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ゴールデンウィーク-2

高速を降りて少し走ると山の麓に沢山の鯉のぼりが見えてくる。

鯉のぼりの下にある公園が綺麗なピンク色に染まっていた。

「鯉のぼりがあんなに沢山」

「隆羅、あのピンク色の花は何」

「この時期は芝桜が満開なんだ」

「凄く綺麗」

「鯉のぼりは500匹くらい居るらしいぞ」

「茉弥、見てごらん凄いね」

「はい、隆羅と海ちゃんそこに並んで。はい、チーズ」

沙羅がデジカメで写真を撮っていた。

「えへへ、嬉しいな。隆羅との写真」

「じゃ、皆で記念撮影するか」

沙羅からカメラと三脚を受け取り隆羅がタイマーをかける。

「せーの」

「はい、チーズ」

「パンジーや菜の花も咲いているんだね」

「ここは標高が高いからな、まだ春真っ盛りなんだよ」

「ほら、茉弥を抱いて居てやるから海と遊んで来い」

「やったー。海、行こう」

「うん」

「あまり遠くに行くなよ」

ルコが茉弥を隆羅に任せると海とルコが手を繋いで走り出した。

「相変わらず、ちゃんとパパしてくれるのね」

「当たり前だ、一応育ての親だぞ」

「でも良いの? 海ちゃんの事」

「海はまだ高校生なんだ。高校生らしく遊んでくれた方が俺は嬉しいけどな、それに今の時間は今しか楽しめないからな」

「そうね、学生の時間って大切よね」

「ああそうだ」

「私も行って来よう。写真いっぱい撮ってあげなきゃ」

茉弥を抱っこしてベンチに座り3人が花畑を駆け回るのを眺めていた。

しばらくすると3人が息を切らして戻ってきた。

「はぁ、はぁ。やっぱり現役の子には敵わないわ」

沙羅が膝に手を当てて肩で息をしていた。

「パパ、お腹空いて来た」

「よし、美味しいパンでも買いに行くか」

「イェーイ! レッツ ラ ゴー」

ルコがにこやかに拳を突き上げた。


車に戻り清里駅を目指す、駅の近くの山小屋の様なパン屋に着いた。

「ここは、地元でも有名らしいからな」

ベーカリー独特の香ばしい匂いあたり一面に漂っている。

「いい匂いがする」

「買いに行くぞ」

隆羅が茉弥を抱いて店に入っていく。

「うん」

「美味しそう、どれがいいかな」

「食べられる分だけ買えよ」

「ハーイ」

飲み物も買い、車の中でパンを頬張る。車内がパンの香ばしい匂いで満たされていた。

「はい、隆羅の分」

「サンキュー」

「コーヒーはここに置くね」

海がドリンクホルダーにコーヒーを置くと隆羅も車を運転しながらパンを頬張った。

「なかなか美味いな、このパン」

「なかなかじゃなくてかなり美味しいと思うよ」

「そうだな、海は今まで食べた物で何が1番美味しかったんだ?」

「あのね、隆羅が作ってくれるパスタ! 凄く、美味しいんだよ。隆羅の料理は」

「ええっ、パパ料理なんか出来るの?」

「出来るさ、独り暮らし長いしな。それにルコは子どもの頃、良く食べていただろ」

「私、パパの料理なんて食べた事無いよ」

「はぁ~沙羅、何とか言ってくれ」

隆羅が落胆しきってため息をついた。

「ルコが小さい頃に食べていたお弁当は隆羅が作っていたのよ」

「へぇ? 作ったのママじゃなかったの?」

ルコが呆気に取られて沙羅の顔を見た。

「だって、ママはあまり料理得意じゃないしネ」

「遅くまで仕事、仕事で、朝起きられなかっただけだろうが」

「そうかも」

「そうだ」

「ママが作ったお弁当って自慢してたのに」

「作っていたじゃなくて、作らされていたが正解かな。雑誌を買って来ては、これ作れあれ作れってな、面倒臭い事この上ない」

「でも、凄く綺麗で美味しかったよ」

「苦労と努力は報われない物なんだな」

「だって、知らなかったんだもん。今度、作ってね」

「嫌だ。タコに作ってもらえ、アイツも料理得意だぞ」

「如月パパが良い」

「残念ながら、海の専属のコック&パテシェなもんで」

「パテシェってケーキも作れるの。もしかして誕生日やクリスマスのケーキって……」

「そうよ、隆羅が作っていたの。おかげで買ってきたケーキは甘過ぎるって食べなくなっちゃうし」

「だって、甘さ控えめで美味しかったんだもん」

「そう、とっても美味しいよね隆羅の作ったスイーツ」

「ああ、海だけ。ずるい私も」

「茉弥になら作っても良いぞ」

「じゃ、今度は茉弥の為に作ってよ」

「茉弥が食べられる様になったらな」

「ブゥー」

「拗ねていないで、今日のメインに着いたぞ」

車で少し走ると次の目的地に到着した。


そこはゴルフ場やオートキャンプ場などが集まっている八ヶ岳の麓にある総合リゾートセンターの敷地内にあった。

「ここは?」

「総合リゾートセンターの中のアクアリゾートに行こうかと、水着を持って来いって言っただろ」

「アクアリゾート?」

「温水プールと温泉だ。気持ち良いぞ」

「茉弥はどうするの?」

「プール用のオムツを着ければOKだ」

フロントで受付を済ませて、更衣室で着替えて中で待ち合わせる。

「お待たせ」

「茉弥は、興味津々だなぁ」

茉弥はルコに抱っこされ辺りをきょろきょろとまん丸の瞳で見ていた。

沙羅も黒いシンプルなワンピースの水着に着替えてやって来た。

「ほら、海ちゃんもこっちにいらっしゃい」

沙羅が海を呼んだ。

「う、うん」

海がちょっと大人ぽい白のビキニを着て恥ずかしそうに出てきた。

「似合っているじゃないか可愛いぞ。海」

「あ、ありがとう。でも、なんだか恥ずかしいな」

「いいな、私なんか去年の水着なのに」

ルコは青いセパレートのシンプルな水着を着ていた。

「持ってないと言うから買ったんじゃないか」

「パパが選んだの?」

「俺は選ばないぞ、感想は言ったけどな」

「でも、パパもママもあんな歳には見えないよね。中年太りとかしないの?」

ルコが沙羅と隆羅の体をまじまじと見ていた。

「ルコは失礼ね、中年て。大変なんだから維持するの」

「沙羅は隠れて努力しているよな、俺は別に何もしていないぞ」

「嘘つかないの、筋トレはしているじゃないの」

「筋トレしてないと、あんな大暴れは出来ないもんね。パパ」

「ルコ、その話を蒸し返すなよ。行くぞ」

大きなプールがあり、吹き抜けになっていてとても室内とは思えないほど開放感があった。

連休初日という事もあってか人はそんなに多くは無かった。

「ねぇ、パパって泳げるの?」

「少しならな」

「そうだよね、川で海を助けたんだもんね」

「ほら、茉弥。大きなお風呂ですよ」

初めてのプールでおっかなビックリの茉弥だったが少しずつ慣れてきた様だった。

「隆羅が泳いでいる所みたいなぁ」

「少しだけだぞ」

海に言われて少しだけ泳ぎ始める、とても綺麗なフォームでターンを決めてながら泳いで戻って来ている。

海とルコはプールサイドに腰をかけておしゃべりをしていた。

「綺麗な泳ぎ方」

「パパの苦手な物ってないのかなぁ」

「そうだね、頭も良くて運動神経抜群で喧嘩も強くって。背も高いし凄く若いしね」

「それって海? お惚気?」

「ち、違うよ」

「でもそうだよね。皆の憧れの先生だもんね」

そんな事を話していると隣に沙羅が座って話しに加わってきた。

「隆羅にも苦手な物、あるわよ」

「ええっ、本当にママ?」

「女の子が苦手なの」

「女の子?」

沙羅の言葉に信じられないと言う顔でルコが驚いた。

「隆羅は、優しいけれど不器用だから初対面だったりすると、どうして良いか分からないのよ。だから少し怖く感じるの、慣れてくればそんな事は無いんだろうけどね」

「ママあんなに、女の子の扱い上手そうに見えるのに?」

「上手い訳じゃ無いわよ。ただ相手が男だろうが女の子だろうが相手を優先的に考えて動いているだけ。だから時々、海ちゃんとも衝突するでしょ。扱いが上手ければそんな事にはならない筈でしょ。そこが隆羅の弱点かなぁ」

「でも、私はそんな隆羅が好き。あっ」

海が言って失敗したと思ったが遅かった。ちょうど隆羅が戻ってきた。

「そんな所で、おしゃべりして楽しいか? 海、どうした真っ赤だぞ」

「海にお惚気を聞かされていたの」

「茉弥、こちにおいで」

隆羅が茉弥に手を差し出すと茉弥が無邪気に両手を隆羅に差し出した。

「だぁー」

茉弥が隆羅に体を預けると隆羅がお腹の上に茉弥を乗せ水に浮く。

「きゃっ! きゃっ!」

茉弥がはしゃいで大喜びしている。

「パパって本当に凄いよね」

「さぁ、あなた達も遊んでいらっしゃい。ママはジャグジーに居るから」

「ルコ、泳ごう」

「うん」

しばらく海とルコが追いかけっこなどをして遊んでいる。

隆羅は茉弥を連れてジャグジーに向かった。

「気持ちいいなぁ」

「そうね、有難うね隆羅」

「何がだ?」

「ルコも楽しそう」

「いろんな事があったからな。たまには羽を伸ばすのもいいだろ。あいつ等も俺達も」

「そうよね」

「しかし、タコの仕事病は治らないのか?」

「しょうがないじゃない、好きで忙しい訳じゃ無いんだから」

「好きで、忙しい様にしか見えないけどな」

「時間があれば、合流するって」

「まぁ、タコの事だ無理だな」

「そんな言い方しないの」

「分かっているさ。沙羅より付き合い長いんだぞ、アイツなりに頑張っている」

「隆羅に出逢わなければ彼とも出会え無かったんだし、あなたにあの時頼んで良かったわ」

「そうか、危険な目に遭わせたのにか?」

「でも、守ってくれたでしょ。命懸けで」

「自分で自分のケツを拭いただけだよ」

「でも、あの時は驚いたわ。ルコを育てる為に一緒に居るって言われた時は」

「皆、同じなんじゃないか。タコや沙羅、それにあいつに出逢わなければルコにも巡り合うことはなかった、そして海ともこうして居られなかった。そうだろ」

「そうね。何だか不思議ね出逢いって」

「そうだな」

「疲れた。何を話していたの?」

隆羅と沙羅がお喋りしている所にルコと海がジャグジーにやってきた。

「別に何も」

「怪しいなぁ」

「何が怪しいんだよ」

「茉弥、気持ち良いか?」

ジャグジーの泡がくすぐったいのか茉弥が神妙な顔をしていた。

「直ぐに誤魔化すんだから。茉弥おいで」

ルコが隆羅から茉弥を抱き上げる。

「昔の話さ」

「聞きたいな。ねぇ海」

「うん、でも話してくれる時で良いかなぁ」

「海も2人の味方ですか」

「海は俺の味方だからな」

海の手を引っ張って抱き寄せた。

「ラブラブですか羨ましい事で」

ルコが拗ねて隆羅と海を羨ましそうに見ている。

「隆羅、ジャグジー気持ちいいね」

「2人だけがラブラブじゃなくて皆がラブラブなのよ。上に露天風呂があるらしいわ、行って見ましょう」

「ママがそう言うなら」

「じゃ、3時に上のドリンクバーで待ち合わせしよう。いいかな」

「賛成!」


露天風呂で体をほぐして、隆羅はドリンクバーでアイスコーヒーを飲んでのんびりしていた。

「隆羅、お待たせ」

そこに海がやって来た。

「体がポカポカ」

「海は何が飲みたい?」

「ん、グレープフルーツが良いかな」

「よし、分かった」

隆羅が席を立ちカウンターに向かうと入れ違いでルコ達が来た。

テーブルには海の姿しかなくテーブルの上には隆羅が飲んでいたであろうアイスコーヒーがぽつんと置かれている。

「海、パパは?」

「今、飲み物を買いに行ってる」

「相変わらず、優しいね」

「ルコ、茉弥を抱っこしているから買ってきて頂戴。ママはアイスティー」

「はーい」

しばらくして隆羅とルコが戻ってきた。

「ほら、海。グレープフルーツジュースだ」

「ありがとう隆羅」

「はい、ママ」

「悪いわね」

「これは、茉弥のオレンジジュースだ」

「えっ、パパありがとう」

「水分補給させないとな。特に風呂上りには」

「隆羅って何でも知っているんだね」

「知らない事の方が多いぞ」

「そうね、隆羅は皆が知っている事に疎かったりするからね」

「そうか、そこまでは酷く無いだろう。少し休んだらホテルに行ってゆっくりしような」


ホテルはそれ程離れていない場所にあった。

総合リゾートセンターを後にして車で10分位走っただろうか。

標高1500メートルの所に建っていて屋上に天文台がありとても綺麗なリゾートホテルだった。

「何だかとっても高級そうなホテルだね」

「隆羅、こんな時期によく部屋取れたわね」

ロビーに入るとルコがキョロキョロしていて沙羅も少々驚いていた。

「ああ、1部屋だけな」

「1部屋って?」

「スィートだが不満でも」

「でも、高いんじゃ無いの」

「お前達が気にする事じゃないだろ。それに2部屋取るなら変わらないくらいだ」

フロントで隆羅がチェックインを済ませると「如月様、こちらへどうぞ」と言われ案内されて部屋に向かう。

部屋は和洋2つのベッドルームになっていて、リビングもとても広くゆったりと寛ぐのに十分な広さだった。

「俺達は洋室を使わせてもらうけれど構わないな」

「ええ、ルコも洋室がいいょ」

「ルコ、わがままを言わないの。行くわよ」

「はーぃ」

ルコが尻すぼみに返事をして沙羅に促されて和室に入っていく。

「はぁー、疲れたなぁ」

「お疲れ様、隆羅。でも、凄いよ。ちゃんとルコちゃんが羽を伸ばせる様に茉弥ちゃんの面倒を見てさ。ちゃんとパパしてるんだね」

隆羅は洋室に荷物を運びベッドに倒れ込むように体を投げ出すと海がベッドに腰を下ろした。

「そうか、でもルコが茉弥に構っていたら海だってあまり遊べないだろ」

「ええっ、そんな事まで考えてくれていたの?」

「高校生は高校生らしく元気に遊んで学んでそれが1番だろ」

「えへへ、やっぱり隆羅が1番大好き」

海が抱きついて来た。

ベッドの上でまったりとする。

「でも、隆羅とも遊びたいなぁ」

「そうだな」

「こんな幸せな時間がいつまでも続くといいなぁ」

「続くさきっと、その為にはどんな事でもするからな」

「ありがとう、隆羅」

海から軽く隆羅にキスをした。


沙羅達もルコと茉弥の3人で部屋でくつろいでいた。

「もう、ベッドが良かったのにぃ」

ルコは未だに拗ねていた。

「本当にバカね、ルコは」

「ママ、何でよ!」

ルコが不機嫌そうな顔をして沙羅に噛み付いた。

「茉弥みたいな小さな子どもが居る時は和室の方が断然楽なのよ。オムツ替えもミルクを飲ませるのも何をするにしてもね」

「それで、パパは」

「当たり前じゃない、それに今日は茉弥の事気にせずに羽伸ばせたでしょ。まぁ、海ちゃんの事も考えてだろうけどね」

「ええっ、そんな」

「ルコは当たり前だと思っているから気付かないのかもね。ルコが茉弥に構っていたら海ちゃんだって羽を伸ばしきらないでしょ」

「如月パパはそこまで考えてくれているんだ」

ルコが神妙な顔をして、隆羅に凄く申し訳ないような気持ちになった。

「夜くらいは邪魔しちゃ駄目よ、ルコにもそのくらい分かるわよね」

「うん、私や海の為に遊びに連れてきてくれたんだもんね」

「それと、これ隆羅からよ」

「ママ、これは?」

「スリングよ、抱っこ紐みたいな物かしら。こうして抱っこすると楽でしょ」

沙羅がルコに渡したのは抱っこ紐と日本では呼ばれているスリングだった。

沙羅がスリングを使い茉弥を抱っこさせてみる。

「本当だ、肩も痛くない。でも何で?」

「もっと早くに渡して欲しかった? 旅行先の方が役に立つでしょ。違う」

「そうだね、私ももっと勉強しなきゃ」


各々が部屋でゆっくりして茉弥の事を一番に考えて少し早めに夕食を取る事にする。

「おーい、食事に行くぞ」

「ハーイ」

隆羅と海がリビングから声を掛けると沙羅とルコが出て来る。

ルコはスリングで茉弥を抱っこしていた。

「如月パパ、これありがとう」

「もう少し、ルコはいろんな事を学ばないとな」

「そうだね、でも大変そう」

「大丈夫だ。茉弥が大きくなるのと同じように、ルコも親になっていくんだ。誰でも同じ事さ、最初から親なんてそんな人間居ないだろ」

「そうだね、少しずつだね」

「隆羅、今日の夕食は何なの?」

「レストランでコースのはずだが」

「茉弥が居て平気なの?」

沙羅が心配して隆羅に尋ねた。

「大丈夫だ。ミルクは飲ませたんだろ」

「ええ、さっき」

「茉弥は大人しいからなぁ。行こうか」

「ハーイ」


ホテルのダイニングは大きなガラス張りで外の景色が良く見える開放感のある、とても落ち着いた感じのレストランだった。

「如月様、お待ちしておりました」

係りの人に案内されて席に着くとホテルのマネージャーらしき人が現れて隆羅に声を掛けてきた。

「大変申し訳ございません。明日の朝食はいかが致しましょう」

「洋食と和食どちらがいい?」

隆羅が皆の希望を聞いてマネージャーに伝えた。

「じゃ、和食が1つの洋食が3つでお願いします」

「かしこまりました」

用件を聞くと直ぐにマネージャーらしき人が下がった。

「飲み物は何を飲む。好きな物を頼んで良いぞ」

「お酒、少しなら飲んでいい?」

ルコが目を輝かせながら聞いてきた。

「駄目だ、と言いたいが少しならいいだろう。俺がチョイスしてやる」

「やった!」

「隆羅、赤ワインもお願いね」

沙羅も隆羅に希望を伝えると隆羅が手を軽くあげウエーターを呼ぶ。

「キールロワイヤルとミモザ、それに黒い女王を」

「かしこまりました」

しばらくするとドリンクが運ばれてきた。

キールロワイヤルは海にミモザがルコ、そしてワインは沙羅と隆羅が。

ワインのティスティングを隆羅がしてソムリエに頷くとグラスに注がれた。

「じゃ、乾杯」

「乾杯!」

「これ、凄く美味しい」

ルコがミモザを飲んで驚いた。

「ルコのミモザはシャンパンとオレンジジュース。海のキールロワイヤルはシャンパンとカシスのカクテルだ、海の口に合うかな?」

「隆羅。カシスの香りが良くて凄く美味しいよ」

「このワインも美味しいわ、何だか素朴なのに深みがあって」

「今では殆ど作られていないブラッククィーンと言う葡萄で作られているんだ。国産のワインでも美味しい物を作っている所はいっぱいある。それに地元の食材は地元の飲み物でが旅行の醍醐味だからな」

料理が運ばれてくる。

フレンチのフルコースの始まりだ。

「これは、どうするの?」

ナイフやフォークがテーブルに沢山並んでいて海が戸惑っていた。

「お前達も、こんなコースを体験するのもいいだろ。外側から使うんだ使い方は沙羅や俺のを見て真似したら良い」

「ハーイ」

料理が順序良く運ばれてくる、ルコは茉弥を抱いているせいか食べ辛そうにしていた。

「ルコ、茉弥を預かろう」

隆羅がルコの所に行き茉弥をスリングごと受け取り抱っこした。

「ありがとう、パパ。パパは食べ辛く無いの?」

「問題ないぞ。体の大きさの違いかな」

「隆羅、明日の予定はどうなているの?」

沙羅が隆羅に明日からの予定を聞いてきた。

「特に予定は組んでいないけどな」

「じゃ、自由行動にしましょう。私はエステもしたいし」

「構わないが、ルコはどうするんだ?」

「この近くにも遊歩道とかあるみたいだから、茉弥とのんびりお散歩がいいなぁ」

「この時期は、まだ寒いから温かくしておけよ」

「海はどうするの?」

「私は、隆羅と何処かに行きたいな」

「それだったら、この近くにトレッキングのコースがあるからそこに行くか」

「うん、行きたい。スニーカーも持ってきたし」

料理もメインディシュの肉料理になり、半分くらい食べた所で茉弥が愚図り始めた。

隆羅が席を外してウェーターに耳打ちをしてレストランを出て行ってしまった。

「また、パパに甘えちゃった」

「大丈夫よ、隆羅もそのくらい心得ているわ」

隆羅の皿にはまだ半分くらい料理が残っていた。

「こちらお下げしても宜しいでしょうか?」

ウェーターが聞いてくると「どうぞ」沙羅が答えた。

「えっ、でもまだパパの料理が」

「いいのよ、たぶん席を外す時に係りの人に言ってあるんだわ、きっと」

デザートと食後のコーヒーと紅茶が運ばれてくる、デザートは4人とも違うものが用意されていた。

「わぁ、美味しそう。みんな違うんだ。海、少し分けっこしよう」

「うん、そうだね」

「パパはどうしたんだろう」

「あそこに居るよ」

ルコが海に言われて見ると他のお客さんに邪魔にならない所で、こちらを見て茉弥をあやしながら海と目が合うと手を振っていた。

海が『デザートどうするの?』と口を動かすと隆羅は『食べて良いぞ』と口を動かした。

「隆羅のデザート食べていいって」

「ええっ、あれで海は判るの?」

「うん、短い会話で隆羅となら判るよ。隆羅のデザート分けて食べよう」

「凄いね、海とパパは」

「ラブ イズ パワーね」

沙羅がコーヒーを飲みながら言った。


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