貴族と従者
午後の営業。
明るく暖かい太陽光に照らされる店。
心地良い時間だ、カウンターにいると眠くなる。
お客の軽快な足音に起こされた。
「いらっしゃいませ」
眠気など感じさせない声かけと営業スマイル。
これはこれは――
可愛らしいお客さんが来た。
二人の少年。
最近来るようになった少年貴族と小姓だ。私は少年従者と呼んでいる。
関係を知らなければ貴族二人に見えるほど。
二人が着ている服は同じようなものだ。
少年貴族と少年従者
左の少年貴族から服装チェック。
胸飾りのジャボ。ひらひらは控えめでシンプル。
見えないがホワイトシャツ (ワイシャツ、シャツ)。
アビ (金糸刺繍で装飾された黒いコート)とセットのウエストコート。
ブリーチズ (太ももは膨らみ膝で絞ったズボン)。
ロングブーツ。ブーツには飾りバックル。
アイテムはステッキ。
持ち手 (ハンドル、グリップ)には種類がある。
1、少年貴族の球状の持ち手はノブハンドル 、ポンメルハンドル、握り玉。ノブ型、丸ステッキという。
2、傘の柄のようなクルックハンドル 、フックハンドル 、大曲り。曲がりステッキ。
3、鳥のクチバシのようなダービーハンドル 。L字ステッキ。
4、歪んだT字のようなクラッチハンドル 。T字ステッキ。
5、動物の頭を模したアニマルヘッドハンドル 。アニマルステッキ。
金属のハンドルは武器になることもある。ハンドルが柄で剣身がありシャフト (支柱、棒の部分)が鞘になっていることもある。仕込み杖、ソードステッキ (ソードスティック、ソードケイン)という。少年貴族に持たせるのは危ないだろう。
説明を省いた簡単な名前は余所行き、外出着。
右の少年従者の服装チェック。
主人との一番の違いはコート。アビと形状は同じだが装飾のない地味なこれはフロックコート。
ジャボ。主人と同じシンプル。
シャツ (ホワイトシャツ、襟つきシャツ)。
ウエストコート。
ブリーチズ。
ロングブーツ、飾りバックル。
説明を省いた簡単な名前はペイジ服。
小姓はペイジボーイともいい貴族や騎士に仕える少年のことで少年自身も貴族や身分のある家柄の息子だったりする。ペイジ服もそれなりの仕立てだ。
少年の他にも主人に仕える男性は沢山おり服装も種類がある。
1、従者 (ヴァレット)。主人の身の回りの世話をする。
着るものは私服 (自分で用意するか主人が用意する。主人のおさがりを貰うこともある)。主人と行動を共にするので同じように場に合わせた服装をするが主人より格式の低い(色を地味にしたり装飾なしなど目立たない)服装をする。
少年従者が地味な感じなのはそういう理由のため。
2、従僕 (フットマン)。屋敷内の仕事をする。給仕、接客、雑用など。
着るものは制服 (リヴァリー、リバリー)。
従僕では聞こえが悪く従僕服では語呂が悪いのでこちらも従者、従者服、使用人、使用人服などという。
貴族や身分の高い小姓以外の平民の少年使用人はボーイといい、こちらの仕事をして制服を着る。
4、専門職。料理人、家庭教師、助手や補佐 (主人の仕事関係者)、御者、馬丁 (馬の世話役)、庭師、門番、獣舎番(動物の世話役)など。
着るものは制服か仕事に合わせた服装。
3、執事 (バトラー) 使用人のトップ。従者の仕事を兼任していたりする。
着るものは制服か私服 (燕尾服のような正装)。
4、家令 (スチュワード) 使用人と屋敷全体の管理をする。こちらも執事が兼任していたりする。
着るものは私服。主人より地味だが家の格式や権威を示す服装か執事と同じ燕尾服など正装。
「ちょっと、見せてもらうよ」
少年貴族は大人びた口調で言った。
以前一緒に来ていた父上の真似だ、可愛い。
いや、ちゃんとした服装でお供まで連れてきているのだ。
一人の客としてしっかり対応しよう。
「ごゆっくりどうぞ」
営業スマイルとともに片手で店内を示す。
少年貴族は少年従者を連れて貴族服コーナーに向かった。
鎧や子供服コーナーも見て回っている。
子供服は次々試着している。
試着中の少年従者1
襟なし、ノーカラーコートになった。
ジャボのひらひらをしまったかクラバット。
シャツ、ウエストコート、ブリーチズ、アンクルストラップ付き折り返しロングブーツ。
帽子 (キャップ)はベレー帽、縁取りのあるのはパイピングベレー 。似た形状でもう少ししっかり被るものにロールキャップがある。
こちらも主人より目立たない服装になっている。
試着中の少年従者2
制服 (リヴァリー)を着ている。
シャツ、ジャボと赤いビジューブローチ、コート、ウエストコート、ブリーチズ、ホーズ (靴下)、ローファー (靴)、見えにくいがローファーのサドル (帯状のパーツ)に赤い装飾。
制帽や手袋を着用することもある。
見た目は主人の服装に似ている豪華さ。家の格式と富を示すためであり給仕や接客する使用人や御者や門番など人目につく者が着る。
制服の色には家の紋章色 (紋章に使われている色)が使われる。こちらだと赤と青。制服には紋章があったりもする。
試着中の少年従者3
普段着のような制服になった。
シャツ、ベスト、ブリーチズ (破れやすい膝に補強布 、当て布を縫い付けている。継ぎ当てという)、ホーズ、ワーキングブーツ (ワークブーツ、作業用のブーツ)。
こちらは下働き、雑用、庭師、馬丁、獣舎番など見た目より動きやすさが必要な者が着る。
ツールベルト (作業道具を入れるバッグ付きベルト)やグローブなど仕事に必要な装備をすることもある。
庭師や獣舎番などでも責任者のような上の立場の者は2の制服を着ることもある。
1、2、3、説明を省いた簡単な名前はペイジ服、従者服、使用人服、制服 (リヴァリー)、仕事服、作業着。
お城やお屋敷で働く人の服も色々あるものだ。
試着中の少年従者4
騎士に仕える小姓 (ペイジナイト、Page Knight)
のペイジ服を着ている。
ハイネックのチュニック。ネック部分は稽古時に首を守るためゴルゲット (鎧の首)の形状をしており厚手の生地でできていたりする。
袖の腕部分に騎士の紋章がある。このように騎士の小姓のペイジ服にはどこかにどの騎士に仕えているかを示すための紋章がある。
ベスト、ベスト型のギャンベゾン (防具)。
ウエストバッグ付きベルト。
ズボン、ロングブーツ。
こちらは日常で着る普段着、稽古着。鎧 (チェーンメイルやギャンベゾンなど軽装備、場合によっては鎧)を着たり正装 (騎士の服装に合わせてサーコートや軍服など)をすることもある。
今日は少年従者のために服を買いに来たのだろうか?
感想と補足です。
小姓のほうが正確な呼び方ですが少年貴族と並べたときにわかりやすく字面がいいので少年従者としています。
城や屋敷で働く人の服は思っていたより色々ありまして全ては紹介できていません。
ノーカラーコートは中世のコートで十八世紀くらいから襟がつきます。アビ (装飾された貴族のコート)も襟なしと襟あり (立襟やラペル)があります。
ペイジ服はシャツとサスペンダーとハーフパンツのラフなものや式典用の正装などもあります。
ペイジ服は全ての少年使用人が着るものではないとは調べて知りました。創作物だとほとんど少年使用人の服はペイジ服と表現されるそうでボーイとの使い分けはあまりはっきりされてないようです。
ファンタジーでは拾った少年を従者にしたりしますから、ペイジボーイにしてペイジ服を着せるかボーイにして制服を着せるかは主人次第ですね。
貴族や身分のある家の息子がペイジボーイになる理由は行儀作法や勉強のため、将来の進路のため、上位貴族に仕えることで家同士の繋がりを強めるためなど。
ペイジになってからの主な流れです。
◆ペイジ 、小姓 7才〜14才 主人の身の回りの世話をしながら行儀見習い、教養を身につける、乗馬、狩猟、剣の稽古や騎士道を学ぶ。
◆スクワイア (エスクワイア)、従士、従騎士 14才〜20才 主人の身の回りの世話をしながら行儀見習い、教養を身につける、乗馬、狩猟、剣の稽古や騎士道を学ぶ。
服装はペイジとあまり変わらない。制服、普段着、稽古着、戦闘服はチェーンメイルやギャンベゾンなど軽装備 (例外的に鎧もある) 、銀の拍車 (スパー。ブーツの踵につける馬を加速させる馬具)を従騎士の証として乗馬のときや儀礼の場でつける。
◆20才〜ナイト、騎士になる。騎士の証として金の拍車をつける。ファンタジーでは拍車は別のアイテムや色分けになっていたりします。
騎士にならず別の職業につくこともあります。城や屋敷に仕える役人、専門職、商人、聖職者、長男の場合は家に帰り家を継ぐなど色々な道に進みます。
使用人の男性は下働き→従僕→執事とクラスチェンジしていくそうです。クラスチェンジするには働きぶりや教養や主人からの信頼が必要とされます。
家令は財産管理や主人の代理人など務めるので最も信頼されている者がなります。最初から身分のある者がなったりもするそうです。ハウススチュワード (屋内担当)とランドスチュワード(屋外、領地管理担当)と分かれていたりします。
誰がなるかはお家の事情で色々あるようです。
ファンタジーでは家令も従者も執事がまとめて兼任していたりしますね。優秀すぎるからですね。
専門職はファンタジーだと獣舎番はドラゴンやモンスターの世話とかもありますね。
他にも魔法書が沢山あると図書館司書のような図書番や魔法の専門家や研究員など色々な人が働いていますね。
服装も仕事に合わせた鎧やローブなどの制服や私服のようです。
城や屋敷で働く女性についてです。
女性従者は侍女、メイド。
貴族の既婚女性はレディ•イン •ウェイティング、貴族の未婚女性はメイド•オブ•オナー。外出時の同行、礼儀作法の指導、ドレスや宝飾品の管理などを担当。
没落貴族の令嬢や平民やメイドからクラスチェンジした女性はレディーズメイド。身の回りの世話、メイクアップやドレスアップを担当。ファッションやメイクの知識と技術がある人がなるそうです。没落貴族令嬢のような特殊な事情の場合は少年従者のように行儀見習いのようです。
着るものは私服。主人より目立たないが格式のある美しい服装。主人からおさがりのドレスなど。レディーズメイドはメイド服のこともあります。
従僕はこちらも侍女といったりメイド (ハウスメイド)、小間使い、使用人など。
着るものは制服。メイド服、仕事に合わせた服装。
下働き。
着るものは制服。メイド服、仕事に合わせた服装。
メイド長、ヘッドハウスメイド、ハウスキーパー。
使用人女性のトップ 。
着るものは制服か私服。私服は黒系の目立たないが威厳のある服装。鍵束をシャトレーンで腰に携帯していたりします。
城や屋敷には沢山の人がいて役職や階級や服装などややこしいですね。
使用人の服装紹介が思ったより長くなりました。
主人の服装ももう少し紹介しますので次ページに続きます。




