第3章・第4話 「動かない大地」
その場所は、
崩れていなかった。
ひび割れもなく、
倒壊した建物もない。
それなのに――
町全体が、
止まっていた。
「……誰も……
動いてない……」
ハルは、
広場に立ち尽くした。
人々は立ったまま、
座ったまま、
まるで時間が止まったかのように
その場に留まっている。
眠っているわけではない。
石になったわけでもない。
ただ――
動こうとしていない。
「……土の属性反応……」
リーフの声は、
重たく沈んでいた。
「……守りすぎてる……」
ゴウエンが、
地面を踏みしめる。
「……土は……
支える力だ……」
「……だが……
支え続けると……
重くなる……」
ハルは、
一人の大人の前に立った。
目は開いている。
呼吸もしている。
それでも――
視線が、
どこにも向いていない。
「……大丈夫ですか……?」
問いかけても、
返事はない。
代わりに、
地面が、答えた。
ごご……
低い音が、
地の底から響く。
広場の中央が、
盛り上がる。
土と石が、
ゆっくりと組み合わさり、
巨人の形を作っていく。
「……もう……
支えられない……」
声は、
岩が擦れるように低い。
「……倒れたら……
全部……壊れる……」
ハルは、
息をのんだ。
(……この大地……
怖がってる……)
(……自分が……
崩れることを……)
「……違う……!」
ハルは、
一歩前に出た。
「……倒れたら……
終わりじゃない……」
「……支え続けなくても……
いいんだ……!」
土の巨人が、
ぎしりと軋む。
「……放したら……
誰かが……
傷つく……」
リーフが、
静かに言った。
「……土は……
守るだけじゃない……」
「……立ち上がる……
場所を……
作る……」
ゴウエンが、
低く続ける。
「……全部を……
背負うな……」
「……任せろ……」
ハルのカードが、
茶色に、
やさしく光る。
それは、
押し返す光ではない。
受け渡す光だった。
地面に、
小さな揺れが走る。
止まっていた人々が、
一人、
また一人と――
視線を動かす。
「……あ……?」
「……動いて……
いい……?」
その声に、
土の巨人が、
大きく震えた。
「……支えなくても……
いい……?」
ハルは、
はっきりとうなずく。
「……一緒に……
立てばいい……」
次の瞬間。
巨人の体が、
崩れ落ちる。
だが――
倒壊ではない。
石と土は、
地面へと戻り、
しっかりとした大地を作り直した。
人々は、
自分の足で立っていた。
「……軽い……」
誰かが、
呟く。
地面が、
深く、
安定した呼吸をする。
そして――
一枚のカードが、
ゆっくりと浮かび上がった。
重厚で、
温かい色のカード。
リーフが、
静かに告げる。
「……天界の神……
“大地の継承者”……」
「……支えを……
分け合う……
存在……」
ハルは、
カードを手に取る。
ずっしりと重い。
だが――
嫌な重さではない。
「……土は……
全部を……
抱え込まなくて……
よかったんだ……」
ゴウエンが、
小さく笑う。
「……ああ……」
「……一人で……
世界を……
背負う必要は……
ねぇ……」
そのとき。
風が、
強く吹いた。
まっすぐではない。
乱れた風。
何かを、
伝えきれずにいる
風だった。
ハルは、
空を見上げる。
「……次は……
風……」
四つのうち、
三つが戻った。
残る一つ。
それが揃ったとき――
天界の神は、
完全な姿を思い出す。
そして、
冥界の王と向き合う
準備が、整う。
大地は、
もう動かない力ではなかった。
立ち上がるための場所として、
静かに、
そこにあった。
――つづく。




