第1話「役立たずの烙印」
王都の広間には、緊張と嘲笑が入り混じっていた。
玉座の前で、俺――アルト・グランヴェルは冒険者仲間たちに取り囲まれている。
「アルト、お前の【補助魔法】なんて、誰でもできる下位スキルだ。もう要らない」
剣士のリーダー、ダリウスが冷たく言い放った。
彼の手には俺と交わした冒険契約書があり、豪快に破り捨てられる。
その音は、俺の未来が断ち切られる音に聞こえた。
「でも、俺がいたからこそ全滅せずに済んだはずだ。毒も呪いも解除したし、攻撃力も倍増させて――」
「言い訳か? ただの裏方じゃねえか!」
「そうだそうだ! お前の魔法なんて、気休め程度よ!」
仲間たちは口々に罵声を浴びせる。
昨日まで笑い合っていた連中が、まるで最初から俺を疎んでいたかのように。
王都の冒険者ギルド長すら、眉をひそめて言った。
「アルト、お前は“凡庸”だ。もっと華やかな者はいくらでもいる。……追放は妥当だろう」
――ああ、俺は本当に役立たずなのか。
胸の奥がきしむ。
けれど、同時にふと笑みがこぼれた。
「わかった。じゃあ出ていくよ。……その代わり、二度と俺を頼るなよ」
その一言で、広間がざわめく。だが俺は振り返らない。
王都を離れ、馬車に揺られる。
行き先は、地図の隅に小さく記されていた辺境の村フィオラ。
魔物の被害が絶えず、王都からは見捨てられていると噂の土地。
だが、そこにこそ俺の居場所がある気がした。
「……ようやく静かに暮らせる」
道中、俺は小さく呟いた。
人々を助けたい、戦場の最前線で役立ちたいと願っていた昔の自分はもういない。
これからは畑を耕し、必要なら小さな魔法で隣人を助ける。
そんなささやかな生活を夢見ていた。
――けれど、運命はあまりに皮肉だった。
村へ着いた俺を出迎えたのは、疲れ切った表情の村人たちだった。
老人が震える声で言う。
「た、助けてくれ……魔物が……森から押し寄せて……!」
見れば、村の柵は壊れ、負傷者が運び込まれている。
癒やし手はおらず、皆が絶望に沈んでいた。
「補助魔法しか……使えないんだが」
俺がためらいながら言うと、老人は必死に縋りついた。
「いいんだ! どんな魔法でもいい、力を貸してくれ!」
その瞬間、俺の胸に再び火が灯る。
裏切られ、見放されたはずの力。だが、求める者がいるのなら――。
「……わかった。俺に任せろ」
俺は立ち上がった。
そして――村の空気が変わる。
俺の【補助魔法】が発動し、傷を負った者たちが一斉に呼吸を取り戻す。
戦える若者の瞳に光が戻り、村の剣士たちは驚愕する。
「こ、これは……体が軽い……!」
「痛みが消えた……!?」
俺は小さく笑った。
「役立たず? ――なら見せてやるさ。本当の補助魔法ってやつを」
こうして俺の、辺境から始まる物語が幕を開けた。