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第2章・第3話 「光に落ちる影」

 その町は、異様なほど静かだった。




 音がないわけではない。

 車も走っているし、人も歩いている。




 ただ――

 影が、薄い。




「……なんか、変だな」




 蒼井ハルは、立ち止まって周囲を見回した。




 空は明るい。

 雲ひとつない。




 それなのに、

 光が、重い。




「……光が、強すぎる」




 リーフの声は、低く沈んでいた。




「……まぶしいのに……

 あたたかくない……」




 ゴウエンが、舌打ちする。




「……嫌な感じだ。

 これは……

 “燃える”光じゃねぇ」




 そのとき。




 広場の中央で、

 ひとりの男が立ち止まった。




 黒いローブ。

 だが、その周囲には

 淡い白光が、ゆらゆらと漂っている。




「……あいつ……」




 ハルが、息をのむ。




 男は、ゆっくりと振り返った。




「……来たか」




 その声は、

 前に会った闇の魔導士と同じだった。




 ――だが。




「……光って……

 闇の魔導士、だよね?」




 ハルの言葉に、

 男は小さく笑った。




「闇と光は、対ではない」




「……同じものだ」




 男の手に、

 二枚のカードが現れる。




 一枚は、純白。

 一枚は、底の見えない黒。




「恐怖は、闇から生まれる」




「だが……

 安心は、光から生まれる」




「どちらも……

 人の心を、縛る」




 次の瞬間。




 白と黒が、重なった。




 光が、爆ぜる。




 ――まぶしさに、目を閉じた一瞬。




 空気が、変わった。




「……っ!」




 ハルは、息が詰まるのを感じた。




 体が、動かない。




「……カードが……

 出せない……」




 リーフの声が、かすれる。




「……装備も……

 魔法も……」




 ゴウエンが、歯を食いしばる。




「……縛られてる……

 だが……

 恐怖じゃねぇ……」




 男は、静かに歩み寄る。




「これは……

 恐怖の闇ではない」




「選択の光だ」




「安心を選べ。

 動くな。

 考えるな」




「……そうすれば……

 壊れずに済む」




 ハルの胸に、

 重たいものが落ちる。




(……動かなければ……

 何も……起きない……?)




 一瞬、

 そう思ってしまった。




 そのとき。




「……ハル」




 リーフの声が、

 震えながらも、はっきりと響く。




「……それは……

 “生きてる”って……

 言わない……」




 ハルは、はっと顔を上げた。




 男の目が、わずかに揺れる。




「……まだ……

 聞こえるのか」




 その瞬間。




 男の影が、歪んだ。




 別の声が、

 重なって響く。




『……足りない……』




 低く、冷たい声。




『……まだ……

 この器では……』




 男は、頭を押さえ、

 苦しそうに息を吐く。




「……黙れ……!」




『……耐えろ……』




『……おまえは……

 “通路”だ……』




 空気が、凍りつく。




 ゴウエンが、低くうなる。




「……来てやがる……

 冥界の……」




「……王……」




 男は、ゆっくりと顔を上げた。




 その瞳には、

 闇でも、光でもない――

 深い空洞があった。




「……今日は……

 ここまでだ」




 白と黒の光が、

 一気に収束する。




 次の瞬間、

 男の姿は消えていた。




 縛りが、解ける。




 ハルは、膝をついた。




「……今の……

 なに……」




 リーフは、答えなかった。




 ゴウエンが、静かに言う。




「……あれは……

 敵じゃねぇ……」




「……前兆だ」




 ハルは、カードを見つめる。




「……世界が……

 壊れに来てる……?」




 風が、吹いた。




 光は、まだ強いまま。




 影は、

 戻っていなかった。




 ――闇は、

 もう“隠れて”いない。




 選ばせるために、

 そこに立っている。




 ――つづく。

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