第2章・第2話 「交わらない力」
炎と水が、ぶつかり合っていた。
赤く燃え上がる熱と押し返すような冷たい奔流。
どちらも引かず、どちらも勝たない。
ただ、壊すだけの力だった。
「……ひどいな」
蒼井ハルは、遠くからその光景を見つめていた。
「止めないと……」
カードを握る手に、力が入る。
「でも……どうやって……」
ゴウエンの声が、低く響く。
「……炎は、前に進む力だ。
だが、水は……受け止める力」
リーフが続ける。
「……互いを理解していない……」
炎のカードと水のカードは、
それぞれ別の持ち主を失い、
制御を失ったまま暴れていた。
「……合体、できないの?」
ハルの問いにしばらく沈黙が流れる。
「……できる、かもしれない」
ゴウエンはそう言ったが、
その声には、迷いがあった。
「だが……無理に重ねれば……壊れる」
次の瞬間。
炎が激しく吹き上がる。
それに呼応するように、
水が空へと跳ね上がった。
空気が、悲鳴を上げる。
「……時間がない!」
ハルは、カードを前に出した。
「やってみよう。失敗しても……」
「……ハル!」
リーフの声が、止めようとする。
それでもカードは光り始めた。
炎と水が無理やり引き寄せられる。
――だが。
バチンッ!!
強い反発。
光がはじけ飛ぶ。
ハルは思わず後ずさった。
「……っ!」
炎と水はさらに荒れ狂う。
「……ダメだ」
ゴウエンがはっきりと言った。
「これは……“合体”じゃない」
その言葉と同時に――
別の視線が、その光景を見ていた。
*
闇の中。
高い場所から町を見下ろす影があった。
「……やはり、未完成か」
黒いローブの男――
闇の魔導士は静かにつぶやく。
「属性は揃っている。だが……心が噛み合っていない」
彼の手の中には黒く濁ったカードがあった。
「合体とは……足し算ではない」
男はカードを裏返す。
そこには歪んだ円環の紋章。
「恐怖で縛れば、力は止まる」
「だが……絆で縛れば……力は暴れる」
男は、わずかに口元をゆがめた。
「……面白い」
「冥界の王が興味を持たれるわけだ」
その名が出た瞬間、周囲の闇がざわりと揺れた。
「……観測は続ける」
「彼らがどこまで“選ぶ”のか……」
影は闇に溶ける。
*
現実世界。
炎と水は互いに力を削り合い、
やがて、静かになっていった。
残ったのは焦げた地面と湿った空気。
「……止まった……」
ハルは息をついた。
勝ったわけでも解決したわけでもない。
ただ――壊れなかっただけだ。
「……合体って……簡単じゃないんだね」
リーフが、静かに答える。
「……だからこそ……意味があるんだと思う」
ゴウエンは、空を見上げた。
「……力は正しく交わらなければ……牙になる」
ハルはカードを胸に当てる。
「……だったら……ちゃんと向き合おう」
「次は……失敗しない」
その言葉が誰に届いたのか――
ハル自身にも、分からなかった。
ただ一つ確かなのは。
彼らはもう「知らないまま」では、いられないということだった。
闇はすでに―― 彼らを見ている。
――つづく。




