第15話「限界を超えた補助魔法」
六本の腕を持つ異形の主は、なおも猛威を振るっていた。
柵は粉砕され、地面は割れ、村の広場は戦場そのもの。
「【支援魔法・防御結界】!」
俺が展開した結界は、赤い眼光に照らされた瞬間、霧散した。
見抜かれ、打ち消されたのだ。
「くっ……!」
膝が震える。
魔力はすでに限界を超えつつある。
だが、倒れた瞬間にすべてが終わる。
「アルト様! もう魔力を使いすぎです!」
ロイが叫ぶ。
「やめてください! 死んでしまいます!」
女たちの声が続く。
だが、俺は首を振った。
守りたいものがある以上、立ち止まるわけにはいかない。
「俺は――英雄なんて呼ばれる資格はない。ただの追放者だ。
だが、この村が俺を必要としている限り……俺は立つ!」
異形の主が再び六本の腕を振り下ろす。
その衝撃をまともに受ければ、広場ごと吹き飛ぶだろう。
俺は深く息を吸い込み、詠唱を重ねた。
「【支援魔法・防御結界】と――
【支援魔法・衝撃吸収】、さらに――
【支援魔法・反響の幕】、全部……重ねろ!」
光が幾重にも絡み合い、巨大な多層結界を形作る。
六本の腕がそれを叩きつけた瞬間、衝撃は吸収され、反射され、さらに結界の外へと逃がされた。
轟音と共に大地が揺れ、異形の主の巨体がよろめく。
「……やった……!」
「効いてる!」
俺はさらに詠唱を続ける。
体の芯が焼けるように熱く、視界が赤黒く染まる。
だが、それでも止めなかった。
「【支援魔法・身体強化】、【支援魔法・集中力上昇】、【支援魔法・勇気の旋律】――
全部重ねて、全員に流せ!」
村人たちの身体が一斉に光に包まれた。
槍を握る手に力が宿り、震えは消える。
弓を引く瞳に迷いはなく、狙いは一点に絞られる。
「これが……アルト様の、魔法……!」
「俺たちが、一つになってる……!」
村人たちの雄叫びが広場を揺らした。
異形の主が吠え、瘴気を爆発させる。
だが俺は叫ぶ。
「怯むな! 俺が支える! お前たちの力は、全部俺が繋ぐ!」
全員が一斉に動いた。
槍が突き出され、矢が放たれ、斧が振り下ろされる。
その全てが補助魔法によって強化され、異形の肉体を穿つ。
「ぐぉぉぉぉぉぉぉぉッ!」
異形の主が呻き、膝をついた。
瘴気が乱れ、赤い眼が一つ、砕け散る。
だが、俺の身体も限界に達していた。
血の味が口に広がり、視界が揺れる。
それでも剣を握り、声を張る。
「最後の一撃を……俺に託せ!」
村人たちの視線が集中する。
誰もが頷き、武器を掲げた。
「アルト様に――託す!」
その声が一つに重なった瞬間、俺は全ての魔力を解き放った。
「【複合補助魔法――英雄の光】!」
村人たちの力が一本の光となり、俺の剣に収束する。
眩い輝きが夜を裂き、異形の主の胸を目掛けて走った。