貴族街に出店はまだ早い? ギルドバディの、お茶の服装
ギルドの集会も終わりそれぞれ帰っていく。
私は今日は休みだから、どうしようかな。
「マスターは、この後どうしますか?」
「俺は店に戻るが」
「それなら、私もご一緒していいでしょうか? 服の勉強のために」
マスターの店を見学だ。
「私の店にも貴族のお客が来るようになりましたし、マスターの店の品揃えを参考にさせてください」
「いいだろう、一緒に行こう」
よかった! マスターと共に店に行こう。
「ユルクは向上心があるな。いずれは貴族街にも店を出したいか?」
マスターには気づかれていたか。
「はい、出来れば」
私の店が貴族街に……フククッ
「あっ、ですが、それはマスターの店を超えたいとか潰したいとかではなくて純粋に店をブランド展開したいみたいなことで!」
マスターは凄い。
超えなきゃという思いもあるが、ライバルとかにはなりたくない。今まで通り平和な関係でいきたい。
服飾ギルドのメンバーとしても必要なことだ。
「わかっている」
マスターはフッと面白そうに笑った。
余裕を超えたゾッとさせる "実力" を感じさせる笑いだ。
もしも、マスターの店を潰そうとしたら私の店のほうが叩き潰されるんだろうな。
そう思わせる、強者なんだ、マスターは。
私では敵わない、まだ貴族街に店を出すのも早いさ。
「大胆なことを言ってしまいました。まだ駆け出しの町の服屋が」
「いや、俺はユルクの大胆さや野心を良いと思っているし期待している」
マスター……嘘偽りない笑みを見せている。
「俺も、裏路地の古着屋で下積みを始めた身。それから仕立て屋に弟子入して "成り上がりたい" という思いだけでここまで来たようなものだからな」
「マスターが裏路地の店に? 想像できません」
「カッコつけたところばかり見せるようにしているからな」
マスターは屈託なく笑った。
貴族街やギルドで見せる完璧な姿とは別の親しみやすいところがあるのは、やはり成り上がろうとした時代があったからなんだ。
尊敬と共に親愛の気持ちが湧いてくるな。
そんな私の眼差しに気づいて、マスターも真摯な眼差しをくれた。
「ユルクも願い通り店を展開できるように、応援したいと思っている」
「ありがとうございます」
「いずれ、貴族街に共に店を並べられるといいな」
「はい!」
私達は親しみと信頼のスマイルを交わした。
「よし、そうとなれば好きなだけ店を見ていってくれ。店員としても客としても」
「はい! 」
店を目指して貴族街を進もう。
辿り着く前に知り合いがいた。
宝飾ギルドマスターとメンバーのフィオールさんだ。
「あら、服飾ギルドの服屋コンビじゃございませんこと」
「お二人とも、ごきげんよう」
二人も気がついて高笑いと微笑みをくれた。
「マスタージュエラー、フィオールさん、ごきげんよう」
「ごきげんよう、お二人共」
私達も親しみを込めた営業スマイルを返そう。
「あなた達はどちらへ? 私達はこれから、お茶をしに参りますの」
「奇遇ですね、私達は今お茶をしてきたところです。ブルタニア侯爵家とリリズ伯爵家から頂戴したお茶菓子でドレスとスーツの完成と結婚式をお祝いしました」
「私達もこれからですわ。家宝のジュエリーを見事に作り変えできたでしょ? そのお祝いと上手にサポートしてくれたフィオールに私からも労いをとね。おっほっほ!」
マスタージュエラーは誇り高く笑った。
フィオールさんも嬉しそうだ。
マスタージュエラーとフィオールさんの服装
まずはマスタージュエラーから服装チェック。
すっきりとしてカチッとしたスクエアネック。
胸元のリボンブローチと肩のパフとアンブレラスリーブが可愛く豪華だが。
作りも色も全体的に落ち着いているドレスだ。
アクセサリーもティアラとイヤリングのデミ・パリュールは前回のより宝石が小さめ。ブレスレットも一つ、指輪は沢山嵌めているがどれも宝石は小ぶりだったりリングだけだったり控えめで。
お茶をする目的とフィオールさんという落ち着いたお茶相手に合わせた装いのよう。
それでもベージュとグリーンのアースカラー (自然色)がエルフのフィオールさんと調和していて彼を想って選んだであろうマスタージュエラーの心遣いが伝わってくる服装だ。
お次はフィオールさんの服装をチェック。
襟元を少し開けているワイシャツ。
遠目には見えないが細かい織模様の美しいウェストコート。
金糸で蔓草模様が刺繍がされたラペルとカフスが豪華なネイビー (濃紺)のアビ (コート)と同色のトラウザーズ。
こちらもマスタージュエラーの貴族の身分に合わせた装いで前回の作業着とはガラリと変わっている。
アクセサリーの指輪も試作品から完成品になっている。細かい模様と重厚さのある彫金リングだ。
高貴さと落ち着きで整えられたスタイルのなかにも、くだけたシャツにマスタージュエラーとの親しい仲とお茶の堅苦しくない気軽さがあらわれている。
フィオールさんのエルフ族は自然体を好み堅苦しい服装を嫌うのもある。それでも相手に合わせた身だしなみは心得ている、そんな姿だ。
説明を省いた簡単な名前はドレスアップ、盛装、お茶の装いだ。
二人が一仕事終えてお茶をする姿が目に浮かぶ。
羨ましくなる宝飾ギルドのバディだな。
「本当に、お二人共に見事な技術で、ブルタニア様とリリズ様の理想通りのジュエリーになっていました。さすがでございます。マスタージュエラー、フィオールさん」
惜しみなく称賛のスマイルを捧げよう。
「ありがとうございます、ユルクさん」
「おほほ、服屋、あなたも見事でしたわよ」
「私もですか」
マスタージュエラーは嘘偽りない眼差しをくれた。
「ええ、あなたも。正直言いますと、あの様な大仕事をあなたのような町の服屋から依頼されて大丈夫かしらと思っていたのよ。マスターの店の代わりに引き受けたという事情があったとしても、仕事の進み具合や結果はあなたの実力次第ですものね。上手にできるかしらと一抹の不安を抱いていましたの」
「そうだったんですか、ご心配おかけしました」
まぁ、上手くいった後だし笑って頭をさげておこう。
「おほほ、心配などいらなかったですわね。貴族の望み通りに注文の品を用意できるだけでなく、トラブル客への対応も毅然としていらして見事でしたわよ」
「ルシル様とフレグリス様ですね、本試着に乱入してきた」
「そうそう、あの二人ですわ」
フィオールさんも話を聞いているようで深刻な顔になった。
マスターにも二人の乱入事件は話してある。
全員でトラブル客のヤバさを再び共有した。
「あのような貴族の強引さ、わがままに引き下がらず、一人の客として対応して退店させたこと素晴らしかったですわ。ああ強気でなければ大事な御客様と店は守れませんものね。おっほほほ!」
マスタージュエラーと一緒に高笑いしたい気分だ。
せめて、笑ってうなずいておこう。
「おっしゃる通りだ。ユルクは立派に依頼を完遂してくれた。俺も誇りに思い一目置いたよ」
マスターまで誇り高い笑みをくれた。
感激だ、心を込めて礼をしよう。
「ありがとうございます」
「本当に素晴らしい服屋仲間ですわね、ユルク•ドレスアップは! マスターグランツ、貴族のわがままに嫌気がさして "ドレスを作らない "なんて泣き言を言っていたあなたより、余程 "泥臭い根性" がある方ですわよ。おっほっほ!」
「全くその通りだな。俺が見習わなければならない、貴族街に店を出して忘れていた大事な泥臭さと根性を思い出させてくれたよ」
そんな、マスターが私を見習うなんて。
泥臭いというのが引っかかるが。貴族街で聞く貴族令嬢達からの褒め言葉にしては美しさに欠けてる。
フィオールさんも "これが泥臭い根性の人か" と言いたげにしげしげ見つめてきてるし。
まぁいい、褒め言葉には違いない。
商人が成り上がるのに必要なスキルだ。
「ありがとうございます」
もう一度、深々と礼をしておこう。
「これからも泥臭い根性を忘れずに参ります」
「頼もしいぞ」
「いいですわね、そのお気持ち」
二人のマスターは満足そうなスマイルをみせた。
こんなに認めてもらえるとは達成感が増幅するし、やる気もみなぎってきた――!
「フィオール、あなたも素晴らしかったですわよ」
マスタージュエラーは隣にも目を向けた。
「ごめんなさいね、あなたより先に服屋を称えることになるなんて思いませんでしたわ。わかってくださるでしょ? ジュエリーと服は密接な関係、私達の作り上げたジュエリーがどのような服屋の服と共に御客様を飾るか、とても重要なことなのですわ」
フィオールさんは穏やかにうなずいてくれた。
「はい、今回のことでよくわかりました。ユルクさんがトラブル客を防ぎ無事にジュエリーと御客様を守ってくださったことからも。信頼できる仕事仲間ですね」
「その通りですわ。もしかしたら、マデリカがソフィアからジュエリーを奪い取っていたかもしれませんものね。まぁそんなこと、服屋が防げなかった場合は私が体を張って防ぎましたけれど。おっほほほ!」
防げるだろうな、マスタージュエラーなら。
本当に頼もしい宝飾ギルドマスターだ。
「おほほ、本当に素晴らしい仕事ができましたわね。これからもよろしくお願いいたしますわ、服飾ギルドの服屋様達」
「よろしくお願いいたします」
改めて四人で信頼と契約のスマイルを交わした。




