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第3章・第5話 「届かなかった声」

 風が、荒れていた。




 強いわけではない。

 速いわけでもない。




 ただ――

 散らばっている。




 ビルの間を吹き抜ける風は、

 ぶつかり、渦を巻き、

 行き先を失っていた。




「……息苦しい……」




 ハルは、思わず胸に手を当てた。




「……風が……

 迷ってる……」




 リーフの声は、

 どこか切なかった。




「……伝えたかった……

 言葉が……

 残ってる……」




 ゴウエンが、

 風の流れを睨む。




「……風は……

 速さじゃねぇ……」




「……繋ぐ力だ……」




 次の瞬間。




 突風が、

 三人の間を引き裂くように吹いた。




「……っ!」




 ハルの足元が、

 ふらつく。




 その中央に――

 半透明の人影が現れた。




 輪郭は、

 風に溶けている。




「……言えなかった……」




 声は、

 あまりにも弱い。




「……言葉にしたら……

 壊れると思った……」




「……だから……

 飲み込んだ……」




 風が、

 荒れる。




 ビルの窓が、

 震える。




「……誰に……

 言えなかったの……?」




 ハルが、

 必死に問いかける。




 人影は、

 一瞬だけ形を保つ。




「……大切な人……」




「……守りたかった……」




「……でも……

 伝えなかった……」




 その瞬間。




 風が、

 鋭く裂ける。




「……それで……

 全部……

 離れていった……」




 ハルの胸が、

 痛んだ。




(……この風……

 責めてるんじゃない……)




(……後悔してる……)




 リーフが、

 静かに言った。




「……風は……

 叫ぶ力じゃない……」




「……そっと……

 運ぶ……」




 ゴウエンが、

 低く続ける。




「……伝えるのは……

 勇気だ……」




「……黙るのも……

 勇気だ……」




「……だが……

 想いは……

 閉じ込めると……

 腐る……」




 ハルは、

 深く息を吸った。




 そして――

 叫ばなかった。




 ただ、

 はっきりと言った。




「……今からでも……

 遅くない……」




「……届かなくても……

 流せばいい……」




 カードが、

 淡い緑の光を放つ。




 それは、

 切り裂く光ではない。




 解き放つ光。




 風が、

 一方向へと流れ始めた。




 乱れていた風が、

 道を見つける。




 人影の口が、

 わずかに動く。




「……ありがとう……」




「……やっと……

 言える……」




 その言葉とともに、

 風は――

 優しく吹き抜けた。




 強くも、

 速くもない。




 け_toggleれど――

 確かに、

 届く風。




 人影は、

 そのまま溶け、

 一枚のカードへと収束する。




 軽く、

 澄んだカード。




 リーフが、

 静かに告げた。




「……天界の神……

 “風巡る語り部”……」




「……想いを……

 未来へ……

 運ぶ存在……」




 ハルは、

 カードを手に取る。




 驚くほど、

 軽い。




「……風は……

 速くなくて……

 よかったんだ……」




「……ちゃんと……

 届けば……」




 ゴウエンが、

 空を仰ぐ。




「……揃ったな……」




 火。

 水。

 土。

 風。




 四枚のカードが、

 共鳴するように、

 静かに震えた。




 遠くで、

 低い音が響く。




 ――闇が、

 動いた。




 リーフが、

 ゆっくりと告げる。




「……冥界の王も……」




「……呼ばれてる……」




 ハルは、

 カードを胸に抱いた。




「……倒すためじゃない……」




「……封じるため……」




「……忘れないため……」




 風が、

 三人の背中を押す。




 それは、

 戦いへ向かう風ではなかった。




 向き合うための風だった。




 天界の神は、

 完全な姿を思い出した。




 次に待つのは――

 冥界の王との、

 最後の対話。




 ――つづく。

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