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第3章・第6話 「神と王」

 夜だった。




 だがそれは、

 星のない夜ではない。




 空そのものが、

 ゆっくりと闇に染まっていく夜だった。




 町の灯りが、ひとつ、またひとつと消えていく。

 音が、吸い込まれる。




「……来る……」




 リーフが、かすかに震えた。




 空が、裂ける。




 黒い亀裂の奥から、

 ゆっくりと――

 巨大な影が降り立つ。




 王冠のような歪んだ闇。

 長い外套のように揺れる影。

 足元に広がる、底のない黒。




 冥界の王。




 その目が、

 静かに三人を見下ろした。




「……揃えたか……」




 声は低く、

 怒りも、嘲りもない。




 ただ、

 深い。




 ハルは、

 四枚のカードを握る。




 火。

 水。

 土。

 風。




 カードが、共鳴する。




「……あなたは……」




 ハルは、震えながらも言った。




「……異世界の闇……

 積もった想い……」




 冥界の王は、

 ゆっくりと頷く。




「……忘れられたもの……」




「……届かなかった声……」




「……支えきれなかった重み……」




「……流せなかった涙……」




「……燃やし尽くせなかった怒り……」




 その言葉に、

 四枚のカードが強く光る。




 王は、静かに続けた。




「……我は……

 否定ではない……」




「……残滓だ……」




 ゴウエンが、

 拳を握る。




「……なら……

 消える必要は……ねぇな……」




 王の目が、

 わずかに細まる。




「……消えぬ……」




「……だが……

 放てば……

 世界を喰らう……」




 闇が、広がる。




 地面が軋み、

 空気が凍る。




 ハルは、叫ばなかった。




 ただ――

 カードを、掲げる。




「……思い出して……」




 四枚が、

 空へと舞い上がる。




 炎が、

 水が、

 大地が、

 風が――




 渦を巻き、

 交差し、

 ひとつへと収束する。




 眩い光が、夜を裂く。




 それは、破壊の光ではない。




 調和の光。




 光の中から、

 巨大な存在が姿を現す。




 炎を冠し、

 水をまとい、

 大地を踏みしめ、

 風を背に受ける。




「……天界の神……」




 リーフが、静かに呟く。




 その姿は、

 圧倒的だった。




 だが、

 威圧ではない。




 包み込むような、

 存在。




 神が、王を見つめる。




「……久しいな……」




 冥界の王が、

 低く笑う。




「……封じに来たか……」




 神は、首を振る。




「……還しに来た……」




 空気が、震える。




 ハルの胸に、

 確かな理解が宿る。




 これは――

 戦いではない。




 儀式だ。




 冥界の王が、

 両手を広げる。




 闇が、

 町を包もうとする。




 だが同時に、

 神の光が、

 四方へと広がる。




 炎が、

 怒りを温もりへ。




 水が、

 悲しみを流れへ。




 土が、

 重みを支え合いへ。




 風が、

 沈黙を言葉へ。




 闇が、

 揺れる。




 王の姿が、

 わずかに歪む。




「……我は……

 消えぬ……」




「……忘れれば……

 再び……生まれる……」




 ハルは、

 静かに答えた。




「……忘れない……」




「……封じるだけ……」




「……一緒に……

 異世界へ……」




 その言葉に、

 リーフがうなずく。




「……永久封印……」




「……共に在る……

 封印……」




 神の光が、

 王を包む。




 闇は、

 抵抗しない。




 ただ、

 静かに言った。




「……次は……

 頼む……」




 その瞬間。




 空に、巨大な紋章が浮かぶ。




 異世界へと続く門が、

 開く。




 光と闇が、

 ゆっくりと吸い込まれていく。




 最後に残ったのは――

 一枚の、黒いカード。




 だがそれは、

 冷たい闇ではない。




 静かな深みを宿したカード。




 ハルは、それを手に取る。




 重い。




 だが、

 拒絶ではない。




 空が、

 元の色を取り戻す。




 町の灯りが、戻る。




 リーフが、

 小さく息を吐いた。




「……終わった……?」




 ハルは、

 首を振る。




「……違う……」




「……始まったんだ……」




 ゴウエンが、笑う。




「……ああ……」




「……これからは……

 忘れねぇ世界だ……」




 四属性のカードと、

 闇のカード。




 それらは、

 失われなかった。




 力は、

 残る。




 だが――

 もう暴走はしない。




 それは、

 共に在る力だからだ。




 夜空に、

 一筋の流星が走る。




 それは、

 戦いの終わりではない。




 新しい年代記の始まりだった。




 ――つづく。

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