも、おっはー」

「おはよー」

「良いよなぁ。ルコと海は如月先生と同じマンションなんでしょ」

「それに、ルコの元……」

「元はやめてよ。今でも私は……」

私は、葉月ルコ 18歳。ここ青葉台大学付属青葉台高等学校の3年生。

朝から女生徒にキャーキャー言われている数学の如月先生は、私の育ての親なの下の名前は隆羅たから

身長180センチ、いつもスーツを着ていて、髪は綺麗にセットしていて顔はまあそこそこかなぁ。

でも学校の女子からは大人気なんだけどね。

色々と秘密があって。そして、私にも人に言えない秘密があるの。

それは私、ママなの。

そう如月先生はグランパ。

そして、私の大親友の水無月 海みなづきかいはなんと如月パパの恋人なんだ。

2人の出会いは高校2年のちょうど梅雨の時期だったかなぁ。


「もう、うちの家族は何で、いつも、いつもそうなの、私こんな家もう嫌」

海は家を飛び出し梅雨空の中、通学路の途中の土手を泣きながら歩いていた。

「いつも、喧嘩ばかり。どうしてこんなになっちゃったんだろう」

「ニャァーニャァー」

どこかで子猫の泣き声がした。

「あれ、どこで泣いているんだろう」

「あっ、居た。流されちゃうどうしよう」

川の方を見ると子猫がダンボールに入れらて川を流れていた。

普段は、あまり深くない川だが梅雨の長雨で少し増水しているようだった。

夕方で暗くなってきたうえに雨が降りそうな河川敷には誰も居なかった。

「この棒で」

棒を持って箱を引っ掛けようと必死になっていた。

膝まで水に入り追いかける。

しばらくすると箱が少しだけ頭を出している中州に引っかかり止っていた。

「今なら、大丈夫かも」

海が少しずつ川に入っていく。

「キャアーー」

深みに足を取られ流された。

そこに、黒い大型バイクが通りかかった。


「何しているんだ、危ないぞ」

「おーい!」

声を掛けた時に、女の子が流されるのが見えた。

バイクを止めヘルメットを取り、土手を駆け下りる。

上着を脱ぎ、靴を脱ぎ捨てて川に飛び込んだ。

少し流された所を助けだし流されてきたダンボール箱もつかみ川岸に運んだ。

「おい、おい。大丈夫か?」

水は飲んでいない様だ。おそらくパニックなり気を失っていたのだろう。

「う、うう、うん」

しばらくすると溺れかけた女の子が気付いた。

「おい、大丈夫なのか?」

「えっ、私。どうして?」

「川で溺れかけていたんだ」

「う、うわぁぁぁぁん。怖かったよ」

気が動転していたのだろう女の子が泣きながら抱きついてきた。

「それだけ、大声で泣ければ、もう平気だな」

優しく抱しめて落ち着かせるとしばらくして落ち着いてきた様だった。

まだ、しゃくり上げているがもう安心だろう。

「ミュー」

子猫の鳴き声がして女の子が男のシャツを見ると男のシャツの中で何かが動いていた。

「あっ、子猫?」

「ああ、こいつか中州に引っかかっていたのでついでに助けてきたんだ」

シャツの中から猫を出し、女の子の顔を見る。

ロングヘアーで端整な顔に見覚えのある生徒だった。

「あれ? 君は、確かルコの友達の」

「ええっ、き、如月先生? わ、私、2ーAの水無月 海です」

「それで、なんでその水無月が川に入っていたんだ」

「あのう、その子猫を……」

「子猫を助けようとして自分が溺れたと」

「……」

水無月は俯いてしまい何も答えなかった、重々反省はしているようだった。

「たまたま、俺が通りかかったから良いようなものの危ないじゃないか」

「でも、子猫が……ヒック、ヒック」

「ああ、分かったからもう泣くな。とりあえずご両親に連絡して」

「嫌! 嫌です。家には帰りたくありません」

水無月の顔はとても真剣で必死な顔だった。

「しかしなぁ。……お前の家は確か……」

如月がしばらく考え込む。

水無月の両親の事情をルコから何度となく聞いた事があった。

「分かった。とりあえずルコの家に行ってそれから考えよう。このままじゃいくらなんでもずぶ濡れのままじゃ不味いだろう。それで良いな」

「はい」


バイクの後ろに彼女を乗せルコの自宅のマンションまで走る。

8階建ての高級マンションの地下駐車場にバイクを止め、エレベーターに向かうと水無月が不安そうな顔をして聞いてきた。

「ここがルコの家ですか?」

「ああ、そうだ。来た事無いのか?」

「はい、初めてです。でもなんで如月先生が」

「俺が、ルコの育ての親だったって言うのは知っているよな」

「それはルコから聞きました」

「俺も、このマンションの最上階に住んでいるんだ。ルコ達の部屋はその下の7階だ」 

「ええ、そうなんですか」

エレベーターで7階まで上がりルコたちの部屋の呼び鈴を鳴らすが返事が無かった。

買い物か何かで出掛けているのだろうか。

彼女を見ると震えていた。

蒸し暑い時期とはいえ、ずぶ濡れでバイクに乗ったので体が冷え切ってしまったのだろう。

「まいったな。仕方が無い、先生の部屋でシャワーを浴びろ。いいかルコ以外には、この事は絶対に内緒だぞ」

「えっ、分かりました」


念には念をおして、風邪でもひかれては困るのでとりあえず部屋に連れて行き風呂にいれさせる。

濡れた服は洗濯し乾燥機に入れさせた。

「どうしよう、先生の部屋なんて」

「でも、先生の普段も見て見たいな。うふふ」

「ちょっと、ラッキーなのかなぁ」

冷えた体をゆっくり湯船で温めていると両親の喧嘩などどうでも言いように思えてきた。

それに憧れの先生の部屋に入れた事が嬉しくってしょうがなかった。

でも、夢は直ぐに覚めて現実が目の前にある事も海は良く知っていた。

「先生……」

水無月が困った顔をしてバスルームから顔だけ出した。

「なんだ、どうかしたのか」

「あのう、下着は何とか乾いたんですけれど洋服が……」

「これでも、着ていろ」

「はい」

仕方なく如月が自分のスエットを部屋から持ってきて水無月に渡すと、ぶかぶかのスエットを着てバスルームから出てきた。

「だぼだぼです」

「当たり前だ」

「あの、先生。今日は……」

「悪いが、俺にも風呂に入れさせてくれ。寒くなってきた」

「あっ、すいません」

「ああ、それとルコの携帯に連絡入れておいたから、帰ってきたら迎えに来るそうだ」

「ありがとうございます」

湯船で冷えた体を温め風呂から出ると彼女がソファーの上で寂しそうな目をして膝を抱えていた。

不安と安心が入り混じった彼女の顔を見ると、昔に何処かで出会ったことがあるような気がした。

「コーヒーかココアでも飲むか」

「それじゃ、ココアをいただきます」

キッチンに向かい牛乳をミルクパンで温める。

視線に気付き顔を上げると水無月が如月を見つめている。

「なんだ、俺の顔に何か付いているのか?」

「そうじゃなくて、学校以外で先生の事を見た事が無いからなんだか新鮮で。それにとても若く見えるし」

「それは、学校ではおじさんだと言う事か?」

マグカップにココアを入れ熱々のミルクを注ぎ水無月に渡し、如月は大き目のマグカップでコーヒーを飲んでいた。

「ありがとうございます。と、とんでもないですよ、そんな。皆から大人気の先生ですよ、おじさんなんて。年相応で落ち着いた大人って感じです」

「まぁ、昔から年よりは若く見られたからな」

「先生、あの……」

「どうした」

「その、猫はどうするんですか?」 

水無月が床でミルクを貰って飲んでいる子猫を見ながら、少し哀しそうな目をして聞いてきた。

「そうだな、とりあえず俺が預かって飼い主になってくれる人でも探すか」

「じゃ、しばらくはここにその子ここに居るんですね」

水無月の顔がぱっと笑顔になった。

「水無月は、動物好きなのか?」

「はい、でもうちのマンションはペット厳禁だから。ここは平気なんですか?」

「まぁ、平気と言えば平気かなぁ」

「いいな、でも何だか微妙な言い方ですね」

「そうだな。一応ここのマンションのオーナーは俺だし」

「ええっ! 先生のマンションなんですか?」

「名義だけな、親父の管理しているマンションだよ」

そこで、チャイムが鳴った。

「如月パパ、海は大丈夫なの?」

天然パーマの軽くウエーブした髪を揺らしながら幼さが残る顔をしたルコが、ドアを開けると息を切らして慌て顔を出した。

「落ち着け、ルコ。大丈夫だ。おーい! 水無月、ルコが迎えに来たぞ」

「ハーイ」

と元気良く返事をして、ダボダボのスエットのズボンを持ち上げながら水無月が玄関にやって来た。

「プッ、海。その格好は何?」

「しょうがねえだろ、俺の家にこいつに合う服なんて無いんだから。後は頼んだぞ、何かあれば連絡しろ相談くらいなら聞いてやるから」

如月はこの一言が後悔? の元になるとはその時思いもしなかった。

「じゃ、水無月、ルコの家で着替えさせてもらえな」

「はい。先生、今日はありがとうございました」

「また、学校でな」


そして週末の土曜日になると、朝からルコが如月の部屋にやってきた。

「なんなんだ、こんな朝早く? それも今日は土曜で学校は休みだろう」

「如月パパが、海の事で相談があるなら聞いてくれるって言っていたから」

「で、こんなに早い時間にか。お・や・す・み・な・さ・い」

徐に寝返りをうって、もう一寝入りしようとするとルコが俺の体を揺すった。

「駄目ぇ! これから海のパパとママに会って欲しいの」

「俺が、何で?」

「海がもうあんな家は嫌だって言ったら、ママがそれなら家にいらっしゃいって言って。海の両親に電話してくれたんだけど。その時に学校の先生も近くに住んでいるし安全だからって言ったら、それなら先生も一緒なら話を聞きましょうって……」

「それで、沙羅と顔をつき合わせて水無月の両親に会いに行けと? お前らは、本当に昔から変わってないな。嫌だ、そんな面倒な事は」

「だって、海が可愛そうでしょ。それにパパが相談に乗るって言ったんでしょ、男に二言は!」

「ああ、分かった。準備するから待っていろ」

仕方が無い、男に二言は俺の口癖だった。

「えへへへ、優しい。だから如月パパ大好き」

「俺は、嫌いだ」

「プゥー、意地悪。本気で言ってるでしょう」

ルコが拗ねたように頬を膨らませた。


近くの喫茶店で待ち合わせて話をする事になったのだが。

水無月、水無月の両親と沙羅、如月の5人の話し合いは直ぐに終わった。

如月は父兄からもかなり人気があり信頼されていた為だった。

「近くに住んでいらっしゃる先生って、如月先生だったんですね」

「そうですが、私では何かご不満でも」

「いえいえ、そんな事はございません。むしろ安心したくらいですわ」

「では、海さんは私がお預かりしても宜しいのですか?」

沙羅が海の両親に確認を取る。

「如月先生も近くにいらっしゃる事ですしね。あなた」

「ああ、そうだな」

「海の事、よろしくお願いいたします。生活費は毎月お支払いしますので」

「判りました」

「それじゃ、海。ご迷惑お掛けしない様にね」

「先生、私の為にありがとうございます」

「礼ならルコに言ってくれ。私もここで失礼する」

隆羅が席から立ち上がり水無月の両親に一礼をして喫茶店から出て行った。

その直ぐ後を海の両親が別々に目も合わせずに店を後にした。


「しかし、あの格好の時は、本当に冷たい男ね」

軽くウエーブのかかった長い髪をかき上げながら何処から見てもキャリアウーマン姿の沙羅が言った。

「え、あの格好の時ですか?」

如月は学校の時と同じスーツを着ていた。

「そうよ。海ちゃんも直ぐに分かるようになるから、あいつの本性が。それよりこれからよろしくね。海ちゃん」

「はい、よろしくお願いします」

そして、その晩。ルコからいつもの様に一方的なの電話が掛かって来た。

「如月パパ、明日の日曜日どうせ暇でしょ。お買い物に付き合ってね。それと晩御飯は皆で食べましょうって、ママが」

「嫌だ」

「海がお礼をしたいって」

「そんな物いらないし、そんな必要は無い。それにお前以外のお前と同い年の子と出かけるような事はしない。前にも言ってあるだろうが」

「それは知っているし、その問題はクリアーしているから。海は子どもの頃事情があって2年ダブっているから学年で言えば2つ上だからね。明日、9時に駐車場で待っているからね。」

ガチャリとルコが一方的に電話を切った。

「おい、ルコ。クソ、またやられたか」


翌朝、ルコと海は駐車場に降りるためにエレベーターに乗っていた。

「ねぇ、ルコあんな電話で本当に如月先生来てくれるの?」

水無月が不安そうな顔でルコに聞いた。

「大丈夫だって、ルコのお願いを聞いてくれなかった事なんて一度も無いもん」

「うそー! 凄いんだルコって。でもそうだよね、パパなんだもんね。ルコのママとは結婚もしていたんのだしね」

「うーん、そこは微妙かなぁ」

「えっ、何で?」

「結婚は形だけだったから。私を育てる為に夫婦で居てくれたの。寝室も別で生活も半分半分だったからね」

「でも、そんな事って……」

「理由は絶対に教えてくれないんだ。でも、凄い感謝はしているの、私のために10年もそんな生活してくれたんだもん。それに今のパパと如月パパはとても仲が良いしね」

「そうなんだ、なんか不思議だな。あの如月先生から想像もつかないや」

「今日、これから会ったらもっとビックリするよ。絶対に」

「ええ、なんで? 教えてょ」

「会ってみてからのお楽しみ」

「ずるいよ、ルコ」

「ほら、海行くよ」

エレベーターを降りて海の手を取り駐車場に向かう、そこには1人の若い男が立っていた。

派手なオレンジのキャップを深めに被りメガネを掛けて、Tシャツにストライプのシャツをだらしなく着てGパンに黒のスニーカーを履いていた。

年は20代後半か30歳位だろうか。

「お待たせ!」

ルコが男性の腕にしがみついた。

「ええっ、ルコ。誰なのその男の人、彼氏なの?」

「何を驚いている、水無月は? 行くぞ」

海の耳に届いたその声は紛れも無く如月先生の声だった

「えっぇぇぇーー!」

海の悲鳴にも似た叫びが地下駐車場に響いた。

そして腰を抜かしその場に座り込んでしまった。

「如月パパ。海。駄目みたいよ」

「しょうがないヤツだな」

海に近づき腰を持ち上げ海を立たせる。

「えっと、あの、あの」

「大丈夫か、しっかり立ってくれ」

「は、はい」

海の顔が湯気が出るんじゃないかというくらい赤くなった。

「海、何を真っ赤になっているの?」

「だ、だって。せ、先生が」

海が動揺してシドロモドロになり慌てふためいていた。

「そんなに驚く事か? 俺にだってOFFの時間はあるんだ、いつもあんな堅苦しい格好はしたく無いからな」

「そうなの。海、この格好が私のパパの時の格好なの」

「その言い方にも語弊があるな、これが俺の普段着だ。昔からな」

「早く、行こう如月パパ」

「ああ、行くぞ。水無月」

「あ、あのう先生」

「水無月に一言だけ言っておく。今は先生じゃなくて如月隆羅だ、いいな」

「は、はい。き、き。如月さん?」

「如月でも隆羅でもいいから行くぞ。ほら手」

「は、はい」

差し出された手に海は恥ずかしそうに少しだけ手を繋いだ。


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