第2章・最終話 「絆の名を呼ぶ」
夜明け前。
町は静まり返っていた。
いや――
静かすぎた。
色を失った場所が、
確実に増えている。
街灯の光は点いているのに、
影が、薄い。
「……ここも……」
ハルは、
色の抜けたアスファルトを見つめた。
「……戻ってない……」
リーフの声は、
これまでで一番弱々しかった。
「……世界が……
“慣れ始めてる”……」
ゴウエンが、
拳を強く握る。
「……最悪だ……
侵食を……
受け入れ始めてやがる……」
ハルは、
カードを見下ろした。
光らない。
反応しない。
(……このままじゃ……
次に来たら……
何も……)
そのとき。
空気が、
ゆっくりと歪んだ。
町の中心。
あの場所。
影が、
“立ち上がる”。
「……来た……」
そこにいたのは、
闇の魔導士――だったはずの存在。
だが、
もはや“人の形”ではない。
影が、
無理やり形を保っているだけだった。
『……時間は……
与えた……』
冥界の王の声が、
はっきりと響く。
『……選べ……』
『……抗うか……
溶けるか……』
ハルの足が、
すくむ。
(……また……
負ける……)
その恐怖が、
胸を締めつける。
そのとき。
「……ハル……」
リーフの声が、
いつもより、近かった。
「……思い出して……」
「……最初に……
契約したとき……」
ハルの脳裏に、
あの日の光景がよみがえる。
――カードを握った手。
――怖くて、震えていた自分。
――それでも、
差し出された小さな手。
「……強さじゃ……
なかった……」
リーフは、
はっきりと言った。
「……一緒に……
“壊れる覚悟”を……
選んだ……」
ゴウエンが、
低くうなずく。
「……合体は……
力を足すことじゃねぇ……」
「……背負うことだ……」
冥界の王の影が、
揺らぐ。
『……無意味だ……』
『……絆など……
脆い……』
『……壊れれば……
終わる……』
ハルは、
ゆっくりと顔を上げた。
「……壊れても……」
「……終わらせない……」
カードを、
胸に当てる。
光が、
小さく灯る。
「……勝つためじゃない……」
「……奪い返すためでもない……」
「……一緒に……
立つためだ……!」
リーフのカードが、
強く震えた。
ゴウエンの炎が、
静かに灯る。
三つの想いが、
重なり――
交わる。
派手な爆発は、ない。
だが、
確かな光が生まれた。
影の中から、
叫び声が響く。
「……やめろ……!」
それは、
冥界の王の声ではなかった。
闇の魔導士――
人だった者の声。
「……私は……
まだ……!」
影が、
大きく揺れる。
冥界の王の声が、
歪む。
『……切り離す……
だと……?』
「……倒さない……」
ハルは、
叫ぶ。
「……縛る……
そして……
繋ぎ直す……!」
光が、
影の“中心”を貫いた。
影は、
悲鳴を上げるように
空へと引き裂かれる。
完全ではない。
だが――
分断された。
影の大半は、
裂け目の向こうへ引きずられ、
残されたのは、
倒れ伏す一人の男だった。
空が、
静かに閉じる。
色は――
少しだけ、戻った。
ハルは、
膝をつく。
息が、苦しい。
「……終わった……?」
リーフは、
首を振った。
「……いいえ……」
「……始まった……」
ゴウエンが、
遠くを見る。
「……王は……
退いただけだ……」
「……次は……
完全な形で……
来る……」
ハルは、
男――闇の魔導士を見た。
まだ、
生きている。
「……救えた……?」
その問いに、
答えはなかった。
だが。
カードは、
まだ、
温かかった。
ハルは、
立ち上がる。
「……次は……
逃げない……」
空に、
かすかな光が差す。
夜が、
終わりを告げていた。
――第2章、完。




