第11話「迫り来る百の魔影」
森の奥から、地鳴りのような唸りが広がっていた。
枝をへし折り、土を震わせ、黒い影が次々と現れる。
「な、なんて数だ……」
「百は下らねえ……!」
村人たちが息を呑む。
狼型の魔物、猪のような突進型、羽を持つ影まで混ざり、怒涛の勢いで迫ってくる。
だが俺は冷静だった。
この瞬間のために準備してきた。
恐怖を押さえ込み、声を張り上げる。
「全員、配置につけ! 予定通り“北門”へ誘導する!」
村の入口には、わざと柵を低くした場所を設けてある。
魔物はそこを“弱点”と見て群れごと殺到するだろう。
だが、それこそが俺たちの狙いだ。
「罠班、準備!」
「矢筒、火打石よし!」
若者たちが慌ただしく動く。
子供たちも鐘の縄を握りしめ、緊張に震える手を必死に抑えていた。
最初に突っ込んできたのは、牙を剥いた狼型。
十体ほどが同時に飛びかかってくる。
「今だ――【支援魔法・鉄壁の守護】!」
前列に結界を展開。透明な壁が衝撃を吸収し、村人たちを守る。
その隙に槍の先端が突き出され、狼が次々と倒れる。
「押すな! 引け! 隊列を崩すな!」
俺の声に合わせ、訓練通り村人たちは半歩引き下がる。
槍を失えばすぐに別の者が前に出る――連携が生きていた。
だが、それは序章にすぎない。
後方から、猪型の魔物が十数体、土煙を上げて突進してきた。
大地が揺れ、柵がきしむ。
「杭を外せ! 今だ!」
合図と同時に、村人たちが縄を引く。
北門に仕掛けた杭が倒れ、狭い通路が露わになる。
猪たちは勢いのまま雪崩れ込み――
「【支援魔法・地脈共鳴】!」
俺が大地に手を当てると、通路の土が震え、崩れた。
猪の巨体が次々と足を取られ、穴へと落ちていく。
土煙と絶叫が響き、残りの群れは混乱した。
「今だ、火矢を放て!」
女たちが火を灯した矢を一斉に射る。
油を染み込ませた布が燃え上がり、魔物の背を焼く。
炎に驚いた翼の魔物が空へ逃げようとした瞬間――
「【支援魔法・風壁】!」
俺は空へ風の壁を張った。
翼を広げた魔物たちが風に弾かれ、地面へ叩きつけられる。
そこへ槍と石が雨のように降り注ぎ、次々と息絶えていった。
だが、群れは止まらない。
森の奥から、さらに影が溢れてくる。
「まだ……これで半分だと……!?」
若者の顔が蒼白になる。
「怯むな!」
俺は怒鳴った。
「ここを越えさせるな! 俺の補助がある限り、お前たちは倒れない!」
その声に呼応するように、村人たちが一斉に雄叫びを上げる。
槍を構え、矢をつがえ、盾を握る。
――総力戦の幕が、ついに上がった。