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第10話「大規模魔物襲撃戦の前触れ」

 その気配を最初に感じたのは、猟師のロイだった。

 夜明け前、森の獣道を巡回していた彼は、異様な静けさに足を止めたという。


「鳥の声も、虫の音も、何ひとつなかったんだ。まるで森全体が息を潜めているようで……」


 報告を受けた俺は眉をひそめた。

 森に潜む気配は、確かにただの魔物ではない。

 大きな力が、何かを呼び寄せている――そんな不穏な気配が、村を覆っていた。


「アルト様、畑の柵をもっと高くすべきでしょうか?」

「子供たちは地下倉庫に避難させますか?」


 村人たちの声は震えていた。

 王都騎士団の影に怯えていた矢先、今度は森からの脅威。

 不安が積み重なり、広場の空気は張り詰めていた。


「慌てるな」

 俺は手を挙げ、皆の視線を受け止める。

「魔物の群れが来るのは確かだ。だが、俺たちには準備する時間がある」


 その言葉に、人々の呼吸が少しだけ整う。


 俺は村長と幾人かの若者を集め、地図を広げた。

 指先で村の周囲をなぞりながら、声を低める。


「東は川、西は崖。守るなら北と南だ。魔物の群れは広がって押し寄せる。全員で受ければ突破される。だから――“一点突破を誘う”」


「一点突破……?」


「こちらから“弱そうな隙”を見せる。狭い路地に魔物を誘い込み、罠と支援魔法で叩く」


 若者たちが息を呑む。

 俺は続けた。


「これは賭けだ。だが、無策で広く守れば全滅する。――勝ち筋は、俺が作る」


 その日の午後。

 村人たちは一斉に動き出した。

 木を切り出し、柵を補強し、落とし穴や杭を仕掛ける。

 女たちは矢を削り、布に油を染み込ませて火矢を準備する。


 そして、子供たちにまで役割が与えられた。鐘を鳴らすこと。水を運ぶこと。声を上げて仲間に合図を送ること。


「アルト様、本当に子供まで……」

 村長が不安げに漏らす。


「戦わせるんじゃない。生き残るために“居場所”を作ってやるんだ」


 そう言いながらも、胸の奥は重かった。

 だが選んだ以上、引くことはできない。


 夜。

 広場に焚き火が灯り、疲れ切った村人たちが腰を下ろす。

 火の粉を見つめながら、俺は彼らに言った。


「恐れるのは当然だ。俺だって怖い。だけど、思い出してくれ。俺たちは魔物にも盗賊にも勝った。なぜか――“皆で”戦ったからだ」


 人々の視線が集まる。

 俺は拳を握り、声を強めた。


「俺がいる限り、誰も見捨てない。支援魔法で全員を支える。だから最後まで戦い抜こう」


 その言葉に、村人たちの瞳に光が戻った。

 「はい!」と声が重なり、炎が夜空を照らした。


 翌朝。

 偵察に出ていたロイが駆け戻ってきた。

 その顔は蒼白だった。


「……来る。森の奥に、百を超える気配がうごめいてる!」


 広場が凍り付く。

 大規模な魔物襲撃――その前触れは、確かに迫っていた。

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