四話「紅蓮とフォーク」#1
冷たい部屋の中央。
バラバラになった骨。
千切れ飛び散った肉の破片。
いくつもの斑点を描く真っ赤な血。
そんな部屋の中央にその人はいた。
垂らした赤い髪に黒い服。
両手には普通より三倍くらい大きいフォーク。
先はピンピンに尖っている。
「すぐ皆なくなっちゃうから面白くないわ」
静かな部屋に響く声。
周りのお客はもう人の形すらしていなかった。
***
「……ずずー……」
サクは団子を食べながらお茶をすする。
団子は残り五つで全部みたらし。
どうやらみたらし団子を気に入ったようだ。
待ち合わせは国の入り口。
時間まであと四十分程度。
あまり大きくないこの国をもう探検しきって時間をもてあましていた。
みたらし団子を丁寧に時間稼ぎのようにゆっくりと食べる。
昔自分が住んでいた国で母がよく作ってくれていたことを思い出す。
一緒に淹れてくれたお茶もおいしかった。
静かに手を止めた。
「あ、れ?」
記憶を探る。
母が作ってくれたみたらし団子。
おいしかったお茶。
愛情、温もり、笑顔。
いろいろ、いろいろ探ってみた。
でも
「なんで思い出せないんだろう」
母の顔がわからない。
作ってくれた団子も淹れてくれたお茶も。
祖国の風景さえ、全てが消えていた。
ぼやけていない。
ただ、そこだけがすっぽり抜けている感じ。
確かに、サクは自分からユイに言えない秘密を持っている。
でもこのことじゃない。
今はじめて知った。
生死屍人になってから思い出そうなんてしなかったから。
みたらし団子をほっといてサクは走った。
***
いつからこんなになったんだろう。
紅い女性は思う。
昔はまだ純粋でこんなことをしようなんて思わなかった。
なのに、どこで間違えたのだろう。
自分が死神として生まれたときから、もう違っていたのかもしれない。
フォークから血をふき取り懐にしまう。
死神の武器はなんでもいい。
鎌が主として使われるが、人の肉体と魂を切り離せればなんでもいいのだ。
だからフォークにした。
一番心に残ったモノだから。
紅い人、クリムは黒い目で辺りを見回す。
今日は誰を排除しようか。
いらない人間は一秒でも早くいなくなるべきだ。
これが普通になった考え。
ユイにもサクにも見せたことのない殺意。
「どうせ、創られた人にはわからないわ」
ユイにも、サクにも。