表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/15

第5話「自給自足の畑作りとスローライフ開始」

 変異狼を討った翌日、フィオラの村は静けさを取り戻していた。

 村人たちの顔に浮かぶのは安堵と、未来へのわずかな希望。

 だが、柵は破れたままで、倉庫に残る食糧も心許ない。


「戦えたのはいい。でも、このままじゃ村は長く持たないな……」


 俺は村長の家で地図と睨み合っていた。

 村長は深いため息をつき、首を横に振る。


「食糧の備蓄はあと一月が限界じゃ。森は魔物が多すぎて狩りに出られん。畑も荒れ果てて……」


 ――なるほど。

 剣で魔物を倒すだけじゃ、この村は救えない。

 生き延びるためには、“土台”を作らねばならないのだ。


「畑を復活させよう」


 俺の提案に、村長と周囲の村人たちは目を見開いた。


「畑を……?」

「でも、荒れ果てた土地では……」


「俺に任せろ。補助魔法は戦闘だけのものじゃない。土を整え、作物を育てることだってできるんだ」


 村人たちが顔を見合わせる。

 それは半信半疑だったが、希望を見出した瞳でもあった。


 翌日。

 俺は村人たちを連れて、雑草に覆われた放棄畑に立った。

 硬い土を鍬で掘り返す若者たちの顔は、汗に濡れて苦しげだ。


「こんなんじゃ、とても……」


「【支援魔法・大地の息吹アースブレス】!」


 俺は地面に手をかざし、魔力を流し込む。

 瞬間、乾いた土が柔らかく解け、黒々とした肥沃な土へと変化していった。


「な、なんだこれは……!?」

「まるで森の奥の肥沃な土地みたいだ!」


 驚く村人たちをよそに、俺は続ける。


「【支援魔法・水脈開放アクアライン】!」


 畑の中央に透明な水が湧き出し、自然と小川のように流れ始める。

 村人たちの歓声が響いた。


 数日後。

 芽吹いた緑が畑一面に広がり始めた。

 村人たちは毎朝畑を見に来ては笑顔を見せる。


「アルト様、これで腹いっぱい食べられる日が来るんですね!」

「子どもたちに、もう飢えさせずに済む……!」


 誰もが声を弾ませ、労働の疲れすら誇りに変えていた。

 俺は土の匂いを胸いっぱいに吸い込み、ふと笑った。


「……これだ。俺がやりたかったのは」


 戦いじゃなく、人々と共に生きること。

 補助魔法で築く、ささやかな暮らし。


 その瞬間、胸の奥に確かな幸福感が広がった。


 だが、安らぎの影には必ず不穏が潜む。


 ある夜。

 焚き火の傍で休んでいると、村長が深刻な顔で近づいてきた。


「アルト様……噂を耳にしました。王都の騎士団が、この村を調査に来るやもしれません」


「王都の……?」


「追放された者が、辺境で英雄のように扱われている――その話が、どうやら広まってしまったようで」


 胸の奥がざわめいた。

 俺を追い出した王都の連中が、この村に目をつける?


 補助魔法で得たこの居場所を、再び奪おうとするのか――。


 焚き火の火花が弾け、闇に消えた。

 俺の平穏な日々が、そう長くは続かないことを告げているように思えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ