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宵闇に奔る

                                   ・


 残照の西空に浮かぶスベニール市街へと向かって皇女一行が遠ざかって行く。

マルグリッドは我々プレイヤーに多少の興味を抱いているように見受けられた。

当然のことだろう。

攻略組プレイヤーには非常に強力な者達もいる。

味方であれば頼もしく、敵であれば厄介な存在となるのは必定だ。


 だがこのデルモニアでは国家間での戦闘(戦争)は存在しない。

先に述べたようにFQにはストラテジー要素が欠落しているからだ。

プレイヤーが特定の国家から軍事的な支援や参戦を強いられる事はない。

故にプレイヤーは戦闘と無縁でいることも可能なのだ。




「さて、少し走るとしますかね」

皇女達の姿を路上にて暫し見送った私は東へと向き直った。

まだ時間は残されている。

今日中に東部国境を越えてしまおう。

国境砦までは20km程だろうか。 "疾駆" を使えば十分可能だ。

私は東方の稜線に向けて駆け出した。



 麦畑の中の道を全力疾走する。 

これまで鍛錬を怠って来た疾駆スキルだがこの機会に上げておくのも悪くない。

帝国西部国境手前で山賊達に襲われた時の記憶が脳裏に蘇る。

険しい岩山の峠道と比べれば田園地帯の街道など競技場のトラックと大差ない。

前方に靡いていた麦穂が左右に分かれ後方に流れて行く。

当初は二十秒程だったスキルの持続時間が徐々に伸びて来ているようだ。


 麦畑を抜けた。

街道の両側が草原に変わった。 国境の稜線が近付いている。


( 暗くなる前に着けるかな )


 残照の消えた日没後の街道を只管走りながらそんな事を思った。

東方の稜線上には茜色の輝きを失った雲が藍色の空に浮かんでいる。

スキル(疾駆)が有効となる度に全力で駆け既に二か所のマウンドを通過した。

もう国境までマウンドは無い。

何れにしろ国境砦までは辿り着かないと距離が無駄になってしまう。

走り切ってしまおう。


 改めてそう決意したところでスキルの効果が切れた。

インターバルの間も脚を止める事なくジョギングペースで走り続ける。

帝国領内の街道に魔獣が出現するのは稀だが闇が降りる前に着いておきたい。




 街道の先、東の山並みの麓に国境砦の灯りが視認できる。


( もう少しだ )


 スキル(疾駆)が復活した私は再び全力疾走に入った。






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