#3
紅い人はサクたちに気づきこちらへ歩いてきた。
長い赤髪を垂らしていて、黒い服には少々赤い刺繍がしてある。
顔は笑っていて、綺麗な女の人だ。
サクは女の人が近づいてくるたび、何か変な気を感じた。
そしてそれははっきりと分かった。
「死神」
顔は笑っているのに、相手をねじ伏せるような威圧。
ユイからはあまり感じない気。
「初めまして」
にっこりと満面の笑顔。
男ならすぐにイチコロだろう。
女の人はサクに手を伸ばす。
握手の手。
でもサクはその手を握らなかった。
死神だから、とかそんなのではなくただ嫌な気がしたのだ。
握るな、と本能が拒否する。
女の人はふうんとサクを眺め手を引っ込めた。
「この子、なかなかやるわね」
女の人がユイに言う。
「だから俺は止めなかった」
「え、えっと?」
サクが二人の言葉にはてなをだす。
ユイの態度から知り合いだとわかるが、何の話をしているのか分からない。
ふふふ、と女の人が種明かし。
「私の手に毒を塗っておいたの。この小さな針の先、見える?」
小さな子供に教えるみたいに背をあわせて手を見せる。
手には、見えにくいけど小さな針の先があって毒も塗ってある。
「即効性だから生死屍人でもピンピンできないわよね」
「もしワタシが握ってしまってたらどうしたの」
「それでもいいわ。解毒薬あるし」
懐から小瓶を出してまたしまう。
サクは誰この人、とでも言うようにユイをみた。
でもユイが紹介する前に女の人が察して自己紹介をしてくれた。
「自己紹介おくれてごめんなさいね。私は名前はないんだけど、知り合いや親しい人にはクリムってよばれているわ。クリムゾンを縮めてクリム。この男と同じ死神よ」
「死神っていっても俺と少し違うが」
確かに気が違うが死神としての違いはサクには分からない。
これは後で聞いてみようと、保留しておくことにした。
「でも、へぇ、この子があの。たしかサクちゃんよね」
「うん」
名前を知っていることについては聞かなかった。
青い空は綺麗でもからっぽなように、サクは想いを知っていてもからっぽなふりをした。
そうしたらどんどん寂しくなっていく。
あのことをこのクリムという人が知っているなら、サクはいつまでも寂しい綺麗な空白を演じ続ける。
「サク、どうした」
ユイが急に話しかけてきたのでびっくりして体がピクッとはねた。
「なに」
「目が死んでたが、大丈夫か?」
「なにそれ。ただ考え事してただけ。大丈夫」
言葉がカチこちなのは自分でもわかった。
サクは頭の中、さっきまで考えていたことを投げ捨て、考えないようにした。
あのことは自分が導いてはだめなのだ。
時間と運命というやつが導いてくれないと。
サクからあのことを言うには、まだきつすぎる。
春の暖かい空気はサクを避けるように通り抜けていく。
空っぽの青色は真上で見守ってくれているのに。