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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

友人以上恋人未満の曖昧な彼らの日常

雨の日に猫のように気だくなる彼は愛されている





俺は雨の日にだるくなる。

物心ついたときからずっとで、高校生になった今でも悩みの種。

今日は朝からずっと小雨が降りつづけ、なんとか日中は踏んばって授業を受けたものを、放課後になってバッテリー切れ。

「あー辛そうだな、だいじょうぶか?」と呼びかけた友人に「うん・・・すこし休んだら帰るから」と机に突っ伏したまま応じる。

この体質についても、気だるげモードのとき人にかまわれるのが、いやなのも知っているだけに「なにかあってから連絡してくれ」と告げて部活へいったよう。

その足音が聞こえなくなると、教室にだれもいないとあり、一人、学校にとりのこされたような気分に。

いつも外で活動する運動部が、校内でランニングしたりトレーニングしている声や物音がかすかに聞こえるとはいえ、広いグラウンドに打ちつける無数の水滴、それらが合唱する、ささやかな轟音に包まれているような。


雨の日は指の先を動かすのも億劫なほど体がだるく、頭に重石が乗っかっているようで意識が混濁するとはいえ、夕方近くの薄暗い教室に一人でいるのは、きらいでない。

町から離れて車などの騒音がしないから雨音が鮮明に聞こえるし、すこし開けた窓から流れこむ空気は湿っぽいというより瑞々しく、校舎がコンクリートづくりとあって、壁や床が汗ばんで校内全体がしっとりとして、静謐な雰囲気を醸してる。

独特の寂しげで凛とした静けさを味わえるのは、体のだるさと憂鬱さがあってこそと思えば、この体質も憎めなくなる。

呼吸をしながら静かに溺れている錯覚をすることがあり、それは心地いいほど。


なんて、やや自分に酔いながら、閑寂とした雨の日の放課後を過ごしていたら「あれ?東谷、どーしたー?」と呑気そうな声が。

「げ」と思いつつ、目だけあげれば、教育実習生の近藤先生がドアから顔を覗かせている。

日ごろ避けて、まとも口を利いたことがないから気まずくて「いや、もうすこししたら帰ります」と応じるも「いやいや、でも顔色わるすぎだろ」と教室にはいってきてしまい。

世話を焼かれると面倒なので、近くにきたところで自分の体質について伝え「もう慣れたことなので」としかたなく愛想笑いを浮かべるも「へー猫みたいだな!」となぜかはしゃいで、前の席に座りやがった。

この体質を教えると、たいてい「へー」と反応が淡白で、たまに「どういうキャラづけ?」と鼻で笑われるなど、いい印象を持たれないのが、「猫のよう」と前向きに(?)とらえてもらったのは、はじめて。

すこし見直したとはいえ、雨に体調を狂わされるような陰気な俺は、太陽のもと胸を張って歩くような近藤先生が苦手だ。


今時の若者らしく、清潔感のあるけっこうな男前で、女子人気がありつつ、あけっぴろげで下ネタも大歓迎とばかり気さくだから男子の受けもいい。

雨が降らなくても、ふだんから大人しく地味な俺にとっては眩しすぎる存在で「はやく実習期間、終わらないかな」と思っていただけに、二人きりになって居たたまれないやら、逃げだしたいやら。

近藤先生が猫発言をして、しばし沈黙になり「ただでさえ、だるくて頭が回らないのに、なにを話せっていうんだあああ!」と焦っていたところ、ふと頭を撫でられてぎょっとする。

「これだからコミュ力チート野郎はああ!」と怒りが湧くも、どう反応したらいいか分からず、まごついているうちに「お前、猫っ毛だなあ」とまさに猫を撫でるような手つきで髪を梳かすものだから。

「快・感・っ♡」とまでいかずとも、抵抗感や嫌悪感はなく、髪を梳かされるたび「雨の日の一人の時間を邪魔された!」との不満がうすれていく。

スキンシップは好きでないが「そういえば、美容師に頭を触ってもらうのは好きだしなあ・・」とうっとりしかけるも「体がだるいって、女子の月経みたいなもの?」との悪気がなさそうな質問で台なしに。


それから雨の日、放課後に教室で一人でいると、必ず近藤先生が顔をだした。

はじめは鬱陶しかったし、気詰まりしたが、俺が話さなくても鼻唄を吹いて気にしていないようだったし、髪を梳いていればご機嫌だったし、お口をチャックして雨の日の静けさを乱さなかったから「まあいいか」とそのうち諦めて、させるがままに。

雨の日の放課後以外は相かわらず疎遠で「この関係性はなんだ?」と胸がそわそわすることもあるとはいえ、答えをだすと厄介そうなので深くは考えず。

教室で近藤先生が生徒に囲まれて仲むつまじくしていても、べつに嫉妬したなかったものの、その日、気になる言葉が耳にとびこんできた。


「先生!二組の鮫島さんに告白されたってまじ!?」


鮫島さんとは学校一の美人と持て囃される女子生徒。

「ええー!」と女子が不服そうに声をあげ「おおお!」と男子が鼻息荒く吠えるのに「ばーかっ!」と近藤先生はからからと笑いとばす。


「ほんとうに告白されたら、即、教育実習をやめるっつーの!

あんな女神のような子と交際できるチャンスなんて人生でそうそうないんだから、教師になるのを諦めてでも、ゲットするだろ!?」


喚きたてていた生徒は「それもそっか」と納得したようで「それよりお前たち、期末テスト近いけど、だいじょうぶかー!」とすかさず近藤先生が話を変えると、とたんに悲鳴をあげたもので。

なんてことない、いつものにぎやかしい光景だったのが、どうにも悶々とさせられる。

湧きかけた感情に「いや、考えるな」と蓋をするも、胸のくすぶりは消えないまま。

午後から雲行きが怪しくなり、天気予報が外れての予期せぬ雨が降ってきたことで、いつも以上にぐったりしてたせいもあるのだろう。

毎度のことながら、教室に訪れた近藤先生が「やっぱ不意打ちの雨はきつい?」と心配そうに声をかけ、頭を撫でようとした手をつい叩いてしまった。

自分でも驚きつつ、相手が口を開く前に「もし、俺のことばれたら」と口走る。


「鮫島さんのように嘘をつくんですか。

だったら、もう触らないでください」


教室でみんなに騒ぎたてられていたとおり、ほんとうに近藤先生は鮫島さんに告白されていた。

「くるのが遅いな」と魔が差して、探しにいった俺がそれを目撃してしまったわけで。

だからといってどうして、あのとき拒絶したのか我ながら不可解だ。

自分から突き放したくせに、あのあとも雨の日の放課後には、近藤先生のことを思いだしてしまう。

手を振りはらったのを後悔しているのか。

今、顔をあげても「ん?」とほほ笑ましそうに見つめる近藤先生はいない。

電気の点いていない、薄暗い教室で一人、雨音のささやかな轟音を聞くとも聞きながら、近藤先生と無言で向きあっている感覚に陥り、虚空を見つめつづける。

薄く口を開けたとき、メッセージの通知音が。

差出人は近藤先生、もとい近藤さんで「今から迎えにいくよー」と。


あの日、俺が手を弾いた日、近藤先生はそのまま引きさがり、一言もなく、挨拶もなく去っていった。

「もう雨の日の放課後にはこないだろうな」と虚しくなったものだが、翌日、急に近藤先生は教育実習をやめた。

もちろん放課後の来訪もなかったとはいえ、傘を差して、ふらつきながらの帰り道「なー連絡先、教えてっ」と待ち伏せをされたもので。

以降、雨の日には学校の近くまで車で迎えにきてくれ、大学卒業後は教師にならず、これまた学校近くの会社に就職して、雨の日はやっぱりお迎えと、名のつけようがない奇妙きてれつな、つきあいをつづけている。


今日も今日とてコンビニで待っていてくれ、肉まんを二つ買ったなら車のドアを開け、手を差しだして「さあお嬢様」とばかり。

無視して乗りこんでも気にせず、運転席に座って鼻唄を吹き、相かわらずご機嫌。

雨の日、俺に迎えにくるだけで浮かれているのを見て、なんだか恥ずかしくなり「ほんと、猫が好きなんですね」となぜか弁解するように呟いてしまう。

どうして、こうなったのか、言い訳をするべきは近藤さんのほうだというのに。

拗ねたように、そっぽを向くのに、くすぐったそうに笑った近藤さんは「俺、猫アレルギーだからー」と答えになっているような、ないような返事をして、いつものように俺の頭をくしゃりと撫でた。






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