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短編集

他人からの悪意ある言葉が弾幕となって具現化する程度の能力に目覚めたら、後輩と付き合うことになった

作者: 乃亜素
掲載日:2026/09/19

 ゲームで弾幕系シューティングというのをご存じだろうか。

 敵の弾が画面を埋め尽くす中、当たり判定の小さな自機を操り、弾幕をすり抜けながらショットを撃って敵を倒すゲームだ。

 弾幕の美しさや音楽、キャラクターなどで人気を博した、同人発の有名シリーズを思い浮かべる人も多いだろう。


 ある日、変なスキルに目覚めた。

 目の前にいる他人の悪意のある言葉が弾幕になって具現化するスキルだ。

 被弾すると心に負担になってしまうが、避けて当たらなければノーダメージで済む。

 色々と対人関係でストレスが積み重なる世知辛い現代社会。

 このスキルを上手く使うとノーストレスで過ごせるのだ。


「石田、昨日お前が再提出した資料だが、あれはダメだと言っただろうが! 何回言わせるんだ!!」


 課長が俺に怒鳴り声をあげる。

 出社して仕事を始める準備も整う前に呼ばれたから何だと思ったらこれだよ。

 朝からよくもまぁこんなにテンション高く怒れるものだよ。


――スキル:ON――


 いきなりトップギアで大声で怒るような相手とまともに応対しても疲弊するだけだ。

 さっさとスキルを有効にする。


 悪意ある言葉が弾幕に具現化するといっても、質量のある実体として飛んでくるわけではない。

 スキルを有効にすると俺の意識が幽体離脱したような感じになり、その俺に向かって弾と化した言葉が飛んでくるのだ。 

 端から見たらただ立って叱責を受けているようにしか見えないだろう。


「その気の抜けたような顔はなんだ! 寝ながら出社したのか!?」


 これはただの罵倒なのでかなり避けやすい敵弾となる。

 小さな弾がばらまかれるような感じで、隙間だらけなので軽やかに避ける。


「お前みたいな変な髪型のやつでいい仕事できる奴はいない! 美容室で流行りの髪型にしてこい!」


 変な髪型にしているつもりはなく、至って普通だと思う。

 でも、カッコいいとは思っていないので、課長の言葉に少しだけ思い当たることもある。

 そういう言葉は弾幕の難度が少し上昇する。

 俺の現在の位置に向かって一直線のレーザーとなって飛んできた。

 自機狙いの攻撃の場合は少し自分の座標をずらすだけで簡単に回避できる。


 こんな感じで『自分に刺さりそうな言葉』ほど避けづらい弾幕と化すのだ。

 ただ、幸いなことに課長はほとんどが人格攻撃の罵倒ばかりなので、回避不能なような攻撃がくることはない。

 いつまでも避けられるし、ノーミスで叱責タイムを切り抜けるので、俺のメンタルも無傷というわけさ。


「そんなんだから彼女もできないんだぞ!」


 うおっ!

 油断してたらランダムに小弾がバラまかれた上に、自機狙いのレーザーの組み合わせが来た。

 レーザーを避けるために座標をずらそうとした先に小弾があったりして嫌らしい。

 確かに彼女は欲しかったりするので、これを被弾すると大きめのダメージになるぞ。

 慎重に避ける必要があるな。

 ここは下がりたいところだが、距離を詰めてしまった方が最小限の動きで避けやすいこともある。

 勇気を出して前に出ると、ほら隙間が見えた。

 そこに身体を滑り込ませればレーザーも小弾にも当たらない場所だ。

 俺はこんな感じで続く攻撃も華麗に避けていった。


 

***



「先輩、今日も怒られてましたね」


 課長のパワハラタイムを無事にやり過ごし、休憩用のエリアで缶コーヒーを飲んでいると、後輩の女性社員・加藤から声をかけられた。

 加藤とは同じチームだが、言葉が妙に鋭いので接していて緊張感がある。


「先輩の資料は冗長でわかりにくいし、何が言いたいのかわからない部分も多いですからね。課長が怒りたくなる気持ちも少しはわかりますよ」


 ね、こんな感じで先輩の俺に対してもズバズバと言ってくる。

 課長と違って根拠を伴って言ってくるので、耳に痛いのよ。

 でも、スキルはONにしない。

 俺はこの加藤に対してだけではなく、同世代くらいの女性には使わないようにしている。

 情けないけど恋愛強者ではないので、恋愛対象になりそうな女性たちから嫌味を言われ、それが弾幕として悪意のある言葉が可視化されると厳しいのがあるのだ。

 弾幕としてでも見たくない。

 だからこのように加藤からチクチク嫌味言われるけど、グレーということでスルーしてる。

 可視化しなければ悪意ある言葉と確定はしない。

 シュレディンガーの猫理論。


「お前みたいにダメなところを具体的に指摘してくれるんならいいんだが、課長は自分のストレスをぶつけてくるような怒り方だからなぁ」

「具体的にダメな所を指摘されるのがいいって……先輩はマゾですか?」

「いやいや、ただの誹謗中傷なら気分が悪くなるだけだけど、お前みたいに指摘してくれるんならそこを直せばいいだけだろ? ありがたいよ」

「もう……お礼言われるなんて調子狂いますね」

「しかし、課長のパワハラって社内で有名なんだから、相談窓口の役割もある総務部もなんとかしろよなぁ」

「それは同感ですね」


 しばらく加藤に課長の愚痴を零してから、仕事に戻ったのだった。



***



 スキルのおかげで精神的ストレスが最小限になったので、ここ最近の俺の仕事の成績が上昇していた。

 自分のことは取り立てて優秀とは思わないけど、ストレスがないだけでここまで仕事の効率が変わるもんなんだな。

 有能だけど高負荷なストレスを抱えている人と、普通だけどストレスがゼロな人。

 場合によっては後者の方が良い結果を出すということを、自分で証明してしまった。

 ストレス対策は本当に大事ね。

 

「石田、最近ずいぶん成績がいいからといって、調子乗るんじゃないぞ」


 課長ももっと俺を罵倒したいのだろうけど、結果を出しているから負け惜しみな嫌味しか言ってこない。

 部下が結果を出しているってことは、自分の課の成績にも関係するんだからもっと喜べばいいのに。

 ここで貶してくる課長が理解できないよ。

 自席に戻る際に加藤と目が合った。


「先輩、課長の言う通り、気を引き締めてくださいね。私のダブルチェックでミスを修正している所も多々あるんですから」

「は、はい」


 加藤には普段からケアレスミスの指摘や手落ちをカバーしてもらってる点もあるので、真っ当な指摘だった。

 課長にはともかく加藤には迷惑がかからないようにしないと。

 ――と、思ったのはどうやらフラグだったようだ。


 俺の社給スマホが鳴った。

 表示されてるのはお得意様の取引先の担当者だった。

 電話に出た俺は、その内容で伸びに伸びてた天狗の鼻をへし折られることになる。


 お客様からの電話は激しいクレームだった。

 相手の怒りを増加させないように慎重に話を聞いていると、なるほど俺のミスだわ。

 言い訳もできない。

 調子に乗っていた天罰が下ったようだ。


 スキルをONにしたいところだが、相手が目の前にいないと弾幕化できないのだ。

 久々に他者からの言葉によるストレスを十分に味わってしまった。


「はい、本当に申し訳ございませんでした」


 電話を切った後、ぐったりして自席に座り込みたいところだが、チャンスとばかりに報告を待っている課長がいた。


「はぁ……」


 俺は最初からスキルをONにして、課長の机に向かった。 



***



「先輩」


 休憩用のエリアで缶コーヒーを飲んでいると加藤がやってきた。

 課長に叱責された後、いつもこいつが現れるような気がする。


 今は久々に心に多大な負担がかかっている状態。

 これで加藤の指摘をまともに喰らったら本当の意味で再起不能になってしまうかもしれない。

 あえてスキルをONにするべきか。

 ただの誹謗中傷と違い、加藤の言葉は根拠を持って具体的に指摘をしてくるので、かなり避けにくい高難度の弾幕と化してしまうだろう。

 それでも回避にさえ成功すれば心にダメージを負わないで済む。

 今の状態で普通に言葉を受けるより、ノーダメージでやり過ごす可能性にかけたかった。

 よし、スキルを使おう。


――スキル:ON――


 「いいですか、先輩――」 


 加藤が口を開き、いつものように言葉を重ねてくる。

 だが、身構えていた俺は拍子抜けしてしまった。


「……お?」

 

 あれ、弾幕が見えない。

 言葉はトゲが多少あるのに弾幕に具現化されない。

 平穏無風な凪のような感じだ。


 『悪意のある言葉』だけが弾幕になるスキル。

 つまり、悪意のない言葉ならば弾幕にはならない。

 これは言葉のチョイスがキツイだけで、内心では悪口ではないってこと?


「ちょっと先輩、聞いているんですか? そんなんだからいつもいつも――」


 そうか、加藤なりに慰めて発破をかけてくれてるんだな。

 よく見たらゴミを見るような目ではなく、心配してくれるが故の真剣な目なのかもしれない。


「加藤……」

「な、なんですか?」

「ありがとう、心配して励ましてくれているんだな」

「……!!」


 加藤が目を見開き、顔が急に真っ赤になる。


「お前の気持ちに甘えさせてもらおう。今夜飲みに行かないか? 愚痴らせてくれ」

「し、仕方ないですね。明日は休みだし、何時間でも聞いてあげます」


 この飲みがきっかけで、加藤との距離が急速に縮まった。

 そして付き合うことにもなった。

 加藤とはケンカすることもあるけれど、彼女の言葉が弾幕と化したことはまだ一度もない。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

楽しんでいただけましたら、★1~5の評価をいただけると大変励みになります。


■短編集

https://ncode.syosetu.com/s7701k/

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