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第7話「補助魔法がもたらす奇跡の勝利」

 盗賊団との戦いから一夜。

 村は静けさを取り戻していたが、人々の胸に芽生えたものは昨日までと違う。

 不安と怯えではなく――「やればできる」という確かな自信だった。


「アルト様、柵の補強が終わりました!」

「畑も大丈夫です。芽は無事に伸びてます!」


 報告に走り回る若者たちの声は明るい。

 昨日まで頼りなげだった顔が、今は誇りに満ちている。


 さらに驚くべきことがあった。

 戦いのあと村に残る道を選んだ数人の盗賊が、鍬を手に畑に立っていたのだ。


「おい、もっと深く掘れ。根が張りやすいようにな」

「へっ、元盗賊の俺が農作業かよ……だが悪くねえな」


 村人たちは最初こそ警戒した。だが、アルトの言葉を思い出したのだ。


――人を選ぶのではなく、選ばせる。


 その選択に責任を持つのは、自分たちも同じだと。

 こうして、昨日まで敵だった者たちが村の仲間として汗を流す姿は、人々に大きな感動を与えた。


 夕暮れ時、俺は畑を見回りながら心の中でつぶやいた。


「……これが、俺の補助魔法の本当の価値なのかもしれない」


 剣で魔物を倒すより、力で人を屈服させるより――

 人々の力を引き出し、希望を生み出す。

 それこそが、俺にしかできない“奇跡”なのだ。


 その夜、焚き火を囲んでの食事の最中。

 ひとりの若者が立ち上がり、声を張り上げた。


「みんな聞け! 俺たちは魔物にも盗賊にも勝った! アルト様が導いてくれたからだ!」


 人々は一斉に頷き、声を合わせる。


「アルト様、万歳!」

「英雄アルトに感謝を!」


 思わず頬が熱くなる。

 俺はただの追放者だ。

 だが、この村では確かに必要とされている。


「……ありがとう。けれど、俺ひとりの力じゃない。皆が勇気を出したから勝てたんだ」


 そう言うと、さらに大きな拍手が広場を満たした。


 だが、その幸福な時間を切り裂くように。

 翌朝、村の入口に見知らぬ馬が二頭現れた。


 青い外套を羽織った男が馬から降り、冷ややかな視線をこちらに向ける。

 胸元には――見慣れぬ紋章。


「王都からの密使である」


 その声は広場に重苦しく響いた。

 村人たちの顔が一斉にこわばる。


「ここに、“追放された補助術師”がいると聞いた。アルト・グランヴェル。お前に通達がある」


 俺はゆっくりと前に出る。


「……通達?」


 男は口元に冷たい笑みを浮かべた。


「この村で得た土地も人も、すべて王国のものだ。勝手な支配は許されない。抵抗すれば――反逆と見なす」


 村人たちの怒りと不安が入り混じった声が広がる。

 その中心で、俺は密使の瞳を真っ直ぐに見返した。


「……やはり来たか」


 背筋を冷たい風が撫でた。

 “青の外套”の影は、もう目の前まで迫っている――。

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