#3
母は人間。父も人間。その間から生まれたのが純血だった。
両親から受け継いだ赤い髪。なのに、目は、瞳は、真っ黒だった。
人間と人間の間から純血の死神がえでてきたことなんてなかった。
だから地上初めての歴史にのこる死神の誕生。
両親はどんな顔をしていただろう。
両親は笑って育ててくれた。
本当は死神の施設に預けることもできるのに、それでも育ててくれた。
死神でも私たちの子供だもの、そう母が言ったのを覚えている。
死神に名前なんてない。
そう言ったのは誰?
きっと嘘だ。
人間から死神になった人も元から死神だった人も名前をもらっているはずだから。
「クレア」
両親はそう呼んでくれた。
それが自分の名前。
くれあ、クレア。
何度も唱えた言葉。
私は貴族だった。
下の方だけれど、貴族には変わりなかった。
朝昼晩、食事は豪華だったし、お金に困ることはなかった。
なのに両親は大きな家を拒み、平民が住んでいる質素な家を好んだ。
私もそのほうが好きだったし両親がそうしたいならそれでよかった。
幸せ。
私は幸せだ。
いつもいつもそう思った。
でも、違ったんだね。
幸せだと思っていたのは私だけだったんだ。
私の一言が世界を変えた。
「私が死神でよかった?」
いままで、普通に過ごしていたから、私にとってはただちゃんと愛情があるか確かめるだけの行為。
うん、と言ってくれれば愛されてるなぁって思えるだけのそんなこと。
なのに、なのに。
投げられた夕食の皿。
引き裂かれたテーブルクロス。
振り上げられたナイフの刃。
ああ。
なんで。
なんで目の前が真っ赤なんだろう。
なんでフォークが赤いんだろう。
なんで母が、父が、倒れているんだろう。
「終わったか」
いつのまにか後ろに黒い人がいた。
すぐに死神だと思った。
「こい」
「なんで」
「お前が死神だからだ。この人たちは今日死ぬ予定だった。それを死神のお前が殺した。もう戻れないことも分かるだろう」
そっか。
死んだんだ。
倒れた父と母を見た。
血まみれで動く気配はない。
息も、きっとしていない。
「おまえ、さっさとしろ」
「おまえじゃないわ、クレアよ」
「名前など死神の世界じゃいらないものだ。そんなもの捨てておけ」
両親からもらったものなのに。
なのに捨てることになんの抵抗もなかった。
もしかしたら、もしかしたら幸せじゃなかったのかな、私。
両親を殺すことを拒むことさえできなかった。
死神だからかもしれない。
「バイバイ、お母さん、お父さん」
涙が一滴。
とても温かかった。