第4章 ― 再臨の刻 第1話「静かなる兆し」
春の風が、クロニクルアリーナの中央を静かに撫でた。
冥界の王が封印されてから、数か月。
世界は平穏を取り戻していた。
カードは相変わらず人々の手にあり、ハルたちも日常の中でデュエルを楽しんでいた。だが――あの決戦を経験した者だけが知っている。
カードはただの遊びではない。
あれは、異世界と現実を繋ぐ“器”だ。
「ハル、今日は本気でいくぞ」
向かいに立つのは、ライバルのカイト。
手には《雷刃騎士ボルト》のカード。
ハルは静かに頷き、《ゴウエン》を場に置く。
――メインカード:ゴウエン(攻撃力2)
カイトもカードを置く。
――メインカード:雷刃騎士ボルト(攻撃力2)
「武器カード、装備。《爆炎双刃》」
ゴウエンの両手に炎の刃が宿る。
攻撃力+1。ただし与えたダメージの1は自分にも返る。
「なら、俺は防具カード。《雷盾》」
ボルトの周囲に電光の盾が展開する。
防御成功時、相手に1ダメージ。
シンプルなルール。
メインカードは攻撃力1か2。
そこに武器・防具・魔法を重ねる。
だがその組み合わせが、勝負を決める。
「いくぞ、ゴウエン!」
「来い、ボルト!」
カードが弾かれるようにぶつかり合う。
炎と雷が交差する。
爆炎双刃が雷盾を裂く――が、反動がゴウエンにも走る。
互いに1ダメージ。
「やっぱり爆炎双刃は扱いが難しいな」
ハルが苦笑する。
そのときだった。
アリーナの空気が、わずかに震えた。
リーフのカードが、ハルのデッキの中で淡く光る。
「……ハル、感じないか?」
「リーフ?」
空が、ほんの一瞬だけ暗くなる。
誰も気づかないほどの変化。
だが、ハルの胸はざわついた。
封印したはずの“闇”の気配。
「まさか……冥界の王?」
いや、違う。
あの圧倒的な存在感ではない。
もっと小さい。
もっと、歪な――
遠く離れた廃ビルの屋上。
一人の少年が、黒いカードを手にしていた。
《残滓の影》
それは、冥界の王の封印の際にこぼれ落ちた“欠片”。
「……面白いな。世界を救った英雄たちか」
少年は笑う。
「なら、試してみよう。お前たちの“その後”を」
黒いカードが静かに輝く。
その光は、冥界の王ほど強くはない。
だが確実に、
世界に“新たな物語”を落とそうとしていた。
ハルは空を見上げる。
「……終わってなかったのか」
リーフの声が静かに響く。
「闇は消えない。だが、私たちも消えない」
ハルはカードを握り直す。
「なら、また戦うだけだ」
ゴウエンの炎が小さく揺れた。
第4章――
新たなる戦いの幕が、静かに上がる。




