第12話「支援魔法の限界と突破口」
怒号、金属の衝突音、獣の咆哮。
村の北門は、もはや戦場というより地獄だった。
「【支援魔法・全体治癒】!」
俺の詠唱に応じて、光が広がり、傷ついた者たちの身体を癒していく。
だが、同時に胸の奥から熱が溢れ出す。
魔力の消耗が速い。汗が額を伝い、視界が霞む。
(……まずい。この調子じゃ、長く持たない)
魔物の群れはなお押し寄せる。
倒しても倒しても数が減った気配がない。
槍を握る若者たちの腕は震え、矢筒も次第に空になっていく。
「アルト様! もう限界です!」
「このままじゃ、押し潰される!」
焦りの声が飛ぶ。
だが、俺は必死に声を張り上げた。
「まだだ! あと一歩だけ踏ん張れ! その一歩が命を繋ぐ!」
自分に言い聞かせるように、必死で叫ぶ。
その時だった。
柵の上から石を放っていた子供たちのひとりが、声を上げた。
「アルト様! 南の川沿いに……魔物が流れていく!」
「……何?」
急いで視線を向ける。
確かに、群れの一部が北門を避け、南側へと流れていた。
そこには、川沿いに掘った小さな排水路がある。
普段は畑に水を引くためのものだ。
(あそこは……細い道で狭い。魔物が殺到すれば詰まる!)
突破口が頭の中で閃いた。
「よし、南へ誘導する! ロイ、十人連れて動け!」
「了解!」
猟師ロイが仲間を率いて走る。
俺はすぐに魔法を発動した。
「【支援魔法・風導】!」
風の流れを操り、魔物の鼻先へ血と煙の匂いを送り込む。
嗅覚を狂わされた群れは、怒涛の勢いで南へ向かい始めた。
「塞げ! 水門を開け!」
村人たちが排水路の水門を叩き壊す。
川の水が一気に流れ込み、狭い通路を埋め尽くした。
押し寄せた魔物の群れが足を取られ、次々と転げ落ちる。
「今だ! 火矢を放て!」
炎が川面を走り、濁流に揉まれた魔物を飲み込んでいった。
爆ぜる音と焦げ臭い匂い。
村人たちの顔に、久々の勝利の色が浮かんだ。
「やった……! これで押し返せる!」
「本当に……本当に勝てるかもしれない!」
歓声が上がる。
だが、その瞬間、俺の背筋を冷たいものが撫でた。
森の奥。
黒い霧のような瘴気が立ち込め、その中心から巨大な影が蠢いていた。
「……まだ終わってない」
炎に照らされるその姿。
無数の腕を持つ異形の魔物――まるで瘴気そのものが形を取ったかのような“主”が、ゆっくりと立ち上がっていた。